第141話 心の準備
授業開始ギリギリに教室へ滑り込むと、真ん中よりやや後ろの席に、綾香たちが陣取っていた。
「セーフっ!」
「おっす、大地」
「おはよ健太。後ろ通らせてもらうぜ」
椅子を引いてもらい、俺は健太の後ろを通り、綾香の隣の席に座る。
「おはよう、大地君」
「おっはよー大地!」
「おはよ、綾香、詩織」
皆に挨拶を交わして、俺は椅子に腰かける。
早速授業用具を鞄から取り出していると、綾香がこちらの様子をじぃっと見つめているのが視界の端に見えた。。
「ん、どうかしたか?」
俺が首を傾げて尋ねると、綾香はふっと表情を和らげた。
「なんだか、今日はすっきりした表情してるなと思って」
「そ、そうかな……?」
ま、まあ、朝からずっと二人の巨乳おっぱいマッサージに浸っていたから顔がすっきりしているなんて、口が裂けても言えないんだけどね。
すると、綾香のさらに奥に座っていた詩織がおもむろに俺の顔を覗き込んでくる。
「そう言えば、今日は授業終わったら直で行く感じ?」
「へ!? あっ、あぁ……そうしようか」
「えっ?」
綾香が驚いたようにどういうことなのと、視線で問うてくる。
そうだ、朝っぱらから二人のおっぱいにうつつを抜かしてい場合じゃなかった。
これから待ち受ける地獄を、俺は受け入れなければならないのだから……。
俺は詩織に聞かれないように、綾香の耳元で囁いた。
「その……実は今日、綾香一人だけじゃないんだよ……」
綾香も俺に合わせて、小声で返してくる。
「どういうこと?」
「その……まあ、色々事情があって、全員集合と言いますか……」
「全員集合?」
何のことか分からず、首を傾げている綾香。
じきに本当のことがバレるのだから、今真実を告げてしまっても変わりはない。
しかし、心の準備がまだ整っていなかった。
その時、丁度教室の前扉から教授が入ってきた。
もう授業が始まってしまう。
だから俺は、一言だけ綾香に伝えておくことにした。
「まあ、添い寝できるような状況じゃないってことは、先に謝っておく。ごめん」
それ言い残して、俺は視線を前に向けて授業を聞き入る体勢に入る。
綾香はまだ首を捻り納得していない様子だけれど、心の中だけで本当にごめんと先に謝っておくにとどめておく。
これから待ち受けている修羅場に向けて、罵倒、叱責、憤慨、すべての可能性を考慮して、それを受け入れるための心構えをこの授業中の間にしておこうと思った。
◇
授業後、俺達は健太を一人置いてきぼりにして、俺と綾香と詩織の三人で俺の家へと向かう。
「いやぁ、ごめんね二人とも、今日は私の愚痴に付き合ってもらっちゃって」
「いや、まあ俺の責任でもあるから」
「ううん、全然平気だよ!」
あの後、綾香は詩織から事情を聞いたらしく、詩織を家に招く口実に使った、『合コンで撃沈した詩織を慰める会』にお呼ばれしたのだと思い込んでいる。
この後、さらに家に5人もの女の子が家に来て、修羅場が待ち受けているとは、予想だにしていないだろう。
ちなみに、朝二人のおっぱいマッサージで遅刻しかけたので、愛梨さんと優衣さんは部屋に置いてきた。
恐らく、優衣さんは隣の家だし一度家に帰ってシャワーを浴びたり化粧したりして、愛梨さんと交代交代で、家を空けることなく上手くやってくれていることだろう。今頃は、もしかしたら二人で部屋の中で俺の帰りを待ってくれているかもしれない。
そうこうしているうちに、アパートの前まで到着してしまった。
俺達は外階段を登り、一番奥の突き当りにある部屋のドアの前で立ち止まる。
そして、俺はそのままドアノブに手をかけて勢いよく回して玄関のドアを開けた。
家の鍵は開いていて、既に部屋の中で愛梨さんたちが待ち構えているらしい。
「あれっ? 鍵開けっぱなしなの?」
「いやっ……実は先客がいるんだよ……」
そう言って、俺は綾香と詩織を部屋に招こうと玄関へ入ると――。
そこには、膨大な数の靴が並べられていた。
思わず視線を上に上げると、キッチン奥の部屋に、ローテーブルを囲むようにして、5人の美女たちが腕を組んでいがみ合っていた。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。