第62話 濃密なキス
あっという間に4時間が経ち、スマートフォンのアラームが鳴った。俺はタイマーを止めて、スマホの画面を見ると、大空から何本もの電話がかかってきているのに気が付いた。
俺は綾香を起こした後に、大空に連絡をした。怒っている大空に何度も謝罪をしたが、これは後でスイーツでも買ってあげないと機嫌直してくれないな……そんなことを思いつつ、急ぎ足で駅前の家族がいる元へ戻るため、お互いに着替えを済ませホテルを後にする。
◇
俺たちがホテルから出る際に、我慢できないと言ったようにホテルの前で抱き合い、濃密なキスをしているカップルに出くわしてしまった。
俺たちが気まずそうにしていると、キスを終えたカップルは気にする様子もなく会釈を交わして、俺たちと入れ替わるようにホテルの中へと消えていった。
俺たちがホテルを出ると、夕焼け空が広がっていた。
その太陽が沈む方角にある大通に向かって、俺たちは微妙な距離感を保ちながら綾香と並んで歩いていた。
「ねぇ……」
「ん?」
声を掛けられたので綾香に顔を向けると、綾香はボゾボゾと言葉を口にする。
「さっきの人たちにも……私たちってそういう関係って思われちゃったのかな…?」
さっきの人たちというのは、ラブホテルの前ですれ違ったカップルのことであろう。
「まあ、そうじゃないかな……ラブホテルから男女が出てきたわけだし……」
「そっか……そうだよね」
綾香はそのまま地面の方を向いて俯いてしまった。帽子越しであったこともあり、表情を伺うことはあまり出来なかったものの、夕日のせいかわからないが、頬を赤く染めているように見えた。
大通りの交差点まで出ると、綾香が俺の一歩前へトコトコと歩み出て振り返った。
「それじゃあ、私はこっちだから、また大学でね!」
「おう、それじゃ」
ニコっと笑みを浮かべてから綾香は振り返り、反対方向へと歩いていってしまった。
振り返るときに、少し寂しそうな表情をしていたのは、気のせいであっただろうか……
俺はそんなことを思いながら、綾香の姿が見えなくなるまで見送った。
こうして、ドタバタの札幌での一日は幕を閉じた。
◇
大地君と別れた後、私は重い足取りで実家に向かっていた。
ずっと頭の中で考えていたのは、先ほどのラブホテルでの大地くんとの出来事。
雰囲気の流れとはいえ、どうして私は大地くんにあんな誘い方をしてしまったのだろう、自分の行動を改めて振り返り後悔する。
大地くんのその後の行動や言動は、紳士そのものだった。
むしろあそこで、大地くんが留まってくれて助かった。あのまま、大地くんが理性を抑えならなくなり、もしそのままエッチなことををしてしまっていたら……この後、大地君と二度と顔を合わられなくなってしまったに違いない。
しかし、今後は帰り際に出会ったカップルのことを思いだす。
カップルの人たちから見れば、私たちがそういう肉体関係を持ったカップルに見えていると大地君は答えたけど……それって、あの人たちみたいな濃密なキスを求めあってホテルでしているということであって……
あのカップルがしていたようなお互いが求めあうようなキスを、もし私が大地くんとしていたら……思わずホテルで大地くんとキスをしている自分の姿を想像してしまう。すると、私の顔が火照って火傷しそうなくらいに熱くなっているのを感じた。
他の人に見られないように頬を抑えながら下を向いて、人々を掻き分けながら歩いていく。
ダメだ……私今度からどうやって大地くんに声を掛ければいいのか結局わからなくなっちゃったよ……
そんなことを繰り返し繰り返し、私は一日中、頭の中で物思いにふける羽目になってしまった。
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