第72話 お帰りのおっぱい

 空港に到着してから電車に揺られて1時間ほど、最寄り駅から慣れ親しんだアパートへの道をトランクをコロコロと引きながら歩いていた。

 1週間ぶりに戻って来た都内は、北の大地と違い、人の活気にあふれていた。家も隙間なく連なっており、やはりどこかどんよりした空気感が込み上げている気がした。


 そんなことを思いつつ歩いていると、アパートが見えてきた。1週間ぶりだというのに、どこか懐かしささえ感じられる。

 アパートの階段を登り、廊下をつき進み、一番突き当り奥にある俺の部屋の前で立ち止り、鍵を取りだして開けようとした時だった。

 バタバタとした足音から隣から聞こえ、勢いよく扉が開かれる。

 ドアから現れたのは、目を見開き、息を荒げた優衣さんだった。


「優衣さん、どうしたんですか?そんなに慌てて」

「よかったぁ~」


 優衣さんは安心したようにほっと胸をなでおろして息を吐いた。


「??」


 俺が不思議そうに首を傾げていると、スリッパを履いた優衣さんが廊下に出てきた。

 白カーディガンを羽織ってダボっとしたピンクのタンクトップを着ているにも関わらず、これでもかというようにプルプルと揺れている胸が都内に帰って来たことを実感させられた。ただいま、優衣さんのおっぱい。俺は帰って来たぞ。


 そんなしょうもないことを考えている俺を尻目に、優衣さんはトコトコと俺の方に近づいてくる。


「この1週間ずっと大地くんの部屋から明かりも人の気配もないから、どうしたかと思って心配してたんだから!」


 優衣さんは頬をプクっと膨らませながらちょっと怒っていた。


「そっか、優衣さんに言ってなかったですもんね。すいません、GWは実家に帰省してたんですよ」

「はぁ~……なんだぁよかったよぉ~。てっきり私は大地くんが変な人にさらわれちゃったんじゃないかと思って心配したんだからね!」

「そんなことはあるわけないじゃないですか!」


 むしろ優衣さんの方が俺は心配です……とは口が裂けても言えなかった。


「それにしても元気でよかった」


 手を胸において再び優衣さんは胸を撫で下ろす。息を吐いた時に、胸がスっと揺れた。


「そうだ!」


 俺は気を逸らすようにして、トランクを開けて探し物をする。その間、優衣さんはキョトンとしながら首を傾げていた。

 俺が目的の物を見つけて袋から取りだした。


「はい、これ、お土産です!」


 俺は北の大地の一番有名であろうクリームが挟まった四角形のクッキーの入った箱を優衣さんに手渡す。


「あ……ありがとう……」

「余ったら職場の人とかに分けちゃってください」

「うん、わかった」

「それじゃあ」


 俺が今度こそ、ドアを開けて部屋に入ろうとすると、優衣さんに声を掛けられる。


「あのっ!」


 俺は部屋に身体を入れ、頭だけ残して優衣さんへと振り返った。優衣さんは少し俯きながらボソっとした口調で言葉を発する。


「今度からどこか出かけたりするときはちゃんと言ってほしい、直接言わなくてもいいから……だからその……連絡先交換してほしい……かな、なんて」


 上目づかいで頬を少し染めながら言ってきた優衣さんに対し、俺は破顔して微笑んだ。


「わかりました」


 そう言って俺はスマホを取りだして優衣さんとトークアプリの連絡先を交換した。

 優衣さんのアイコンを登録すると、アイコンの画面にはニコっと微笑んだピンクのタンクトップ姿で、ビールを煽っている姿の優衣さんの顔写真が写っていた。いかにも優衣さんらしいアイコンで思わず口角が上がってしまう。


「今度から長期で家を空けるときは、ちゃんと連絡なり直接言うなりします」

「うん、ありがとう。そうしてくれると嬉しい。それからお土産もありがとね」

「いえいえ、優衣さんにはいつもお世話になってますから」(特におっぱいで)

「いやいや、私の方こそいつもお世話になりっぱなしで申し訳ないというか……あ、そうだ!」


 すると、優衣さんは何か思いついたように俺を手招きした。

 俺が不思議に思いながら優衣さんに近づくと、優衣さんはガシっと俺の肩を掴んで俺の顔をその柔らかいおっぱいの元へと抱き寄せる。


「ちょっと優衣さん!?」


 俺は優衣さんに抵抗して力を入れて、何とか体制を保つ。


「いいからいいから、いつでも私のおっぱいに埋もれさせてあげるって言ったでしょ~」


 いやいや、でも今!? ここ廊下で外だし……周りを見渡して誰もいないことを確認してから優衣さんの胸を見た。

 とてもフワフワそうで誘惑に負け、思わず力が緩んでしまう。優衣さんの力に任せ、俺はそのまま足を曲げて立膝になりながら吸い込まれるように優衣さんのおっぱいにダイブした。

 ポヨンとワンバウンドして再び顔が谷間に吸い込まれた。

 優衣さんの柔らかい弾力のある若若しいおっぱいに、顔を押し付けられて俺は情けない表情をしているのだろう。


「お帰り~大地君。はい、お帰りのおっぱいですよ~」


 俺はそのまま優衣さんのおっぱいを堪能する。

 あぁ、これだよこれ……帰って来た~!!

 ただいま優衣さん、そしてただいま優衣さんのおっぱい


 完全に都内へと戻って来たことを優衣さんのおっぱいに顔を埋めて実感し、思いっきり優衣さんのおっぱいの弾力と、匂いを息を吐きながら堪能してから離れた。


「どうだった? 2週間ぶりの私のおっぱいは?」


 見下ろしながらニヤニヤとしながら優衣さんが聞いてきた。


「そのぉ……最高でした……」

「そかそか」


 満足そうな表情を浮かべている優衣さんに導かれるようにして、俺は再び優衣さんのおっぱいへ顔を埋めた。

 ただいま、優衣さんのおっぱい。

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