第122話 理性の限界

 また、夢を見た。

 俺と先輩が、人肌を交えながら一緒に抱き合って寝ている。


「大地、早く起きて!」

「んんっ……後五分」

「ったくもうー」


 呆れ交じりのため息を吐きながらも、先輩は俺の身体を再び抱きしめてくれる。


「にひひっ……」

「ホント、大地はダメダメな彼氏なんだから」

「だって、先輩の匂い最高なんですもん。あと抱き心地も」

「適当なこと言ってないで起きる!」

「えぇ……やだぁ……!」


 駄々をこねる俺に対して、今度は先輩が強引に俺を引きはがそうとする。


「いい加減にしなさい! 大地!……大地……大地っ……大地?」


 はっとなって目を覚ますと、目の前では学習机の椅子に座った愛花が、心配そうにこちらを見つけていた。


「大地、大丈夫?」

「おぉ、悪い悪い、ちょっとうたた寝しちまった」

「最近よく眠れてないの?」

「ううん、そんなことはないよ! 復習テスト終わったか?」

「うん、これ……」


 俺は誤魔化すようにして愛花から復習問題の用紙を受け取り、丸付け作業に入る。


 何故うたた寝をしてしまったのか、自分でも不思議だった。でも多分、色々と悶々とした気持ちがあるから、身体はつかれてなくても頭が付かれていたから眠ってしまったのだろう。


「はいよ、今日も満点だな」


 採点を終えた復習問題の用紙を愛花に返却すると、愛花はドヤ顔で胸を張った。


「当然」


 そう言って、愛花は答案用紙を受け取ると、回答欄にもう一度目を通して確信した。


「よしっ!それじゃあ、今度は大地の復習ね」

 

 そして、スッと答案から目を離して、愛花が場を切り変えるように言ってきた。


「いや…今日は勘弁してくれませんか?」

「ダメ、大地も復習しないと不公平」

「いや……だって……」

「というか、大地の方こそ復習が必要。私が目の前にいるのにうたた寝するとか、信じらんない。私の魅力を再確認してムラムラするべき」

「いやっ、それダメだろ」


 というか、ムラムラしたくないから今日は控えて頂きたいんですけど!?

 

 月曜日の優衣さんの魅惑的な誘惑から始まり、昨日アルバイトから帰って来た時に出くわした春香の一件と言い、二日連続で女の子のあんな魅惑的なセクシーでエッチな姿を見てしまったんだ。俺の理性が保つのも本当に時間の問題だ。


 今日の朝だってそう、目を覚ますと幼馴染が同じ布団で寝ていた。

 しかも、俺は無意識のうちに春香を正面から抱きしめて、ベッタリと身体をくっつけ合っていて、春香の匂いと柔らかな抱き心地に溺れそうになった。

 だが、ここで溺れてしまえば確実に理性も持っていかれる。


 頭ではそう感じているにもかかわらず、既に身体はいうことを聞いてくれず、春香のその柔らかい身体に色々と押し付けている状態


 結局その直後、春香が寝ぼけて俺に見事な頭突きをお見舞いしてくれたおかげで、何とか場での崩壊は凌ぐことが出来たものの、いつまた限界が来てもおかしくない状態だ。


 ここまで何とか切り抜けてきたが、ここにきて今度は愛花の復習の時間。

 学習塾という公共の場ではあるので、多少自制心が働いているが、今愛花の身体に触れてしまえば、場所のことなんて忘れ、お縄に着くような行為に出てしまう可能性だってある。復習をやってしまえば、俺にもこれから自分がどうなってしまうのか分からなかい。なので、今日は愛花との復習や接触をなんとしても避けたかった。


「いいから、はい先週の復習!」


 そんな俺の気持ちなど知る由もなく、愛花は素早い身軽な動きであっという間に俺の目の前まで近づき、半ば強引に俺の膝の上に馬乗りの体制になってしまう。

 

 そして、毎度のごとく俺の首に手を回して、ガシっと身体を密着させてくる。


 ぐっ……愛花の柔らかい身体の感触が全身に伝わって、少し汗ばんだ匂いも……ここは耐えろ俺。


「はい、じゃあまずクンカクンカからねー♡」


 ニヤリと悪い笑みを浮かべる愛花は、そのまま俺の顔に腕を回して、愛花の鎖骨辺りに俺の顔を押し付ける。

 俺は愛花に聞こえるくらいの音を出して、なんとか最小限の息を吸うように努める。

 

 ダメだ、愛花のJKの香りも汗臭い甘酸っぱい香りも全部、今の俺には、ただのエロい香りにしか認識できない。


「どうしたの、クンクンが今日は弱いよ? ほら、もっと嗅いで??」


 ぐっ……なんでそういう時に限って気づくんだこいつは……

 俺は一度息を吐いて、覚悟を決めて思い切り匂いをもう一度嗅ぐ。


 愛花の女の子特有のフレーバーな甘い香りと、汗ばんた少し甘酸っぱい香りが俺の中全体に広がって……!

 

 あぁ……もうダメだ……


「キャ!?」


 ついに、リミッターが外れてしまい、気づいた時には、俺は身体が勝手に動いてしまい、愛花のしなやかなお尻から太ももの辺りを一気に鷲掴みにして、モミモミと揉みほぐし始めていた。


 愛花がビックリしてちょっと声あげちゃって、他の人にバレちゃったかもしれないけど、もうお構いなしだった。


「大地ぃ、はぁっ……自分からしてくるなんてぇっ、今日は随分と大胆んっ……!」


 愛花の言葉など一切気にせず、俺はただその柔らかい愛花のエロくて魅力的なJK太ももを揉みしだきながらクンクンと匂いを堪能する。


「んん……あぁっ♡」


 愛花が艶めかしい声を出した時、俺の頭に一瞬理性が戻ってきて割り込んでくる。俺は今、何をしているのだと……


 俺の正常な思考を持つ脳が、それを利用して何とか我を取り戻すことに成功して、間一髪愛花の身体から手を離した。

 いやっ、多分アウトだったけどセーフだよね?

 よく耐えた、俺の理性。よく戻って来た、俺の自制心。


 俺が手を離した瞬間、愛花の方も息を荒げつつトロンとした表情を浮かべ、どこか物欲しそうな表情で見つめてきている。しかし、それもほんの一瞬のことで、すぐに、はっ!と我に返ったような顔になり、スっと俺の膝の上から降りた。


「ま、まあ……大地にしては良くできたんじゃない? 復習終わり!」


 愛花はそう言いつつも、頬を真っ赤に染めながら、恥ずかしそうに自分の席に着席した。


 俺はその愛花が恥じらう様子を見て、またもや自我を失いかけたが、必死に視線を逸らして他のことを考える。


 詩織のうるさい声、詩織の調子乗った顔、詩織の笑いの沸点が浅い所。

 おっと、これは不思議だ。どんどんとムラムラした気持ちが消えてすっと気持ちが落ち着いていくぞ?


 落ち着きを見事取り戻した俺は、顔を上げて愛花に向き直る。


「それじゃあ授業始めるか」

「う、うん……」


 だが、愛花はどこか恥ずかしそうに身をよじって頬を染めている。

 それをじぃっと眺めているのは、俺もまた耐えられなくなってきそうだったので、そそくさと授業に戻ることにした。

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る