第143話 好意対決
「えぇ!!?」
愛梨さんの唐突な出禁宣言により、先ほどまで戯れ言吐いていた寝泊りフレンズたちは、一斉に驚愕に似た声を上げる。
「ちょっと待って、どうして好意云々で大地の部屋に来ちゃいけないなんてルールをあんたなんかに勝手に決められなきゃならないのよ!」
最初に反撃ののろしを上げたのは春香だった。
春香に対し、愛梨さんは勝気げな笑みを向ける。
「それはもちろん、私が大地とお付き合いする予定だからよ!」
何を隠そう、俺と愛梨さんは、これからずっと未来永劫お付き合いしていくために、もっとよりお互いのことを知ってから付き合おうという結論に至り、俺の告白を今日まで保留にして躱している状態なのだ。
「予定ってなにそれ? つまりは、まだ付き合ってないってことでしょ? 言われる筋合いないのと同然じゃない!」
「そ、そうだよ! 愛梨ちゃん、それはちょっと横暴すぎだよ!」
春香の意見に、何故か優衣さんまで賛同する。
「別に横暴ではないわ。確かに私と大地はまだお付き合いしていないけれど、お互いに両想いなんだから道理が通っていないわけではなわ」
「へっ!?」
愛梨さんから出た両想い発言に、皆の視線が一気に俺へと集まる。
「まっ……まあ、好みのタイプだし……」
俺はあたふたしつつも、しどろもどろに答えると、唖然とした表情を浮かべる寝泊りズ達。
「ちょっと大地!? こんな腹黒策士女に騙されちゃダメ! 目を覚まして!」
「そうだよ! 愛梨ちゃんは大地君を自分好みの使いやすい男に操ろうとしてるだけの危険人物よ!」
「なっ、人聞きの悪いことは言わないで頂戴!」
「確かに、裏があるってのは言えてる」
愛梨さんの策士的な腹黒さに、詩織まで納得した様子で頷いている。
「確かに……先輩ってどこか裏があるような気がしてました」
「お姉ちゃん計算高い策士、これ、元から」
「ちょっと!? 萌絵と愛花までなんてこと言うの!?」
ついには、バイトの後輩や妹にまで納得される始末。
「あっ、あははっ……」
それを、どこか俯瞰めいたように見つめて苦笑する綾香。
愛梨さん優勢で話が進んでいたはずなのに、気が付けば愛梨さんが論破されかけている。
これこそ、数の暴力という奴か(すっとぼけ)。
寝泊りフレンズたちによる議会制多数決により、晴れて腹黒認定を受けた腹黒愛梨さんは、懇願するような目で俺を見つめてくる。
大丈夫だよね? 大地はそんなこと思ってないわよね? 純粋に私のことを好きでいてくれてるから、何も間違ったことを言ってないわよね? といった言葉をすべてひっくるめたような顔で問うてくる。
「まっ、まあ……そういう所も含めて、俺は好きですよ」
「ぐはっ……」
俺の一言で、愛梨さんにとどめを刺してしまったようだ。
とほほっ……と脱力するようにがっくりと項垂れる姿でさえ、演技なのではないかと訝しまれてしまう腹黒さん。
ちょっと、やりすぎちゃったかな?
だが、俺の心配は全くもって無用だったらしく、愛梨さんはばっと顔を上げると、むすっとした表情を浮かべる。
あっ、もう腹黒策士愛梨さん開き直っちゃったよ。
「と、とにかく! 私の目の黒い内は、大地に好意のない人間は家に足を踏み入れることを許可しません!」
結局は、駄々をこねる子供に言い聞かせる親のようなセリフで、強引に自分の意見を押し通そうとする愛梨さん。
あぁ……そうやって時々出るちょっぴり拗ねたところもまた可愛い……!
って、見惚れている場合じゃない!
「ちょっと待ってください。俺の意見も少し考慮に入れて……」
「あら? 誰のせいでこんな状態になってると思ってるのかしらたらしくん? もっと強力なお薬が必要かしら?」
「け、結構です……」
愛梨さんからの調教染みた教育。
お薬と聞くだけで、顔面に押しつけられた愛梨さんのおっぱいの柔らかい感触が蘇ってくる。
あれ?
やっぱりもう一回お薬処方してもらった方が良いのかも……。
「そんな横暴な意見が通るなら、私だって幼馴染として、大地の部屋に入れる人間の制限を設けるわ! 幼馴染以外立ち入り禁止!」
「それじゃあ、お前だけしか家に入れねぇじゃねぇか……」
「何、文句ある?」
「い、いやっ……文句なんてめっそうもない」
今の春香お怒りモードは、俺の手には負えそうにない。
ここは黙って、静かに戦況を見守っておこう。
「でもあなた、幼馴染だからって好意が無ければ別に来る必要ないでしょ?」
「はぁ? 大地があんたみたいな策士女に騙される方が心配だから、私が毎日寝泊りして守ってあげるのよ」
「まっ、毎日ですって!?」
愛梨さんが驚いたのと同時に、小声でがやが聞こえてくる。
優「ま、毎日……パフパフ」
萌「それは流石に……」
詩「やりすぎな気が……」
綾「で、でも……毎日大地君と……」
梨「あんなことやこんなことをする気だなんて……」
花「羨ましい……!」
春香の毎日寝泊り発言に、各々反応を見せる面々。
ってかちょっと待って、六人の台詞が奇跡的に繋がって、なんか変な方向へ向いてますよ!?
変な空気が部屋の中を覆ってしまったので、愛梨さんがコホンと一つ咳ばらいをして取り繕う。
「ならこうしましょう。この一週間、一人ずつ泊まって、誰が大地に対して好意を抱いているのか、大地に直接見て判断してもらいましょう」
「はい?」
「だから! なんで大地と寝泊りが前提なのよ!?」
「それは当たり前でしょ? 少しでもそう言った好意的な印象を持ってなければ、異性の部屋にホイホイ泊る女の子なんていないわ」
愛梨さんの見解に対しては、皆納得しているらしく、部屋の中に再び沈黙が訪れる。
つまりは、俺に対して度合いや程度は異なるものの、何かしら好印象は抱いてくれているということであって……。
嬉しいような、困ったような得も言えぬ感情が心の中をうごめく。
ってか待てよ――
「それじゃあ、俺判断だと全員合格してしまうのでは……?」
盲点だけど、俺は別に誰一人として嫌いではないし、一緒の布団に入って眠ることに嫌悪感を覚えていない。
むしろ安らぎをそれぞれに覚えており、どれかを外してしまえば、俺の心の中のピースのかけらが落っこちる。
「ならっ、対決形式にしましょう。二人一組で寝泊まりして、大地がどちらの方が自分に対する好意を感じたか。これで勝負よ!」
「はぁ!?」
ってことは何?
これから二人ずつ泊りに来るってこと!?
すると何故か、優衣さんが勝気めいた表情を浮かべる。
「ふっふっふ……それなら、私が勝つのは間違いないね! 大地君の喜ぶ行為は、
おおよそ把握しているし!」
皮切りに、フレンズたちが何やら語り出す。
「はぁ? 私がこの中で一番大地と長く付き合ってるんだから、大地のことを一番よく理解してる私が有利に決まってるでしょ!」
「大地、変態。性癖、ばっちり把握。勝機、私にあり!」
「わっ、私だって大地君にしか見せれないあんなこと、してるし……!」
「例え知識があっても、男は結局顔で決めるのよ。大地のタイプである私が負けるはずがないわ」
「大地くんを満足させられるもの……私にしか出来ないこと……!」
「あー……私は別に好意とかそういうのないんでパスで!」
さっきから、一番言っちゃいけない言葉をJKの愛花がめっちゃ言ってるけど、色んな意味で大丈夫だろうか?
とにもかくにも、愛梨さんの独断と偏見により、なぜか満場一致で俺を満足させた方が勝ちという、謎のバトル寝泊りロワイヤルが幕を開けようとしていた。
ってか、待って?
俺の意志は!?
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