第100話 突撃訪問

 日曜日、愛花は朝8時きっかりに帰って行った。

 勉強があるからと言っていたが、日曜日くらいもうちょっとゆっくりしていけばいいものを……そういうところは真面目なんだよな……



 今日は5月とは思えないほどの暑さとなり、日中は35度を超える猛暑日になるそうだ。

 朝早くに起きてしまったが、外に出たくないため、久しぶりに部屋の大掃除を実行することにした。


 キッチン周りやトイレなど久々に掃除したところはやはり汚れが目立っていた。

 お掃除モードに完全に突入した俺は、目に見えるところはもちろん、普通の家ではほとんどやる人はいないであろう冷蔵庫の後ろや、テレビの下、タンスの裏まで綺麗さっぱり埃をなくして引っ越して来た時と同じくらい綺麗に掃除した。


 最後に汗をたっぷりと掻いてしまったので、シャワーを浴びがてらお風呂掃除を完璧に済ませたところで、ようやく一息ついた。

 気が付けば、お昼ご飯も食べるのを忘れ、時刻は夕方4時を回っていた。

 しかし、一段落して気を抜いた時にやってくるのが空腹である。


 俺は冷蔵庫の中を確認するが、丁度ほとんどの物を切らしてしまっている状態であった。

 白米のストックも確認するが、綺麗さっぱりなくなっており、米を炊かなくてはいけない状態になっていた。


「これは結局外に出なきゃいけないやつですね……」


 夕方16時を回ったにも関わらわず、全く涼しくなる気配がない外の気温に対して絶望を感じつつ、米をとぎ、炊飯器のタイマーをセットしてから俺はスーパーへ買いだしに向かった。



 ◇



 スーパーで買いだしを終えてアパートへ戻った時であった。

 アパートの階段を登った一番奥の廊下の前に人影があるのに気が付いた。

 その人物は、白のワンピース姿にデニムのジャケットを羽織り、ピンクのバックを持って部屋の様子を覗き込むようにしていた。


「あの~何か御用ですか?」


 俺が下の方からその女性に声を掛けると、ビクっと俺の声に反応しておそるおそる俺の方を振り返った。

 その女性は俺の姿を見るなり、ほっとした表情を浮かべた。


「なんだ、大地くんかぁ~よかったぁ」

「って、綾香じゃん。何してるの?」


 綾香は、ほっと胸をなでおろしていた。


「え? あぁ、ちょうど今日この辺りでロケの仕事があったんだけど、珍しく早く終わったから大地君いるかなぁ?と思って突然お邪魔しに来ちゃった」


 ニコニコとしつつ無邪気にそんなことを言ってくるので、俺は思わず苦笑しつつも、はぁっとため息をついて見せた。


「ったく、俺がいなかったらどうするつもりだったんだ」

「それは……まあ連絡してみようかなと……」


 順番が逆ではないだろうかと疑問に思いつつも、俺は綾香を見ながら会話を続ける。


「まあ一先ず俺が丁度買いだしから帰って来たところでよかった、今そっちに向かうからちょっと待ってろ」

「あ、うん」


 そう言い残して俺は階段の登り口の方へと向かい、階段を駆け上がった。

 そして、綾香が立っている俺の玄関の方までトコトコと歩いて近づいていった。

 ワンピース姿の綾香は、今日の真夏日にはとても涼しげな装いをしており、立ち姿がとても透明感触れる透き通った感じで、様になっていた。


「ん? どうしたの?」

「あ……いや、なんでもねぇよ」


 俺はしばし玄関の前で綾香の立ち姿に見とれてしまっていたが、プイっと目を逸らして鍵を開けて部屋へと入っていった。

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