つばさをもった ひかりのもの

きし あきら

つばさをもった ひかりのもの

 かなたにそらがありました

 つばさをもった ひかりのものは

 はるかな宙をゆきました


 宙はかさなる色でした

 やわつちの

 みどりごの

 ももはだの

 いくそうの そのうえに

 やみがあり

 みついろの

 ほしも いくつかありました

 宙はなゆたの色のはて

 やがて ましろくなりました


 つばさをもった ひかりのものは

 ようやく すこし考えました


 背なかにもった わたくしの

 みぎのつばさを さいわいという

 いち枚ずつの羽根それぞれが

 ひらいた花と抱擁ほうようである


 こんなに旅がすぎるうち

 ひかりのものは みんなきえ

 わたくし ひとりになりはした……


 つばさをもった ひかりのものは

 そうして もいちど考えました


 背なかにもった わたくしの

 ひだりのつばさも さいわいという

 いち枚ずつの羽根それぞれが

 かわいたうそむちの音


 こんなに宙をぬけるうち

 つばさのものは みんなきえ

 わたくし ひとりになりはした……


 そうして こうも言えるのだ

 背なかに両のつばさをもった

 これが もっともさいわいである

 みんなのひかりと つばさとが

 いち枚ずつの羽根それぞれ……


 いく層もの色のはて

 宙をきたより はるかな時を

 つばさをもった ひかりのものは

 ひとりで だまっておりました


 宙をきたより はるかな旅の

 ましろい心の そのために

 つばさをもった ひかりのものは

 ましろい十字になりました

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