第四章 北の大地帰省GW編

第56話 ブラコンな妹

 土曜日、今日から世間はゴールデンウィークに突入した。社会人にとっては嬉しい大型連休。しかし、俺たち大学生にGWはない。俺たちはいつもの教室で

 頬杖をつきながらダルそうに授業を聞いていた。

 

 授業の日程調整が合わないとかなんとかで、うちの大学は祝日は休みではなく普通に大学の授業があるのだ。マジで大学の上層部は何を考えてるんだ? 小学校から高校までの学校は休みで、大半の社会人も休みなのだから、大学も休みにしようぜ……

 俺はそんなことを思いながら教室を眺める。


 やはりGWということもあり、家族でどこか出かける人や、遊びの予定を入れている人が多いらしく、いつもの授業の人数の半分以下しか授業を受けていない。大学は授業の出席に関してはあまり重視はしていないため、自主休校してる人が多いみたいだ。

 そして、俺もその自主休校の波に乗る形で、来週の金曜日までは授業が終わり次第、北の大地へと帰還する。本当は夏休みまで帰る予定はなかったものの、妹からのラブコールで仕方なく帰ることにしたのだ。やっぱり、可愛い妹のお願いは断れないからな!



 授業の最後に教授が珍しく授業内で課題を出してきた。GWで人が少ないこともあり、来てくれた人には報酬として課題を提出すれば、期末テストに加点してくれるとのことだ。


 くそ大学教授め……こういう世間の波に逆らって、こういう意地悪なことしやがる……

 金曜日までの他の授業で、このような加点課題が出ないことを祈りながら、さくっと課題を終わらせる。


 課題を提出して席に戻り、時間を確認した。飛行機の時間まではまだ余裕があるが、心配なので早めに空港へ向かうことにする。


「大地、もう行く感じ?」


 すると、課題をまだやっていた健太に声を掛けられた。


「うん、まだ飛行機までは時間あるけど、ちょっと早めに行こうと思う」

「そっか。気をつけて行って来いよ」

「ノート代のお土産よろしく~」


 俺がいない間の出席とノートを代わりに取っておいてくれる対価として、詩織たちからはお土産を要求されている。


「はいよ、まあ、無難なのでいいだろ?」

「1人に対して12個入りのやつね」

「まさかの1人1箱?!」

「それはそうでしょ、一週間いないんだから! ね、綾香っち」

「え!? あ、あはは……」


 詩織に突然話を振られ、綾香は苦笑いを浮かべていた。


「帰省、楽しんできてね」

「ありがと」


 綾香は優しく俺にそう言ってきてくれた。詩織と違って対価をねだったりしないところは大人である。


「じゃ、行ってくるわ」

「おう、気を付けてな!」

「いってらっしゃーい」

「お土産よろしく~」

「分かった分かった」


 3人に見送られながら、手をヒラヒラと振り返して教室を後にして、俺は空港へと向かった。



 ◇



 空港へ到着すると、GW初日ということもあり、保安検査場は大混雑をしていた。最後尾に並んで保安検査場を通るのに30分近くかかってしまった、早めに空港へ着いておいて正解である。

 保安検査場を抜け、俺が乗る新千歳行きの飛行機が出発する搭乗ゲートへ到着した。ゲートの近くの椅子には旅行客と思われるキャリーケースを持った家族連れが多く見受けられ、同じ飛行機を待つ人で混雑していた。


 俺は何とか座れる場所を見つけて椅子に腰掛ける。昨日愛梨さんがあんなことをしてきたせいで、目がばっちりと午前中は覚めていたものの、椅子に座って気が抜けたのか、一気に睡魔が今になって押し寄せてきた。



 なんとか眠気に耐え、ボケっと時間を過ごしていると、搭乗のご案内のアナウンスが流れ、搭乗口へ向かうため立ち上がる。

 搭乗ゲートをくぐり、飛行機へ乗りこみ、指定の座席へと着席した。

 機内は見渡す限り満席で、多くの旅行客で賑わっている。

 しばらくすると、飛行機が動き出し、安全設備のご案内の映像が流れる。


 飛行機は滑走路までの道をゆっくりと進んでいった。

 混雑と離陸の順番待ちの影響で、予定離陸時刻よりも約20分ほど遅れていたが、無事に滑走路にたどり着いた飛行機は、ジェットエンジンのエンジン音を鳴り響かせ、猛スピードが加速していき、空へと飛び立った。


 俺は無事に飛行機が離陸し、ほっと息を撫で下ろして、新千歳空港までの飛行時間を昼寝に費やすことにした。



 ◇



 ドンっと言う音と共に、ガタガタっと機内が揺れ、俺は目を覚ました。

 ブレーキ音と空気抵抗の音が鳴り響き、飛行機が減速していき、身体が持っていかれる。

 窓から外を眺めると、飛行機は無事に着陸して、新千歳空港に到着した。

 飛行機が駐機場に停車し、シートベルト着用サインが消える。シートベルトを外して荷物棚から荷物を取りだし、降車を待っていた。

 しばし待つと、『飛行機のドアが開きました』というアナウンスと共に人の列が動き出し、飛行機から降りた。


 飛行機から出ると、都内では感じられない肌寒さを感じた。俺はシャツにジャケットを1枚羽織っていただけなので、思わず身震いをした。

 空港の外へ出ると、さらに寒さが身に染みた。

 北の大地は5月にも関わらず、冬がようやく開けたくらいの肌寒さであった。

 身体が冷える前に、俺は目的地行のバスへとそそくさ乗りこんだ。

 バスに乗りこんで、小さい荷物の方に入れておいたトレーナーを着た。厚着をしたことでようやく寒さからも解放され一息ついた。


 しばらくすると、満員になったバスは、空港を出発して目的地のターミナルへ向けて出発した。

 やはり連休初日ということもあり、道路がとても混雑していた。流石に渋滞は発生していないものの、いつもならほとんど車通りがないような道に車が走っていた。

 その景色を眺めている間にも、バスは順調に目的地への道を軽やかに走行し、ついに俺の故郷である町へと入った。

 街中へ入ると、ようやく訪れた春の花が広大な辺り一面の草原に咲きほこっていた。

 都内では見られない懐かしい光景に、どこか心がほっと安らぐような感じがした。

 しばらく街道沿いの一本道を走ると、住宅街がちらほらと現れ始め、バスは中心街へと入って来た。


 俺は終点の一つ手前のバス停で、降車ボタンを押してバスを降りた。

 バスから降りると、この地域特有の海風が身体全体を襲う。

 俺は風に逆らうようにバスが通って来た道を戻り、裏路地を右に曲がった、そこから10分ほど歩き、ようやく実家に到着した。


 ドンと現れた2階建ての鉄筋コンクリート製の家は、広々とした庭先に母親の趣味である沢山の花が綺麗に咲き乱れており、『南』と手作り感満載の表札が味を出していた。

 1か月ぶりの実家は、帰ってくるのが1カ月とは思えないほど久しぶりな感じがした。


 俺はしみじみとそんなことを感じながらインターフォンを押した。

 しばらく、家にいるはずの人物を待っていると、可愛らしい元気な声がインターフォン越しから響いてきた。


「はーい」

「ただいま、大空」

「あっ! お兄ちゃん!」


 電話越しで嬉しそうな声を出して、ガチャっと受話器を切ったかと思うと、玄関の方から足音が聞こえ、ガラガラと二重扉になっている玄関を開けて飛び出してきた。


「お兄ちゃん、お帰り~!」


 とびっきりの笑顔で嬉しそうに出迎えてくれたのが、俺の可愛い自慢の妹、大空である。

 少し茶髪がかった肩の辺りまで伸びた黒髪を揺らし、あどけなさが残る顔だちに、パッチリとした可愛らしい目にスベスベの白い肌、スっと小高い小さな鼻に口角をニコっと上げた可愛らしい唇。そんなパーフェクトな妹が、俺の元へ駆け寄ってきて抱き付いてくる。


「大空ただいま~お兄ちゃんだぞ!」

「お兄ちゃん、会いたかったよ~! お兄ちゃんに会えなくて寂しかったよ~!」


 飛びついてきた空を抱きかかえ、ギューっと身体を思いっきり抱きしめた。

 この春で中学3年生になった大空は、成長期ということもあり少し体つきがこの1カ月で大人びたような気がした。特に胸の辺りが……これは、愛花よりも大空の方があるのではないかとつくづく思ってしまった。


「はぁ~お兄ちゃん成分充電完了」

「もう平気なのか??」

「まだダメだけど、1週間あるし、この後たっぷり補充するから大丈夫!」


 幸せそうな笑みを浮かべながら、大空はエヘヘと笑った。守りたいこの笑顔……


「さ、お兄ちゃん。寒いから家に入った入った」

「お、おう」


 妹に腕を引かれながら、1カ月ぶりに実家の玄関へ足を踏み入れた。




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 あとがき


 どうも、さばりんです。

 愛梨さんとの友達以上恋人未満の関係がとうとう始まりましたね。

 そんな中、今日からは帰省編!ついに妹の大空ちゃんが登場しました!!

 いやぁ~長かった(笑)


 そして、北の大地に帰省した南大地に待ち受けているドタバタな出来事とは!?

 まだまだ続きますので応援よろしくお願いします。

 ではでは!

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