第142話 寝泊りフレンド大集合! これは……修羅場?

 部屋の中にいる女の子たちは、無言のミサイルの撃ち合いを既に始めていた。

 というよりも、バチバチいがみ合いの冷戦状態。

 いつ物理的、第三次世界大戦が勃発してもおかしくないような状況。


 そして、なぜかローテーブルの上には――

 俺が部屋の物置に隠しておいたはずのお宝コレクション達が山積みに置かれていた。


 自分の家に、複数の美女が帰りを待ってくれているという、何とも羨まけしからん状況にもかかわらず。

 何だろう、このピリピリとした張り詰めた空気感と非常にカオスな状況は……。


 すると、玄関で立ち尽くしている俺に愛梨さんと優衣さんが気が付いた。

 二人はニヒっと悪魔めいた笑顔で俺を出迎えてくれる。


「おかえり、大地くん♪」

「おかえりなさい、大地君♡」


 ヤバイ、にこっと微笑みを浮かべているのに、目が完全に笑ってない。

 二人は玄関前まで来ると、俺の腕をガシっと掴んで、俺を引きずっていく。

 もちろん二人は谷間で俺の腕を完全ロック。

 俺が二人の乳房から逃れる手立てはない。


「さぁ、これはどういうことかはっきりと事情を説明してもらいましょうか?」

「ひ、ひゃい!!」


 ズルズル引きずられていく俺を、綾香と詩織は玄関の前でポカンと立ち尽くして呆然と眺めている。


「えぇと……」

「これは私たちお暇した方が良いかな?」


 二人で顔を見合わせて、玄関をそっ閉じしようとする。


「二人とも、上がりなさい?」


 しかし、愛梨さんが鋭い口調で二人を制止させる。

 愛梨さんの声音には、逃がさないわよ? という強烈な威圧感が醸し出されていた。


「は、はい」

「わかりました……」


 愛梨さんに咎められ、二人もおずおずと靴を脱いで部屋に上がり込む。


 俺はそのまま愛梨さんと優衣さんに引きずられ、窓際まで運ばれる。

 すると、二人はおっぱいの遠心力を使い、俺の腕をぱっと放り投げる。

 身体ごと宙に浮いた俺を、後ろで待ち受けていた愛花と萌絵がガシっとヘッドロックで取り押さえる。


 そして、春香が心底蔑むような目で、これまた何故か持っている手錠を俺の腕に嵌めて、カチャっとカギをして俺を捕まえた。


 ローテーブルを囲むようにして、5人が座ってこちらを睨み付け、完全に逃げ場を失う俺。

 向かい側には、困惑した綾香と詩織が佇んでいる。


「あの……」

「これは何の会?」

「いいから、二人ともそこに座って」


 愛梨さんに言われるがままに、二人はおどおどしつつも空いていた左側のスペースに腰かける。

 7人が俺の秘密コレクションの積みあがったローテーブルを囲むようにして、無事に全員着席したところで、愛梨さんがコホンと咳ばらいをして話を切り出す。


「さぁ、大地くん。まずはあなたの罪状を発表するわね」

「ざ、罪状?」


 愛梨さんは両手を広げて、皆を一瞥するようにして淡々と告げる。


「ここに今集められたメンバーは、目の前にいる南大地によってたぶらかされていた被害者よ!」

「たっ、たぶらかすとは人聞きの悪い!」

「でも、ここにいるメンバー全員をこの家に寝泊まりさせていたのは事実でしょ?」

「ぐっ……」


 途端、部屋の空気が体感で十度くらい寒々しい空気に包まれる。

 そして、お互いに全員の顔を見回すように、驚きの視線とバチバチとした視線が交錯した後、自然と全員の視線が俺に集まった。


「大地……あんた……」


 春香が呆れ半分蔑み半分の視線を向けてくる。


「す、すいません」


 もう言い訳は通用しないと思った。

 ここは、がっくりと肩を落として素直に謝罪することしか出来ない。


「まさか、こんなにたぶらかしてたとは予想外だったけれどね。はい、それじゃあみんな、今から配るもの、各自手に持って」


 何をし出すのかと思えば、愛梨さんは机の上に積み上げられていたお宝本を、一人一人に配布していく。

 愛梨さんに手渡され、寝泊りフレンズたちは頬を染め、恥ずかしそうに身を捩りながらも、渋々受け取って手に持つ。


 右から順に、


『お隣の巨乳OLお姉さん』=優衣、

『大学デビューしたツンデレ幼馴染とイチャイチャ××』=春香、

『S気質のロリっ子JKと一緒に教育××』=愛花、

『Mっ子気質のドラッグストア店員』=萌恵、

『スタイル抜群!憧れの美人巨乳先輩に責められる』=愛梨、

『有名芸能界清楚派美人女優の夜の営み』=綾香、

『大学の友達と一夜のヤらかし!?』=詩織。


 タイトルが書かれたお宝本をそれぞれに愛梨さんが手渡した。

 アダルト秘蔵コレクションがそれぞれの適正に合った人の元へと渡り、絶賛コンプリート!


「これは、どういうことかしら? 私たちを妄想して、こっそりヌいてたって事よね?」

「ご、誤解です! それは単なる偶然で!! ってか、なんでバレてんの!? 隠しておいたはずなのに!?」

「あなたが大学へ行った後、そこにいるおっぱい巨乳が漁り出して見つけたのよ」

「あはははっ……ごめんね大地君。つい出来心で、エロ本あるかなって漁ってたらすんごいものが出てきたから……」


 苦笑いで、頭を掻く優衣さん。

 ……終わった。

 寝泊りしている女の子のシチュエーションに似たエロ本を隠し持っていたなんて知られたら、俺を軽蔑の目で見るに違いない。

 本当に、たまたま持ってたのかこれだったってだけなのに……! 俺の嗜好が憎い!


「ちょっとさすがに、ピンポイントすぎでお姉さん引いちゃうかなぁー」

「キッモ」

「変態」

「大地君って私の事いやらしい対象として見てたんだ、友達だと思ってたのに幻滅したなぁー」

「死刑」

「私の事、こんな風に思ってたんだ……ごめんなさい、もうあなたと関わるのは金輪際お断りします」

「それはないわー」


 罵倒ワード連発の地獄を味わう羽目になる未来が目の前に――

 と、思っていたのだが……。


「大地くん。もしかして、私のおっぱいじゃ満足できなかった?」

「バ……バカッ……!」

「私がシてあげるのに……」

「耳責めって、もうっ……!」

「こんなものわざわざ使わなくてもいいのに……」

「……っ!」

「ちょ、一晩のヤらかしって、あたしだけなにこれ!?」


 皆の反応は、全くもって別物だった。

 なんか、どちらかというとほのかに気恥ずかしい空気が蔓延している。

 というか、いくつか問題発言が含まれていた気がするけど、今は気にしないでおこう……。


 各々の反応に罵倒、罵声が含まれていないことに対して、俺が驚きに満ちていると、愛梨さんがその妙な雰囲気を払拭するように手をぱんっと叩いた。


「はいはいはい! 各自ののろけ云々はみんな心にしまっておくとして、本題はここからよ!」


 愛梨さんは腕組みをして、じろっと他の女の子たちを見つめる。


「まあ、理由はともあれ。この部屋にいる全員、大地の部屋に寝泊りしてたことに異論がある人?」


 もちろん、皆各々反応は違うものの、否定するものは誰もいない。

 愛梨さんは呆れと納得の入り混じったため息を吐くと、ぎろっと俺を睨みつける。


「大地? どうしてこんな事態になっているのか、説明してもらえるかしら?」


 愛梨さんの矛先の対象が俺に向けられ、どこから話せばいいのか対応に困る。


「えぇっと……まあ、大抵の場合は泊って行ってもいい? って言われて、NOって言えなかったのが原因です。中には、その場の状況や境遇もありますけど、自分から泊まってく?って誘ったときもありました」

「つまり、大地はいずれ寝泊りしている女の子たちをたぶらかして、ハーレムエンドを作り上げようとしていたと」

「いやっ、そういうことじゃなくて……気づいたらこうなってたといいますか、自分が流されるがままにしてたら、毎日違う女の子たちが泊りに来るようになっていたって感じで……」

「まっ、大地は変に優しいところあるから、断り切れなかったんでしょ?」

「はい……そうです」


 素直に白状したところで、愛梨さんは再び彼女たちの方を見渡す。


「それで、みんな寝泊まりしてるってことは、多少なりとも大地に好意を寄せているって解釈していいのかしら?」


 愛梨さんが追及するように聞くと、各々違った態度を取る。


「わっ、私は、お隣さんだし、大地君の大学生活に少しでも手助けできればと思って……」

「べっ、別に私は、昔から大地の家にしょっちゅう泊ってたから、こっちに来ても変わらないだけだし? こっ、好意があるとか、そんなんじゃないんだからね?」

「顔、匂い、筋肉、全部好き。なんなら早く犯してほしい」

「なっ……わっ、私は友達として大地君を頼ったというかなんというか……」

「私はもちろん、大地くんと誓い合った仲だし? もちろん好きよ」

「ノッ……ノーコメントで」

「まあ、ぶっちゃけ付き合いたいとかは全く思ってないけど、ヤれるかヤれないかで言ったらヤれるって感じ?」


 数名ヤバい台詞ぶっちゃけてるやつがいるけど、今は無視しておこう……。


「なるほどね。つまり私と愛花以外は、みんな好意がないにも関わらず、大地の家に寝泊りにし来ていたってことなのね」


 愛梨さんは納得したように頷くと、ズビシっと人差し指を高らかに上げた。


「なら、今後大地に好意のない人は、大地の家に入ることを禁じます!」

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