第132話 奈菜先輩との出会い、そして告白
合コンは、自己紹介から始まり、最初は六人で世間話から始めていく。
男性陣の視線は、大人びた色気と異様な雰囲気に包まれた奈菜先輩に釘付けになっている。
街中を歩いていても、すれ違った後に二度見してしまうほど、誰しもが一目引く存在であることは間違いない。
当の奈菜先輩は、どこか落ち着きがないようにそわそわしている。
まあそうだろう、折角合コンに来たのに、元カレがいますってなれば、それは気まずいったらありゃしない。
幸い、俺と奈菜先輩の席ははす向かいの対面側。一番距離が遠い位置なので、視線を合わせなければ気にならない。
俺は、話を聞いている風な感じで皆の話の聞き側に回っていた。
詩織に関しては、同じくはす向かいの対面に座る男子に視線が釘付けになっている。
隣にいる男性陣が、頑張って話を振って大学や出身地やら趣味などを聞き出して、話を盛り上げようとしていた。
俺はその話に相槌を打ちながら、初の合コンという場の雰囲気を楽しんでいた。
すると、詩織が突然、ぱんと手を叩いて、調子のいい声で言い放った。
「それじゃあ、席替えターイム! 男子が一人ずつずれて行って!」
詩織に言われて、左隣へとずれていく。
俺は一番左側に座っていたので、一番右側の席へとずれる。つまりは、奈菜先輩の正面に座ることとなってしまった。
「それじゃあ、ここからは対面の人と仲良くなろう! ってことでスタート!」
ここは婚活会場かよ……。
いや、行ったことないから分からないけど、ドラマで見たり、人から聞いたりする話だと、こういう風に男の人がスライドしていって、色んな女性と会話していくのが婚活での一般的なやり方らしい。ソースは綾香が出演していたドラマ。
って、そんなことはどうでも良くて……。
俺が奈菜先輩を見つめると、奈菜先輩も俺をちらりと見つめてくる。
自然と視線がぶつかり、奈菜先輩は慌てたようにふぃっと顔を逸らしてしまう。
このまま沈黙が続くのも、気が引けたので、俺から声を掛けた。
「久しぶりですね。先輩」
「え、えぇ……久しぶりね、大地」
先輩は身体が熱くなってしまったのか、グラスを手に持って目の前のドリンクをゴクゴク飲んだ。
奈菜先輩はグラスを置いて、もう一度チラリとこちらを窺うように見て、少し恥じらいながらもごもご口調で答える。
「見ないうちに、随分と逞しくなったわね」
「そうですか? 相変わらず何にも決められない、優柔不断なままの俺ですよ?」
「性格の話じゃなくて見た目のこと」
「あぁそっちですか……まあ、もう二年近く経ちますからね」
「そっか……もうそんなに経つのか……」
奈菜先輩はそう呟くようにして、感慨に耽るようにどこか遠くを見つめている。
俺と奈菜先輩の出会いは、俺がバトミントン部に入部した時。
当時サッカー部からバトミントン部に転部して、そこに所属していた先輩が奈菜先輩だった。
奈菜先輩は、当時から高校生の中でも落ち着きを纏い、大人びた雰囲気を醸し出していたけれど、今はさらに大人の女性の魅力が増して、完成形へと近づいている印象を受ける。
そんな奈菜先輩に告白されたのは、俺が高校二年生になる直前の春休みのこと。
部活終わりに珍しく奈菜先輩から『一緒に帰らない?』と誘われた。
突然の誘いだったので、なんだろうと不思議に思いながらも、一緒に春の訪れる気配すら遠い北の大地の、海風漂う海岸沿いの道を二人並んで歩いた。
「南くん。ちょっと寄って行かない?」
奈菜先輩に指さして向かったのは、海風強い海辺の砂浜。
海風が凍えるように寒い砂浜は、今にも俺達をこの場で氷漬けにしてしまうのではないかというほど寒くて冷たい。
「うぅ……さむっ」
思わず俺が、かじかむ手をさすると、ふいにその手を奈菜先輩が素手で掴んできた。
俺が顔を上げると、奈菜先輩はにこっと微笑んだまま、軽い調子で言ってきた。
「南くん。私たち、付き合おっか」
「へっ……?」
それは突然の出来事だった。
確かに、奈菜先輩とは同じ部活になって、大分仲良くなった
「俺なんかで……いいんですか?」
俺がそう聞くと、奈菜先輩はかぶりを振った。
「ううん。南くんがいいの!」
そう言って、今度は両手でぎゅっと俺の両手を包み込むように掴んだ。
奈菜先輩の手は、海風にあてられたせいか、ひんやりと冷え切っている。
「ダメかな?」
「……ダメってわけでは」
「やっぱり、あの春香ちゃんって幼馴染の子が好きなの?」
「いやっ、そういうことでもなくて……」
本当はすげぇ嬉しい。こんな俺が、こんな美人で色気のある先輩から告白されるなんて、二度とないんじゃないかと、胸の内は飛び跳ねて喜んでいる。
だが、どうしてもこういう恋愛ごとには、おっかなびっくりになってしまい、中々首を縦に振る勇気が出なかった。
「じゃあさっ! お試しでもいいから付き合わない? もしそれで、南くんが何か違うなぁって思ったら、私の事振ってくれて構わないから! それでどうかな?」
必死な様子で言ってくる奈菜先輩の提案に、俺は迷いつつも、懸命に首を縦に振った。
「わかりました……」
こうして、俺と奈菜先輩の仮恋人期間が始まった。
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