第123話 予期せぬ出来事(愛花7泊目)

「お、お疲れ様でした……」


 アルバイトが終わり、俺は学習塾を後にした。

 今日はずっと暴走しないよう気を張り巡らせていたので、げっそり疲れてしまった。


「ふぅ……」


 なんとか愛花の復習とアルバイトを乗り切った俺は安堵にも似た大きなため息をついた。

 しかし、問題はむしろこの後だ。連絡はないものの、いつも通り愛花が泊りに来るんだろうなぁ……。

 どこで愛花が俺を待っているか知らないが、とにかく愛花に会う前に、俺のこの欲望をどうにかしないと……


「だ~いちっ!」


 すると、そんな俺の期待を裏切るように、ビルの陰から愛花が飛び出してきた。

 サプライズで出待ちしていたようで、嬉しそうにそのままギュっと俺の腕を掴んできた。


「うぉっと……びっくりした、愛花か」

「大地遅い」

「いや、授業が終わった後も片付けとか色々あるの。ってか、なんで今日に限ってここにいるわけ?」

「だって、今日は一緒に家に歩いて帰りたい気分なんだもん」

「さ、際ですか……」


 自分の欲を抑えるだけで精一杯なのに、教室の前でこんなに愛花に密着されている姿を他の先生や生徒たちに見られないように気を張らないといけないなんて、何という試練。


 俺は誰にもバレないうちに、さっさとその場を立ち去って家に歩き出すことにした。その間も、愛花は腕を掴んだまま全く離そうとしてくれない。


「なあ……腕離してくれないか?」

「嫌だ」


 速攻で拒否される。

 だが、これ以上は身が持たないので、適当に理由を付ける。


「もし見られたら、俺学習塾に居られなくなっちゃうかも……」

「えっ……?」

「そうなったら、愛花の授業教えることも出来なくなるだろうなぁー」


 俺が悲壮感匂わせる感じで言うと、愛花は先ほどまでの頑固さが嘘のようにぱっと俺の元から離してくれた。


「大地に教えてもらわないと困る。仕方ないから離れてあげる」

「理解してくれて助かるよ」


 ここは何とか緊急回避。だが、危険な状況に変わりはない。


 まずいな、どうしよう……

 愛花と並んで家に向かっている間に必死に策を練る。

 しかし、いい案は中々思い浮かばず、愛花を風呂に促して、その間にトイレでするか、そそくさと眠ってしまうかのどちらかしか思いつかない。

 そうでもしないと、今度こそ俺の理性が持たねぇ……家路につく間に、俺はどちらの作戦を実行するかじっくりと考えた。


 ◇



 アパートに到着して、愛花に何か話しかけられる前に、ぱぱっと荷物を片づけて、『先に風呂入る!』と言って俺は風呂に入った。

 そして、身体を洗ってシャワーを済ませてぱぱっと上がり、そそくさと愛花に風呂を促した。


 俺がせかせかしている様子に、愛花は少し訝しんでいるようではあったが、愛花も今日はシャワーを早く浴びたかったのか、風呂場へと素直に向かって行ってくれた。


 よしっ! 


 これで愛花が風呂に入ったら、すぐに洗面所でドライヤーで髪を乾かしながら歯磨きだ。それが終わったら、洗濯物を洗濯機に入れて予約、その後布団を敷いて、明日の用意をしてから寝っ転がって愛花が風呂から上がってくる前に就寝、よしっ、完璧だな! あ、今のうちに布団を敷いておこう。


 結局俺は、愛花が風呂から上がってくる前に先に寝るという作戦を実行することに決めていた。


 愛花が服を脱いで風呂に入る前に、布団を部屋の中に敷いておく。二枚敷くことで、愛花に今日はそっちで寝てくださいと暗に意味させる。

 まあ、アイツの場合無視して普通に俺の布団に忍び込んできそうな感じがするけど、やるに越したことはないだろう。


 布団を二つ並べて敷き終えて、次の動きを俺が念入りに頭の中でシュミレーションしていると、愛花が風呂のドアを開ける音が聞こえた。ドアの閉まる音が聞こえた瞬間、俺の行動は開始だ! しかし、こういう時に起こるのが予期せぬ出来事。


 風呂の方からスタスタと足音が近づいてきたかと思うと、愛花がハンドタオルで胸元と下半身を隠しながら裸で部屋に向かってきた。


「なっ……」


 その愛花の艶やかな姿に目が釘づけになってしまう。愛花はそんな俺を気にすることなく、リュックから青のブラと下着を取りだした。


「ん?」


 すると、視線に気が付いた愛花が、スっと立ちあがって俺を見てめてくる。

 しばしお互いに見つめ合っていたが、ニヤリと愛花が不敵な笑みを浮かべた。


「私の小さいけど見たい?」


 挑発的な視線で、胸元のタオルをチラっとずらして見せる。そこには、僅かな膨らみの胸の先に付いているピンクの突起部分が……


「ブッ!!」


 俺はその瞬間、自身の手で目を抑え、思わず吹いてしまった。


「い、いいから戻れ!」

「はぁ~い」


 愛花はからかうような口調で返事をすると、風呂場へと戻っていった。


 ガチャリと風呂場のドアが閉まる音が聞こえても、しばらく俺は愛花の裸体が頭の中でフラッシュバックしてしまい、行動に移すことが出来なくなってしまった。

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