第131話 再会
遂に迎えた日曜日。
今日は、『FC RED STAR』の一軍練習の後、詩織に頼まれた合コンへ足を運ぶ予定になっている。
朝から大学近くの中学校に集められたメンバーは、ストレッチを終えて、練習を開始する。
シュート練習やディフェンスの基礎練習など、本格的なパス回しや実践的な練習へと移っていく。
結局、二時間サッカートレーニングをみっちりやらされたおかげで、午後から合コンにもかかわらず、身体が筋肉痛で悲鳴を上げそうだ。
練習終わりの帰り際、愛梨さんに「お昼ご飯食べに行かない?」と誘われたが、予定があるのでと丁重に断った。
「へぇー私の誘いを断ってまで、どこの馬の骨と会うのかなぁ?」
目を細めて愛梨さんに鋭い口調で言われ、うっ……と心がぐさりと痛んだ。
実際に足も踏まれていたので、物理的にも痛かった。
俺は何とか愛梨さんの目を欺いて、そそくさと逃げるように練習場を後にした。
後ろ髪を引かれる思いではあったが、今回は詩織にあれだけ念を押されて頼まれてしまったので、ドタキャンというのも申し訳が立たない。
電車にぱぱっと乗りこんで、詩織に指定された目的地へと向かう。
初対面の人とこれから会う緊張感や、初めての合コンということもあり、車内で勝手に緊張感が高まってきた。
目的地の駅に着き、待ち合わせの改札に向かうまでも、俺の表情はガチガチに緊張していたと思う。改札を抜けて、比較的すぐに詩織を見つめることが出来た。
「悪い。お待たせ」
「お疲れーっす! ありがとね、来てもらっちゃって」
詩織は会うなり、開口一番に申し訳なさそうに謝ってきた。
「いいって、いいって、気にするな」
そう言いながら俺は詩織へ視線を向けた。
詩織は珍しく、青の花柄のワンピース姿で髪をアップにまとめ上げ、気合十分といった感じのセットをしていた。
「き、気合入ってんな……」
思わず言葉がこぼれ出てしまうと、詩織は自分の格好を一通り眺めてから、俺に向き直る。
「そうかな? いつもこんな感じっしょ!」
「いや、明らかにいつもと雰囲気が違い過ぎるだろ」
「どんな感じに違うの?」
「そりゃ……なんつーか……」
俺は下から上まで詩織をもう一度よく観察する。
いつもの詩織のイメージといえば、カーディガンを羽織り、デニムのパンツを履いているイメージが強いので、何というか……
「いつもより大人っぽいというか、女の子らしくていい感じ?」
「ぶっ、何それ。あたし一応女だし! 失礼じゃない?」
「わ、悪い……」
こういう時、女の子になんて答えれば正解なのか分からないので難しい。誰か、俺に正解を教えてくれ。
俺が悩ましいように顎に手を当てて唸っていると、俺の困り顔が可笑しかったのか、詩織がふふっと笑った。
「まっ、大地なりに褒めてくれたんでしょ。ありがと」
「お、おう・・・・・・」
詩織があまりこういうのを気にしたいタイプで助かった。
「それじゃ、さっそくお店に行こう。私たち幹事だから、遅れるわけにはいないっしょ!」
詩織はワンピースの裾をヒラヒラとなびかせながら、踵を返して歩き始める。その後ろ姿を見て、俺は初めて詩織の女性らしい一面を見れたような気がした。
◇
合コンのセッティング場所は、駅から数分歩いたところの、少し落ち着いた感じのお店。
詩織が受付で名前を告げると、少々ほの暗い店内の半個室のようなテーブル席に案内された。
「大地はそっちね。そんで、私がこっち側でもてなすから」
「わかった」
詩織からの指示を受けて、俺は詩織の対面側の席に座り、他のメンバーを待つ。
しばらく二人でそわそわしつつ待っていると、男子の面々が集まりだした、といっても俺を含めて三人だけ。
今回の合コンは、男女三対三で行われる。
男子側の面々も、俺は初対面だったので、軽く会釈をして緊張をほぐすがてら、男子同士で軽く自己紹介を先に行う。
二人ともびしっと清潔感ある格好で、気合十分といった感じ。
明らかに俺とはジャンルが違う、爽やか系男子だった。
詩織も一人は顔見知りのようで、軽い挨拶を交わす。そして、もう一人の男性にはキラキラとした瞳を向けている。
ははーん。さてはコイツ、その男狙いで今回の合コンセッティングしたな。
俺が詩織の様子を訝しんで見ていると、詩織と顔見知りの男子が俺に小声で話しかけてきた。
「ごめんな、詩織に聞いたけど、人数合わせで来てもらったらしくて・・・・・・」
「あっ、いやっ。別に構わないよ……俺もこういう機会って初めてだったからちょっと興味はあったし」
俺が問題ないというように言うと、少し複雑そうな表情を浮かべながら、爽やか男子は話を続けてきた。
「でも詩織から聞いたぞ? めっちゃ美人の彼女がいるって、今日のことバレてない、平気?」
「へっ?」
突然突拍子もないことを言われ、俺は素っ頓狂な声が出てしまう。
詩織の奴、何を勘違いしてるんだ?
思い当たることとすれば、恐らく俺と綾香が何やら怪しげな関係であると勘違いしている線が妥当だろうか?
「どうかしたか?」
「あぁ、いや……大丈夫。その辺りは詩織がトップシークレットで守ってくれたから」
正直、俺と綾香が詩織に勘繰られてしまうように、曖昧な関係状態であることに変わりはない。この男には、その設定で勘違いしておいてもらおう。
そんな会話をしていると、女性陣の二人が現れた。
「やっほーお待たせー」
「こんにちは」
現れた二人の女性の一人は、ボブカットにパーマをかけた茶髪髪のザ・大学生と言ったような女の子。
そして、もう一人の女性へ視線を移した瞬間、俺は言葉を失った。
艶めいた真っ直ぐな黒髪を揺らし、黒のノースリーブにプリーツスカートを履きこなした、同年代とは思えないほど大人びたような雰囲気を醸し出す。胸元豊かな色気ある女性。
俺は彼女を知っている。
「先輩……」
口をポカンと呆けたように開けながら、空気のような声が放たれる。
先輩もこちらに気が付づいて俺を見つめると、表情を強張らせて固まった。
「大地……」
お互いの間で、気まずくてバツが悪いような微妙な空気が流れる。
高校の時付き合っていた先輩。
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