第112話 黒スト(愛梨7泊目)
シャワーを終え、寝る支度を整えた俺たちは、お互いの布団を敷いて、それぞれの布団へ寝っ転がった。
「電気消しますよ」
「はーい」
ポチっと消灯ボタンを押して、部屋の明かりを消した時だ。
「あっ、ちょっと待って」
愛梨さんに待ったをかけられ、ボタンを押そうとしていた指を止める。
「どうしました?」
「ちょっと忘れ物」
布団から出て、起き上がった愛梨さんは、そのまま洗面所の方へと向かっていく。
しばらくして、愛梨さんが含みのある表情で戻ってきた。なぜだろう、すごい嫌な予感がする。
「おまたせ、いやぁ~洗濯籠漁ってたらこんなの見つけちゃってさ~」
そう言って後ろで組んでいた手から出てきたのは、黒い布状の靴下みたいなもの。俺はそれに見覚えがあった。
間違いなく、その物体の正体は『黒スト』。
「これは、どういうことかなぁ~?」
にこっとした表情で尋ねてくる愛梨さん。でも、目は全く笑っていない。
ちょ、ちょっと愛花ぁぁぁぁぁぁぁ!!!!!
なんで置いて行っちゃうの!?
確かに、黒スト越しの太ももは最高だと言ってけれども……使ったものはちゃんと持って帰って洗おうね!? ってか、何この逆パターン、なんのデジャビュ?
「いやぁ、違うんすよ愛梨さん。これには深い訳が……」
俺が両手を胸の前に開いて言い訳を始めると、愛梨さんはじわりじわりと俺の近くへ寄ってくる。
「言い訳は聞いてないの……事実を聞いてるだけ」
怖い……愛梨さん怖いよ~!!!
「えっとですね……それは……」
「それは?」
「い、妹のです」
「大空ちゃんがこっちに来るわけでしょ。それとも、帰省の時にわざわざ妹の黒ストッキングを持って帰ってくるような変態さんだったのかなぁ、大地は?」
そうだ、愛梨さんは妹の大空と面識があるんだった。
最終手段、妹のモノが通じないとなると、自傷行為に出るしかない。
「あ、愛梨さんに履いて欲しくて……」
何言っちゃってるんだろう俺。これじゃあ、正真正銘の変態じゃないか。
「へっ!?」
だが、愛梨さんの見解は違ったようで、驚いたように目を瞬かせた。
そして、ぽっと頬を赤らめて、俺から視線を逸らす。
「も、もう……バカ……」
「す、すいません……」
突如として生まれる気まずい沈黙。
いっそ、『変態』っと蔑んだ目で言われた方がまだましだと思う。
俺が自分の言動に呆れかえっていると、愛梨さんは一つ咳ばらいをして口を開いた。
「そっかぁ~なら、仕方ないわね」
「愛梨さん?」
「ちょっと待ってなさい」
そう言って、愛梨さんは自分の荷物の方へと向かい、何かを取り出してから洗面所の方へと向かっていった。
何だろう?
暫く待っていると、愛梨さんが洗面所の方から戻ってきた。
「なっ……!?」
目の前に現れた光景に、俺は驚愕する。
愛梨さんは上はグレーのジャージのまま、下に先ほど使っていた練習着を身に着け、その下から伸びる黒スト……
愛梨さんは恥ずかしそうに身をよじりながら、尋ねてくる。
「ど、どう?」
「……さ、最高です」
その一言に尽きる。というか、本当に履いてくれるとは……!
愛梨さんの脚を包み込む太ももに、その下から見える白い長い脚。すべてが艶めかしく見えてしまう。
「ねぇ、これちょっとサイズあってなくてパツンパツンなんだけど」
それはそうだ。だって、もとは愛花のものなのだから、愛梨さんとは体系も違うし、仕方のないことだろう。でも、逆にその愛梨さんの脚に布がぱつんぱつんに密着して張り付く黒スト姿も、これはこれで最高だ。
「す、すいません。愛梨さんのその細くて綺麗な脚なら、そのサイズで入るかなと思って……」
「も、もう……仕方ないんだから。今度からちゃんとサイズ聞きなさい」
愛梨さんは一つため息を吐いてから、俺の方へと向かってくる。
そして、ニヤッとした表情でそのまましゃがみこみ、俺に抱き付いてきた。
「それで? 大地はこれでどうして欲しかったのかな?」
「えっ、ど、どうって?」
「私に黒ストを履かせて、何をさせたかったの?」
そりゃ、その黒スト越しの太ももに挟まれて……とは死んでも言えないので、他のことを口にする。
「ま、まあ、そのまま一緒に寝て欲しかったって感じです」
「へぇ~そうなんだぁ~ふぅぅぅ~」
含みのある返事を返しながら、愛梨さんが俺の耳へ息を吹き込んでくる。
身体全身がゾクゾクっとして、身震いする。
愛梨さんはさらに、耳元で息をわざと吐きながら、俺を押し倒して、艶っぽい声で語り掛けてくる。
「本当はぁ~もっと違うことしようとしてるんじゃないの?」
「ち、違うことって?」
「そりゃ、私の履いたストッキングで自家発電とか。ふぅぅぅ~」
「うっ……し、しませんよそんなこと」
息を吹きかけられてしまったので、反論が弱くなってしまう。
その隙に愛梨さんは、その黒ストに包まれた脚を、俺の脚に絡みつけてくる。
あぁ……なんでこういう時に限って、俺は長ズボンを履いてしまっているのだ!
俺が悔やんでいると、愛梨さんは耳元で甘美的な声で囁いてくる。
「ホントに? さっきのブラだって、本当は私の香りと温もりを感じながら、使用済みにしちゃったんじゃないの?」
核心に迫ろうと、愛梨さんはさらに耳責めをしてくる。
「いやっ……だから、本当にそんなことは……」
「そうなんだぁ。大地にとって、私ってそんなに魅力ない?」
「そうはいってないじゃないですか」
「でも……私で抜けないんでしょ?」
「だから、そう言うことじゃなくて……!」
俺は何とか、愛梨さんに耳責めから抜け出して、くるっと身体を愛梨さんの正面に向けると、ガシっと愛梨さんの両肩を掴む。
愛梨さんは俺の行動に、一瞬戸惑ったような表情を見せるが、すぐにポっと身体を赤らめる。
「俺は、愛梨さんのこと、凄い魅力的な女性だと思ってます。だから、抜くとか抜かないとかじゃなくて、もっと大切にしていきたいんです」
俺がそう言い切ると、愛梨さんは視線を泳がす。
「そ、そっか……」
ポソっとそう呟いて、身をよじる愛梨さん。だが、一つため息を吐くと、先ほどまでと同じ、小悪魔愛梨さんが姿を現す。
「大切にしたいと言っておきながら、私に黒スト履かせて一緒に寝たいとか言い出すんだ」
「そ、それは……」
ぐうの音も出ない。
「ま、大地がそれでいいならいいけどね」
すると、愛梨さんは俺から身体を離して、何か納得したような表情で自分の寝床へと戻って行く。
「おやすみ大地。今日は一緒に寝ないのが、お仕置きね。黒スト越しに寝れないの、残念でした~」
「えっ……そんなぁ~」
がっくしとした声で残念がる俺。これが本心だったのか、演技だったのか分からない。けれど、寝れなくて残念な気持ちと、バレなくてほっとした反する気持ちが、入り混じっていることは明らかだった。
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