第61話 しても…いいよ?(綾香4泊目)

 俺がベットに入ると、綾香もじわりじわとりベットの前へとやってきた。


「来るか……?」


 俺が顔だけを毛布から出して声を掛けると、コクリとうなづいて、綾香がベットの中へとスルスル入って来た。

 綾香が完全にベットの中に入り、隣り合わせに寝っ転がった。


「その……行くね」

「お、おう……」


 恐る恐る綾香は、緊張しながら俺の方へ近づいてきて、抱き付いてきた。

 抱き付かれて、綾香のフワッとしたいい香りが漂い、柔らかい身体の感触と温かい体温を感じられる。

 そして、しばらく俺の鎖骨の辺りに顔を埋め、スリスリと堪能していた綾香が一度抱き付くのをやめ、腕を広げてきた。


「大地くん、来て……」


 いつもの行為が何故が今日は一語一語いやらしく聞こえてしまう。俺は躊躇しながらも、綾香の胸元へと吸い込まれるように包まれていく。胸元に吸い込まれると、申し訳程度の柔らかい感触が頬に当たった。


 しかし、綾香は緊張が解けていないようで身体を強張らせているような気がした。

 すると、綾香がスっと下に身体を動かして俺の顔の正面に顔を置いてきた。


「どうしたの??」


 どうやら俺も同じように身体に力が入っていたようで、いつもと違う様子を感じ取った綾香が、心配して俺の様子を確認しにわざわざ降りてきたらしい。


「キャ!」

「おっと……」


 すると、俺がスっと力を抜き、綾香はグっと変な力を入れてしまったため、綾香が俺を押し倒すような形になる、仰向けになった俺に馬乗りになるように綾香が乗ってきてしまった。

 目の前でお互い見つめ合う形になり唇がくっつきそうになるほど顔が目の前にあった。


「えっ!?」


 すると、突然驚いたように綾香が腰を浮かせて身を少し引いた。

 どうしたのかと下半身の方へ意識を向けると、俺の下着越しから下腹部が大きく腫れあがっていた。


「あの……大地くん……これ……」


 綾香は俺の下半身の方をチラっと見た後に、頬を染めながら色っぽい表情で俺を見つめてくる。


「あ、いやっ、これはその……」


 俺は思わず目を逸らす。


 仕方なかった、真昼間のラブホテルでお互い下半身下着姿のまま、お互いに抱き合って寝ているのだ。しかも相手は、透明感あふれる超絶美人である女優の井上綾香だ、興奮しないわけがなかった。

 俺が何も言わずにいると、綾香は俺の下腹部と自分の下腹部に押し付け、ウルウルとした表情で俺を見つめてきた。


「大地くんがしたいなら……してもいいよ?」


 俺は目を見開いて綾香を見つめると、キョトンと首を傾げ、耳に掛けていた黒髪がすらっと前に流れ、トロンとした目で俺を見つめ色っぽい表情で甘い吐息を吐きながら誘惑してきていた。

 思わず俺はムラっと来てしまい生唾を飲みこむ。

 

 本当にいいのか?? ここで井上綾香とセックスをしてしまってのいいのか?

 俺は心の中で自問自答をする。


 いや、違う……これはお互いが本当の意味でセックスがしたいわけではない。ただ、その場の雰囲気に飲まれてしまっているだけだ。落ち着くんだ……

 

 俺は心の中での葛藤と戦いながら、なんとか理性を抑えて息を吐いた。次の瞬間、俺は綾香のトロンとした色っぽい表情が見えなくなるように、綾香の頭を俺の首元に置くような形にして抱きしめた。


「え!? だ、大地くん!?」


 綾香は突然の出来事にビクっと体を震わせていたが、落ち着かせるように綾香の頭をポンポンと撫でた。


「大丈夫だから……やましいことをしにここに来たわけじゃないから……そんな無責任なことはしないよ」


 俺は勇気を振り絞って綾香に向けてそう言い放った。男としては失格なのかもしれないが、今俺が出来る精一杯のことだった。


「そっか……」


 綾香は一言ボソっと言い放つと、ふぅっとため息をついて、身体の力を抜いた。

 どうやら、ようやくいつもの平常心を取り戻したようだ。

 俺もそれを確認して、安堵したように身体の力を抜いた。


「フフッ……」


 すると、綾香が半笑いのような息を漏らした。


「どうしたの?」

「いやっ、大学サボってこっちまで来て、大地くんと会って昼間からラブホテルで一緒に抱き合って寝てるって……ホント何やってるんだろうって思っちゃって」


 正気に戻った綾香が、呆れたような口調でそんなことを言ってきた。


「ホント、何やってんだろうな……」


 抱き合ったままお互い苦笑いを浮かべながら会話を交わす。


「はぁ~、でも、大地くんに会えたからなんか嬉しくなっちゃったんだよねー」


 感慨深くそう言いながら、綾香は再び俺の背中に手を回して抱き付いてきた。

 俺の下腹部を気にせずに思いっきり自分の下腹部の辺りを再びくっつけて、足を絡め合い、べったりと俺にくっ付いた。


「そっか……」


 俺はそんな綾香を横眼に見ながら、もう一度力を入れてギュっと抱きしめた。


 二人は落ち着きを取り戻してはいたものの、先ほどの甘い雰囲気が名残惜しかったかのように、そのままお互いの身体の温もりを感じ合う、愛し合った後のカップルのようなハグをして余韻に浸りながら、段々と意識が遠くなっていくのを感じながら眠りについていった。

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