第98話 志望校(愛花5泊目)
食事を終え、食器洗いなどの片づけを済ませて部屋の方へ戻ると、再び机で勉強していた愛花は、ふぅっとため息をついて教科書を閉じた。どうやらちょうど切りのいいところまで終わったらしい。
そして、愛花が閉じたその本は、オレンジ色をした志望校ごとの過去問が載っているいわゆる赤本というものであった。
懐かしいな~・・・・・俺も去年腐るほど解いたなぁ~と感慨にふけっていると、愛花と目が合った。
「過去問といてたのか」
「うん」
「そういえば、愛花って第一志望どこなんだ?」
「えっと……ここ……」
愛花は先ほど解いていた過去問の背表紙を見せてくれた。
「えっ……」
俺はその大学名を見て驚いた。
「俺の大学じゃん!」
「うん、そうだよ」
「そうだよって……」
愛花はあっけらかんとした表情をしていた。
「同じ大学なら早く言ってくれればいのに……」
「まあ、行ったことあるし、雰囲気とかも知ってるから別に言わなくてもいいかなと」
「お前な……」
俺の大学は、理系と文系も同じキャンパスで授業を受けているので、場所は変わらない。よって、もし愛花が俺と同じ大学に合格したら、晴れて同じキャンパスで大学生活を送ることになるのだ。
「それとも……私のこと知りたかった?」
すると、意味深な言葉を含めながら愛花がそう言ってきた。先生としてなのか、個人的になのか、はっきりと言わずに聞いてくるあたりがずるい。
「あぁ……そうだよ」
「そっか」
だから俺もわざとはっきりとは言わずに、お茶を濁して、そっぽを向きながらそう答えた。
愛花の表情を伺うことは出来なかったが、声のトーンから嬉しそうなことは明白であった。
「それじゃ、私シャワー浴びてくるね」
「お、おう」
過去問や筆記用具などをリュックに閉まい、中から寝間着を取りだした愛花は、そのまま洗面所の方へと向かって行ってしまう。
それにしても愛花が同じ大学志望だったとは……初めて会った時点で聞いておかなくてはいけなかったのだろうが、正直驚いた。
愛花のあの成績ならば、俺なんかの大学よりも、もっと上の大学を目指せる実力だと思う。それなのに、どうして彼女は俺と同じ大学を志望しているのだろうか??
俺と同じ学園生活を送りたいから? いやいや、おそらく俺と会う前から志望校なんて決めてただろうし、それはないだろう。だとしたら……何かほかにあの大学に入りたい本当の理由があるのではないか。そう思えてきた。
「大地……」
「ん? どうし……た・・!?」
すると、愛花が制服のセーターを脱いで、Yシャツ姿にスカートの状態のまま洗面所から冷たい視線を向けながら出てきた。
愛花の片手には、大きな紫色の花柄模様のブラが掲げられていた。そして、もう一方の手には紙が掲げられており。
『私のことを思いだして使ってね♡』
と書かれていた。
「これ……何?」
「っげ……」
愛梨さん!! 何してくれちゃってるの!?!?!? しかも使ってね♡って何に使えと???
「大地……」
「ひ……ひゃい……」
怖いよ……愛花怖いよ……顔が全く笑ってないよ……
「はぁ……」
愛花は呆れたようにため息をついて、再び俺のことを睨み付けた。
「ま、別に私が一方的に泊りに来てるだけだし、他の女を泊めるのは別に構わないけど……」
意外と寛容な愛花の対応に驚きつつ、愛花は言葉を続けた。
「この部屋でヤってないでしょうね?」
「へ?」
俺はポカンと口を開けて呆けてしまう。
「だから~!! セックスしてないよねってこと!」
顔を赤らめて恥ずかしそうに愛花は言い放った。
「なっ……!?」
ヤってないってそう言うことか!
ようやく状況を理解して、俺は咳払いをしてから愛花に向き直る。
「おう……してないぞ」
「ホントに?」
「本当だ、神に誓うよ」
「ふぅーん。ま、大地がそう言うなら今回は許してあげる」
「助かる」
納得は言っていないようであったが、愛花からのお許しを受ける。愛花さん、意外と寛容なお方で尊敬いたします。
心の中でそう思っていると、愛花は手に持ったブラをじぃっと眺めていた。
「おっきい……」
そう言いながら自分の胸にそのブラを当ててみる。愛花の可愛らしいその身体では、そのブラはお腹の半分くらいを埋め尽くしてしまうのではないかという大きさで、全く愛花には合っていなかった。
すると、その様子を見られていたことに気が付き、再び愛花が俺を睨みつけてくる。俺は咄嗟に目を逸らした。
「……」
じとっとした冷たい視線が突き刺さっていたが、見ないようにして愛花の怒りが収まるのを待った。
「ねぇ、大地」
すると、愛花に声を掛けられる。
「な、なんだ?」
「大地は、おっぱい好き?」
「はい?」
いきなりの意外な質問に、思わず愛花の方を向いてしまう。
愛花はむくれっ面をしていた。そんな姿も可愛い……じゃなくて!
「なんて?」
「だから、このブラの人のおっぱいは好きかって聞いてる」
そりゃまあ、好きに決まってるだろ……とド直球には流石に言えないので、一つ咳払いをしてやんわりと答える。
「まあ、嫌いではない……よ」
「ふぅーん」
またもや不機嫌そうな口調で答えた愛花は、もう一度そのブラを見つめなおすと、そのまま紙と一緒に後ろへ放り投げた。
「あぁ……」
俺は思わず適当に放り投げられたブラと紙を、物欲しそうに眺めてしまう。
しまった!っと思った時には時すでに遅く、愛花はまたもや冷たい鋭い視線を俺に送っていた。
「大地」
「は、はい……」
しばしの沈黙の後、愛花が意味ありげなことを言ってきたのであった。
「おっぱいよりもいいところ、私が教えてあげる」
愛花は冷たい視線を送ったまま、至って真面目な表情でそう言い放った。
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