第65話 心地の良い朝(春香4泊目)
朝、目が覚めた。カーテンの隙間から明るい外の光が差し込んで薄暗い部屋に入りこんでいた。
大学生になった春香と抱き合って寝て、気が付いたことが二つある。
一つは、今までも何度か思っていたことなのだが、春香はめちゃくちゃ甘くていい匂いがするということだ。とても女性的な匂いがするのだ。香水やシャンプーの香りではなく間違えなく春香から放たれている匂い。俺はその匂いが正直嫌いではなかった。むしろ、その匂いをくんくんと全身くまなく嗅いで堪能したいくらい、大好きな香りかもしれなかった。
そんなことを思っていると、つい愛花のJKの匂いを嗅いでいた自分の変態行為を思いだして……おっといけない、いけない。色々とよからぬことを思いだしてしまうところだった。
俺は再び意識を目の前にいる春香へと戻す。
そしてもう一つは、抱き心地が最高だということである。女の子特有の柔らかとした身体ということもあるが、なんといっても俺の腕を背中に回した時のフィット感が抜群だった。
全く変な力を入れず腕が疲れることなく、ずっと抱きしめていることが出来るのだ。まさに俺の腕の寸法を測ってオーダーメードで作った抱き枕みたいな感じだ。
俺はこの甘い香りと抱き心地の良さに包まれて、何度も起きようとしても起きれない魔力にかかってしまい、中々春香から離れることが出来なくなってしまっていた。
俺が目をトロンと開けながら惰眠を謳歌していると、モゾモゾと春香が動いてようやく目を覚ます。
「んっ……んん~んんっ……」
甘い吐息を吐きながら埋めていた顔を離して、ゆっくりと思い瞼を開けた。
「おはよ、春香」
俺が春香に声を掛けると眠そうな目をこちらに向けながら、しばらくお互いに見つめ合う。
そして顔を破顔し、ニコっと笑みを浮かべて顔の力を抜いた。
「おはよ~大地ぃ~」
すると、再び俺の胸元辺りに顔を埋めた。
「はぁ~大地の安心する匂いだ~」
甘えた声を出しながら俺の幼馴染は変なこと言っていた。って、俺もいい匂いとか思ってるしお互いさまか……
すると、顔を離した春香はヌルっと身体を上にずらして、俺の顔の正面に自分の顔を置いて真横に並んだ。
「大地……このままもう一回ギュってして」
可愛い甘えた声でそんなことを言ってくる春香に、俺はNOとは言えるはずもなく、むしろニコっと笑って抱き寄せる。
「はぁ~」
俺に抱きしめられると、満足そうに甘い吐息を吐いていた。俺も気付かれないように息を大きく吸って春香の甘い匂いを堪能した。
「朝からラブラブですね~二人とも~」
その時、後ろからニタニタとした声が聞こえ、俺と春香はとっさに抱き付いていた手を離して声の方へと振り返った。
そこには、ニヤニヤと笑みを浮かべながら、大空が俺たちの光景をベットの横で観察していた。
「大空!?」
「いつからそこにいたの?」
「うーんとね、10分前くらい??」
「いるなら声かけろ!」
「いやぁ~だってあんなに幸せそうにお互いに愛しあったように抱き合っちゃって~。どう声かければいいかわからなくて~」
全部妹に一部始終を見られていたと思うと、ブワァっと一気に体が熱くなり嫌な汗がこみあげてきていた。
「それにしても、どんなにお兄ちゃん大好きな私でも、春香お姉ちゃんのお兄ちゃん好きには流石に勝てないわ。お兄ちゃんに本当は抱き付きたい気持ちを抑えてでも、譲ってあげたくなっちゃうよね~」
「大空ちゃん!!」
「お前はからかってるようにしか、見えないけどな」
エヘヘと誤魔化すように、大空はあざと笑いを浮かべていた。
「まあまあ、いいじゃない! いやぁいいものが見れました! お兄ちゃんも起きたことだし、私部屋に戻るね!」
「あ、ちょっと待ってよ大空ちゃん誤解だってば!」
春香が布団を剥がして必死に誤解を解こうと大空を追いかけようとする。
すると、立ち止り俺のを方へと向き直る。
「勘違いしないでよね! 私たち、ラブラブなんかじゃないんだからね!」
「お、おう……」
見事にツンデレのような捨てセリフを吐き捨てると、春香は大空の方へと全速力で向かっていき、俺の部屋のドアをバタンと無造作に閉めて出て行った。
◇
あれから2時間ほど経った。
大空ちゃんめ……誤解を解くの大変だった。
「本当に? 実は雷に乗じてわざと一緒に寝るために、昨日部屋に大空を連れていかせたんじゃないの?」
と大空ちゃんにかわかわれたが、本当にあの時は怖くて大地に助けてもらっただけだから! となんとか説得して納得してもらった。
今は自分の家に戻り、都内へ帰るための荷造りを私の部屋でしていた。
トランクのチャックを閉めて、無事に荷造りを完了して思わずため息をついた。
はぁ~でも大地は優しいなぁ~。私が雷怖いの知ってて、優しく抱きしめて安心させてくれて……また一緒に寝てもらっちゃった。
大地に抱きしめられると、いい匂いがしてすごく幸せな気分になりとても安心できる。そんな安らぎを私は大地に覚えていた。
「朝も大空ちゃんに邪魔されなければもうちょっと一緒に大地と抱き合ってられたのに……」
気が付けば、私は部屋で一人でそんなことを口にしていた。
「はぁ~」
思わずため息が漏れる。私何やってるんだろう……小さいころから私の好きな人はずっと変わっていないのだ、いつも一歩先をあるいてて、いつも私はそれに付いていくだけだったけど、私が立ち止ると振り返っていつも手を差し伸べてくれた。
あぁ……どうしていつも否定してしまうのだろう、好きって言った後にすぐに恥ずかしくなって誤魔化して否定しちゃう悪い癖。大地は鈍感だからまだ気づいていないみたいだけど、好きって正直に言っても大地は信じてくれないだろうな……というかもう既に信じてくれていないのかも!?
それに……都内に引っ越してから大地の様子が変わった。私に会う時はいつものように接してくれているけど、私にはわかってしまう。
なんというか女の子慣れしたというか、高校の時とは明らかに何か余裕のようなものが感じられた。
やっぱり前に言ってた女の人と何かあったのかな??
そうしたら、もしかしたらあの部屋にその女性も来ているのだろうか??
それを考えてしまうと、もう私の頭の中はナイーブなことしか考えられなかった。
もし大地が、あの女性ともう一線を超えるようなことをしてしまっていたなら……むしろ私は恋愛対象にすらないっていない、ただの邪魔ものになってしまう!?
これは、何とかして大地から情報を聞きださないと……今の現状に満足しているようじゃダメだね。
そうして気合いを入れ直し、トランクを持って、私は実家を後にするため玄関へと続く階段を下りた。
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