第147話 詮索と復習拒否

 翌日、俺達は起床して準備を整え、大学の授業へと向かった。


 教室へ入ると、いつも遅刻ギリギリにくる詩織が珍しく先に到着しており、俺たちに手を振ってきていた。


「おはよう」

「おはよう、詩織ちゃん」

「おはおは!」

「早いじゃん、どうしたん?」


 俺が尋ねると、詩織はにやりとした笑みを浮かべる。


「そりゃもちろん、幼馴染vs美人女優の勝負の行方が気になってうずうずしてたに決まってるじゃん!」


 詩織は、今回の好意対決に参戦していなものの、この修羅場染みた勝負の行方を遠目から観戦して楽しもうという魂胆らしい。

 詩織は身体を前のめりにさせて、羨望の眼差しを向けてくる。


「それで、昨日はどっちが勝ったの? 二人とも抱いて寝たんでしょ? もしかして、違う意味でも二人を抱いちゃったとか!?」


 一人で興奮しているところ申し訳ないけど、詩織の期待したような修羅場展開にはなってない。


「あーっ……実は、勝敗つかなかったんだ」

「はぁ!? どういうこと!? ちょっと大地、そこは男らしくちゃんと決めてあげろし!」

「大地君を咎めないで詩織ちゃん! 私達が引き分けでいいよって大地君に提案したの」

「へっ!? なんで!?」

「それは、そのぉ……色々話すと長くなるんだけど……一言で言えば敵は目の前にはいないってことになって」

「はい? どういうこと?」

「二人の敵は愛梨さんだってことだよ」


 俺が言葉を付け足して言うと、詩織は納得したように不敵な笑みを浮かべた。


「なーるほど。つまり、幼馴染と美人女優でタッグを組んで結託したと。それで、二人は大地の心を落とすことはできたのかな?」

「さ、さぁ、どうだろうな?」


 俺は肩をすくめてすっとぼけるように視線を背ける。

 いやぁ……昨日の夜は、二人のおっぱいを堪能して心地よい身体を抱きしめて、身も心も軽やかだよ! 

 なんて、言えるはずもない。


 その後も、詩織は隣に座った綾香に、あれやこれやと追及してたみたいだけれど、綾香は詩織の波状攻撃を軽くあしらって、事の顛末てんまつをはぐらかしていた。

 流石女優……こういう時、とても頼りがいのある綾香なのだった。



 ◇


 平穏な水曜日の授業を終えた。

 俺は一旦家に帰宅して、準備を整えてからバイト先の学習塾へと向かう。


 バイト先へ向かう途中、今日泊りに来る予定の優衣さんへ一報入れておく。


『今日はバイトが終わってからという形になるので、帰ってきたらインターフォン鳴らします』


 これでよしと!

 後は、バイト終わりに愛花を連れて家に帰るだけ。


 今日は優衣さんvs愛花の寝泊りバトルロワイヤルが予定されていた。

 OLおっぱいvsロリJKのスペシャルマッチ。

 これまた、厄介な二人の組み合わせになってしまったなと苦笑する。


 恐らく、春香や綾香のように平和的解決が一番無理そうなペアであり、なおかつ俺に対する肉体的接触色仕掛け攻撃が特に積極的なツートップでもある。

 その二人が合わさった時、どのような勝負になるのか。

 今考えるだけでも、ぞっとしてくる。


 今夜は、色んな意味で二人の波状攻撃に覚悟をきめておいた方が良いかもしれない。


 アルバイト先に到着して、俺は授業の準備を整える。

 いつもの使用している机に座り、事務的な作業をしていると、授業時間ギリギリに、制服姿の愛花がやってきた。

 愛花はまたも急いで走ってきたらしく、息を荒げて滴るような汗を掻いていた。


「よっ……」


 軽く手を上げて挨拶すると、愛花はぷぃっとそっぽを向いて、さっさと机についてしまう。

 えっ、俺何かまずい事したかな……?

 心配になって愛花の方を見つめると、愛花はリュックの中から勉強用具を取り出し始めた。


「昨日は随分とお楽しみだった?」


 抑揚のない声で聞いてくる愛花。

 どうやら、春香と綾香の勝負が多少なりとも気になるらしい。


 しかし、何といえばいいのやら。

『引き分けになった』ともいえんしなぁ……。

 困り果てていると、愛花が呆れたようなため息をついた。


「随分と楽しかったみたいだね、顔にやけてる」

「そ、そんなことはない……ぞ?」

「語尾に躊躇がある。絶対満足。私不満」

「ご、ごめんなさい」


 謝ったところで何か変わるわけではないけれど、謝るしか方法はない。

 だって、正直最高だったとしか感じてないんだから。


「だから、今日は大地の身も心も私にしか向かなくなるくらいメロメロにする予定、覚悟して」


 俺の方を見て、不敵に笑む愛花は、どこか嬉しそうでもあり、これから戦う相手へのメラメラとした闘争心に溢れているような気がした。



 ◇



「はい、復習問題終わり」


 文字通り満点回答の復習問題を返却して、愛花がむんと当然のように胸を張る。


「じゃあ次、大地の復習ね」


 いつもの調子で言ってくる愛花。さぁ、本日も大地と愛花の復習タイムのお時間がやってまいりました。


「……やらなきゃダメ?」

「当たり前。大地は私の教師で私の生徒」


 前回の復習となると、愛梨さんとまさかのブッキングからの姉妹カミングアウト&姉妹同盟を協定した時の復習だろうか?


「確か前回は、お姉ちゃんと取り合いになって、満足した授業が出来なかったから……前々回の復習ね」


 前々回となれば、思い起こされるのは、俺の理性が崩壊寸前で、事案を起こしかけたあの出来事。


「ぜっ、前々回って何だったかなぁー?」

「すっとぼけても無駄。覚えてないとは言わせない……」


 愛花は頬を赤らめて恥じらうように上目遣いを向けてくる。

 理性を失って血迷った俺は、愛花に抱きついて匂いを堪能しながら太ももやお尻をいやらしい手つきで触りまくり、押し倒した挙句、可愛らしい微かな膨らみを帯びた胸元へ顔をすりすりすりすりして、愛花の突起の部分にわざと擦りつけるというとんでもない事案をやらかした。

 うん、起こしかけたとか言ったけど、完全に事案ですね。

 思い出しただけで、あの時自制心を押さえられなかった自分を殴りたい。


「そ、それじゃあ、大地……来て?」


 恥じらいつつ、制服のスカートの裾をつまみ、ゆっくりとスルスル上げていく愛花。真っ白でなめらかな愛花の生足があらわになっていき、俺は視線が釘付けになってしまう。


「こないの?」


 キョトンと首を傾げて、窺うような視線を向けてくる愛花。

 俺は思わず生唾をごくりと飲み込んでしまう。


「いや、待て。あれは流石にまずいだろ……」


 俺が視線をそらして手で制止すると、愛花が不機嫌そうに頬を膨らませた。


「大地、復習」

「……あれは勉強範囲外だった。復習する範疇はんちゅうには含まれない」

「そんな戯れ言言ってると、ここで追加学習してもらうよ、いいの?」

「なら、愛花の学習量も増やすぞ?」

「それは却下」

「いやっ、一応お前受験生なんだから、それくらいは勉強せい」

「話を勉強の話にそらそうとしても無駄。もういい。追加学習決定」

「ちょっと待て! わかった。復習するから……」

「もう遅い。それに、今日は勝負の日。対戦相手登場の前に先手を打っておくのも作戦」

「先手も何も、愛花は愛花で魅力的なんだから、そんなことしなくても……」

「だめ、それじゃあ私は勝てない。だから、私は私なりに正々堂々勝負する」

「正々堂々って、先手打ってる時点ですでにずるい気が……うおっ……」


 愛花は忍者のような素早さで俺の脚の上に身体をのっけてきた。

 そして、そのまま俺の頭を胸元へと押しやる。


「ほ、ほら……早くスリスリして」

「んんっ……」


 ここまで強引にされてしまったら、もう逃げ場はない。

 俺は愛花の汗が染みこんだブラウス越しの微かな胸元を堪能するため、顔を左右に動かしてスリスリし始める。


 ブラウスが擦れるたびに、しみ込んだ愛花の汗のにおいが香ってきて、頭がクラクラしてくる。

 前回と違ってブラをしているので、直接突起に刺激を与えることはないだろう。

 だが――


「んんっ……あっ……♡」


 ブラ越しでも突起は敏感に反応してしまうらしい、愛花は自分が出してしまった嬌声な声に驚いて、慌てて口元を抑えた。


「ふ、復習は終わり! 次は追加学習ね」


 耳を真っ赤にした愛花は、ぱっと俺の膝の上から降りて、自席へ座り込んで足を組む。

 これから行われる愛花による追加学習、一体何をする気なんだろうか……?

 嫌な予感がして冷や汗が止まらない。

 そして、その嫌な予感は的中することになる。

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