第57話 東京アララ
玄関に入ると、少し昔にタイムスリップしたかのような和のテイストを漂わせた変わらない実家の景色が現れ、ふぅっと思わず深呼吸をした。
「なんか1カ月しか経ってないのに、懐かしいな……」
「そうかな? 全然変わってないと思うけど」
「まあ、大空も家から旅立った時に分かるさ」
「フニャ……」
ポンと大空の頭に手を置いてを撫でると、猫のような可愛い声を上げた。ホント、俺の妹はこんなに可愛いぜ。
「お姉ちゃん、お兄ちゃん帰って来たよ」
靴を脱いでリビングへ向かうと、大空にお姉ちゃんと呼ばれ、先に帰省したいつもの人物が待っていた。
「おかえり」
「なんで帰省早々、俺の家でくつろいでるんだお前は」
「え~だってお母さんたち仕事だし、やることないんだもん」
そんな愚痴を叩きながら、春香が当然のようにリビングのテーブルの椅子に腰かけ、頬杖をついて退屈そうにしていた。
どうやら、俺が帰ってくるまで大空とお喋りをしていたようで、テーブルの上には湯呑みとお菓子の袋が散らかっていた。
「そうだ! お姉ちゃんにお土産貰ったんだよ! じゃーん!」
大空が嬉しそうにお土産を見せてきた。
「げっ!」
それは、都内では一番有名は洋菓子である『東京アララ』だった。俺は思わず顔を引きつらせた。
「ん? どうしたのお兄ちゃん?」
首をキョトンとしながら大空が尋ねてきた。
「すまんな大空、実は俺もお土産を買ってきたんだが……」
俺が鞄の中から買ってきたお土産の袋を取りだして大空に手渡した。大空が袋から取りだすと、今大空が俺のお土産の下に敷いているものと全く同じパッケージの洋菓子の『東京アララ』が出てきた。
「すまん、被った」
「はぁ? あんた妹に上げるお土産ならもう少し東京っぽいものにしなさいよ!」
「いや、都内のお土産といったらこれが一番東京っぽいだろ!」
「そうじゃなくて、もっとこう……最新流行りのスイーツというか映えるようなやついうか」
「そう言うのはお前の方が知ってるだろうが」
「女子大学生が全員スイーツ事情に詳しいと思ってる方が大間違えよ」
「フフッ……」
春香と言い争っていると、突然大空がクスクスと笑いだした。どうしたのかと思い、俺と春香は大空の方を見つめる。
「お兄ちゃんとお姉ちゃんは相変わらず相思相愛だね~」
ニヤッと笑いながら大空にからかわれ、俺は思わず口ごもった。
春香の方をチラっと見ると、目が合った。お互いに咄嗟にそっぽを向いて顔を隠す。
「二人とも顔赤いよ」
「ちょ!?」
「大空ちゃんっ……!」
小っ恥ずかしくなりながらも、俺は再び春香の方に目を向けた、春香も恥ずかしそうに頬を染めながらチラっと俺を見ていた。
「その……すまん」
「私こそ……ごめん」
お互いに謝り仲直りをして、俺は恐る恐る春香に聞いた。
「ちなみになんだけど、買ってきたのって『東京アララ』だけ?」
「そうだけど?」
「俺もそうなんだわ……春香の家用も友達用も……どうしようか」
「……」
「……」
困り果てて俺と春香が黙りこくっていると、ビリビリと紙包装を破る音が聞こえた。
音の方を見ると、大空が『東京アララ』の包装を破って箱を開けて、アララを一つ取りだした。
「へぇ~本当にこんな感じなんだね! いただきます!」
小包装を破いて中から現れたアララをパクっと口に含んだ。
味を噛みしめるようにアララを飲みこんだ。
「んん~ん……」
大空は頬を抑えながら至福の声を上げた。
「すごい美味しいよ! これなら何個でも食べれちゃうよ! 買って来てくれてありがとうね! お兄ちゃん、お姉ちゃん!」
キラキラと目を輝かせながら笑みを浮かべて感謝の意を伝えてきた大空を見て、俺と春香はお互いに顔を見合わせる。そして「フフッ…」と破顔して、口角を上げた。
「よしっ、俺らも一個食べるか」
「そうだね」
俺と春香はアララを一つ手に取り、小包装を丁寧に開けて、中から取りだしたアララを口に含んだ。
その味は、どこか甘くて少しほろ苦いような感じがした。
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