第130話 先輩の夢(綾香7泊目)
また夢を見た。
先輩一緒に、夏休み最後のデートを満喫している夢で、俺の部屋のベットで、お互いに抱き合いながら昼寝をしていた。
両親と大空は、小野家と一緒に俺を置いて都内の方にある夢の国へ旅行に出かけていた。
俺は、部活の大会が被ってしまったので、仕方なく一人留守番することになり、大会翌日に、先輩をお家デートに誘い、今こうして添い寝している。
ふと目を覚ますと、先輩はどこか哀愁漂う表情で、俺の頭を撫でながら寝顔をじぃっと優しい瞳で見つめていた。
「起きた大地」
「はい、先輩は寝てなかったんですか?」
「うん、なんか大地の顔をずっと眺めていたい気分だったから」
「そうっすか……」
俺は身体を起こして、大きく伸びをしながら欠伸をした。
「んんっ、ふぁっ……眠い」
「しっかりしてよ、折角夏休みの宿題手伝ってあげてたのに、結局イチャイチャして昼寝しちゃったんだから」
「すいません……でも、先輩といる時間はやっぱり一緒にくっ付いてたくて」
「全くもう……私がいなくなった時どうするのよ?」
「それはもう、悲しすぎて死にます」
「はぁー……ったくしょうがないんだから」
呆れた顔でため息をつきながらも、先輩は俺の方へとすり寄ってきて、ポンポンっと俺の頭を撫でてくれる。
「仕方ないから、私がいなくても平気なようにおまじないをかけてあげる」
「えっ? んん!?」
咄嗟に先輩は俺の口を唇で塞いだ。俺たちはキスを交わし合う。
「チュ…チュ…チュパァ…はぁっ……」
お互いに唇を離して、甘い空間が訪れる。
「よしっ! それじゃあ、私はそろそろ帰ろっかな!」
場を切り変えるように、先輩はばっと起き上がってベットから飛び降りて、テーブル下においてあったバッグを肩に掛けた。先輩は、そのままトコトコと部屋のドアへ歩き始める。
俺も先輩を追うように立ちあがり、玄関まで見送る。
靴を履いた先輩は、玄関を開けると、クルっと振り返ってにこっと微笑んだ。
「それじゃあ、大地、バイバイ」
「はい、また夏休み明けに」
お互いお別れの挨拶を交わして、先輩はクルっとまた身体を回転させて、軽やかな足どりで歩いていき、玄関のドアが自然と閉じられた。
これが、俺と先輩の最後のデートになるなんて、この時は予想だにしていなかった。
◇
「……はっ!?」
俺は悪夢のような夢から解放され、冷や汗を掻きながら目を覚ました。
しばらくぼおっと思考を巡らせていると、頭をトントンと優しく何かに包み込まれるように撫でられていた。顔を上げると、どこか哀愁漂う表情で俺の頭を撫でながら、綾香がにこっと微笑んでいた。
「起きた、大地くん?」
「あ、うん……俺寝ちゃってた?」
「うん、ぐっすりと」
「そっか……」
綾香のことについて色々と悶々としているうちに、眠りについてしまったらしい。先に目が覚めた綾香が、俺の頭をずっと撫でてくれていたようだ。
綾香は、先ほどの発言の事など、すっかり忘れてしまったかのように、穏やかな微笑みで、俺を撫でている。彼女の中では、完全になかったことにして、俺と向き合っているのだろう。だから、俺も綾香に先ほどの件を思いださせることなく、いつも通り接することにした。
「すまんな、一人で寝ちゃって」
「ううん、私もさっきまでぐっすり眠ってたから、全然平気だよ」
「そっか」
「でも、お互いまた寝汗がすごいね」
そう言って、綾香は自分の寝間着と俺の寝間着を交互に見つめる。
綾香のオレンジの部屋着のシャツは、汗で湿り気を帯び、色が濃くなっているのが分かる。
「そうだな……先にシャワー浴びる?」
「うん、申し訳ないけどそうさせてもらうね」
綾香はゆっくりと立ち上がり、洗面所の方へ向かっていこうとするが、ふと立ち止まり、こちらへ振り返った。
「そのぉ……寝間着貸してほしいんだけど、いいかな?」
「あぁ、いいよ」
俺は布団から身体を起き上がらせて、タンスの中からグレーのジャージを取りだして、綾香に手渡した。
「ありがと」
綾香は俺からジャージを受け取ると、今度こそ洗面所の方へと向かっていく。
「あっ、あとさ……」
すると、また綾香が歩みを止めて、こちらへ振り返った、今度は心なしか頬が朱に染まっていて落ち着きがないように見える。
「また寝汗掻くの面倒くさいから、夜はそのぉ……寝るときはまた脱いで寝てもいいかな?」
顔を真っ赤にして、恥ずかしそうに聞いてくる綾香。なんだか、こっちまで恥ずかしくなってきてしまう。
「あぁ……うん、まあ……いい……けど……」
「そか、ありがとう」
俺へどもどした返事で返すと、綾香は嬉しそうにニコっと微笑んで、今度こそ洗面所の方へと消えていった。
あんなに嬉しそうな顔されると、余計に意識しちゃうだろうが……
俺は視線を逸らしながらも、頬がどんどんと熱くなっていくのを感じた。
◇
夜、宣言通りお互い下着姿で、俺と綾香は毛布を被って、抱き合いながら向かい合って寝転がっていた。
綾香は心地よさそうに寝息をたてて眠っているが、俺は昼間のこともあり、綾香にドキドキさせられっぱなしで、中々寝付けないでいた。
昼間の綾香の真相は未だに分からないまま。
だが、これ以上考えても答えが導かれることなく、より泥沼に嵌っていくだけのような気がしたので、別のことに考えを巡らせた。
明日は、詩織にどうしてもといって頼まれた、合コン当日。
正直、綾香のことや愛梨、愛花姉妹の件もあり、合コンに参加するのは気が引ける。
だが、少しだけどんな雰囲気なのか物珍しさ本位での興味は湧いていた。まあ、どこかの居酒屋とかで、自己紹介とかして、男女交友を計って、お喋りしたりするだけなんだろうけど……
ふと綾香の方を見ると、スヤスヤと寝息を立てながら、安心して俺に抱き付いて眠っていた。
その姿を見て、昼寝の時に見た、ひと昔前の先輩との出来事を思い出してしまう。
先輩も同じようにこうやって安心しきって眠っていたっけ。
ここ最近何故先輩の夢を見るようになったのかは分からない。けれど、もう昔の話で終わったこと。今は何も思う所はないし、話しても意味のないことだ。
自分の中で言い聞かせていると、徐々に眠気が襲ってきてくれた。
瞼を閉じると、ゆっくりと頭がぼおっとしてきて、思考が遠のいていき、眠りについていった。
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