第151話 嵐のひとときの珍客

 おかげさまで、遂に『日替わり寝泊りフレンド』累計100万PVを達成いたしました!

 本当に感謝しかありません。ありがとうございます!

 まさか、こんな100万いくとは夢にも思っていなかったので正直驚きしかありません。


 これからも、たくさん寝泊って、ぷはぁーしてパフっていきますので、よろしくお願いします!



 さばりん


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 目覚ましのタイマーをセットし忘れていたため、三人ともすっかり寝坊してしまった。

 寝坊と言っても、何とかそれぞれ時間的には間に合いそうな時刻に起きたため、三人とも急いで支度を済ませて、各々家を出て行った。


 結局、どちらが気持ち良かったか……じゃなくて、どちらの方が俺に対して好意を感じたかの優劣を判定する暇もなく、有耶無耶のまま二回戦も終わってしまった。


 今日は木曜日。

 大学の授業と明日あす提出の課題を終えて、帰路へとついていた。


 今日は珍しくご両親と一緒に夕食を楽しむということで、普段泊まりに来る萌恵は寝泊りに来ていない。

 萌恵の家庭の事情により、萌恵VS愛梨さんの対戦は、明日の金曜に持ち越しとなっていた。

 まあどっちみち、二人が泊まりに来るのには変わりないんだけどね。


 今度はどんなウハウハが待ってる……じゃなくて、どんな災難が待ち構えているのだろうか。

 三戦中二戦は、なんやかんやで俺がいい思いばかりして、引き分けという形になっているけれど、三戦目は勝負の発案者愛梨さんがいる。優劣をつけないという曖昧な答えは許されないだろう。

 さらに言えば、愛梨さんが何をしでかしてくるか分からないので、一筋縄でいかない雰囲気を前日からプンプンと漂わせていた。


 萌恵にとっては酷な話である。

 萌恵と俺の関係は、恋愛感情というよりも、色々家庭の事情から始まって悩みを相談して、そこからなんやかんやで耳掛けフーフーの関係性になってるだけで、仲のいい友達であることに変わりはない。

 にもかかわらず、萌恵にとっては何のメリットもない勝負をいきなり優勝候補と争わなくてはならないのだから。

 例えるなら、弱小でスケットを借りて大会に出てきたチームが、初戦でいきなり全国大会出場レベルの強豪校と当たってしまうレベルで可哀想。

 コールド負けまでありうるからこわい。


 とまあ、萌恵を心中で慮りつつ、嵐の前のひとときを一人過ごして、寝る支度を整えていると、ピンポーンとインターフォンが鳴った。


 こんな夜遅くに誰だろう?

 まさか、優衣さんが昨日の勝負じゃ飽き足らずに……なんて思いつつ、ドアミラーから覗き込むと、そこには意外な珍客が立っていた。


 扉を開けると、目の前に立っている珍客が元気な調子はずれの声を出してくる。


「やっほー! 大地! 元気!?」

「詩織!? なんでいるの!?」

「えぇ?? らってぇー今日は誰も泊まりに来てにゃいんでしょー? 泊めてよぉー」


 ゆらゆら酔狂のように身体を揺らしている詩織。どうやら酔っぱらっているらしい。


「いやっ、自分の家帰れ」

「えぇーそんな冷ちゃいこと言わないれよー。サービスしてあげるからさー」


 からかうような笑みで、ちらっと胸元を見せつけようとしてくる詩織。


「じょ、冗談はよせ!」

「あはっ! 動揺しちゃってんの、かわいいー! うっそーだよぉー」

「う、うぜぇ……」


 酔っぱらった健太並みにダル絡みしてくる詩織を見て、思わずこめかみに手を当ててしまう。


「んなっ? うざくないしー! それに……ちょっとは本気だよ? ほらぁー!」


 ゆらゆらと身体を揺らしながら俺の元へダイブしてくる詩織。

 俺は慌てて詩織の身体を抱きとめる。同時に、酒臭い匂いが鼻腔を刺激してきた。


「おい、詩織……」

「らってー、私の慰め会してくれるって前いってたじゃんー」

「あれは……嘘から出たでまかせというか……」

「それにぃー。私だけ勝負してないけど、泊れないってのも不公平っしょー? 私だってワンチャンあるかもしれないのにぃー」

「どういうこと? もしかしてお前、実は俺の事密かに狙ってる?」

「ないないー! ただ、安心して男に寄り添ってほしいだけぇー。温もりが欲しいのぉ。あーでも、なんならそのまま私のこと抱いちゃってもいいよ? 大地だけに? あはははははっ!」


 ダメだこりゃ。完全に酔っぱらって何言ってるのかさっぱり分からん。


「ねぇーいいでしょー? ほれほれーって、あれぇー? 大地のちょっと勃ってないー?」

「たっ、勃ってない!」

「ほんとにぃ? スリスリィー」


 詩織は確かめるように、自らの下腹部を俺の股間に押し当ててくる。

 ……たとえ欲情してなくても、下の方は勝手に反応してしまうだけです。

 

 ニヤニヤとした笑みを浮かべて、ウリウリと言いながらスリスリしてくる詩織。

 詩織のペースに持っていかれる前に、スマートに躱すことにした。


「はい、いいから、いいから。そこに座って待ってなさい」

「何、襲ってくれるのぉー?」

「ちげぇよ! どんだけ欲求不満なんだお前は! 水持ってくるだけだ」


 抱きとめていた詩織の身体をゆっくり下ろして、玄関のところに腰かけさせる。

 俺はキッチンへと向かい、コップに一杯の水を注いで詩織の元へ持っていく。


 詩織の元へ戻ると、今にもぐでーんと寝転がりそうに身体をふにゃふにゃと揺らしていた。

 俺は咄嗟に詩織の背中の後ろに足を入れて、身体を支えてあげる。


「ほら、水。飲めるか?」

「んーやだ」

「おい……」

「へへっ、大地が口移しで飲ませてぇー?」

「バカ言うな。ほら、とっとと飲む」

「ちぇーつれないのぉー」


 ぶつくさ文句を垂れ流しつつ、詩織は俺からコップを受け取ってゴクゴクと水を飲んでいく。


「うえぇぇ……なにこれ? なんも味しない」

「水だから当たり前だろ」

「えぇ―? 大地お酒はー?」

「生憎切らしてる。ってか、そもそも買ったことない」

「えぇー!? もったいないよ。もっと酒に呑まれないと」

「呑まれたらダメだろ……」


 こうして詩織や優衣さんを見てると、絶対に酒に呑まれないようにしようと自分を戒めることが出来る。いい意味で反面教師だな。



 ◇



 しばらく詩織の良く分からない戯言に付き合っていると、ようやく酔いがさめてきたのか、詩織がはっと我に返ったように当たりを見渡した。


「んぁ? あれ? どうして私、大地の家にいるの?」


 詩織は驚いたように辺りをキョロキョロと見渡している。


「お前が勝手に来たんだよ……」

「えっ、マジで!? ごめん、私凄い変なことばかり言ってなかった?」

「あぁ、超言ってたぞ」

「かぁぁぁぁ!!!」


 詩織はやってしまったというように顔を手で覆う。


「こんな醜態晒したの初めてだよ……恥ずかしい」

「ったく、健太の酔い癖嫌ってるくせに、これじゃあ詩織も大概だな」

「マジで何も言えない……」


 詩織は自省しているのか、がっくりと項垂れている。


「家帰れそうか?」

「うーん……まだちょっと気持ち悪いけど大丈夫だと思う。今何時?」


 詩織に聞かれて、ポケットに忍び込ませていたスマートフォンで時刻を確認すると、24時を過ぎていた。


「げっ……0時回ってる」

「嘘!?」


 驚く詩織に、俺はスマートフォンに表示されている時刻を見せてあげる。


「はあぁ……やっちゃった……」


 詩織はあちゃーっと額に手を当てたかと思うと、くるっと身体を俺の方に向けて申し訳なさそうに手を合わせてきた。


「ごめん大地! 泊めてくれる?」

「……残念ながら本日の営業は閉店いたしました」

「そこを何とか、お願いします!」

「隣に優衣さんいるし、優衣さんに頼みなさい」

「えぇ、なんでダメなの!? 前は泊めてくれたのに! それに、他の女の子たちだってホイホイ泊め放題なのに!」

「人聞き悪いこと言うな! まあでもそうだな……これ以上優衣さんの家で犠牲者を出すわけにもいかないし……」

「犠牲者?」

「あっ、いや、なんでもねぇ……ったくしゃーねーな。マジで今日だからな」

「ホントありがとうございます! このお礼は、大地の性欲を私の身体で癒します!」

「ふざけてると外に放り投げるぞ?」

「じょ、冗談でーす。はい、自重します……」


 こうして、詩織が再び宿泊することになった。

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