第54話 友達以上恋人未満(愛梨4泊目)
部屋に愛梨さんを上げて、俺は荷物を置いた。
愛梨さんは俯いたまま何も発さず、玄関からキッチン前の部屋の床を見つめながら黙ったままだ。
俺は何か声を掛けたほうがいいのかなと、愛梨さんの様子を伺っていると、愛梨さんの方から声を発した。
「大地くん!」
「は、はい……」
「この間のことなんだけど……」
この間のこととは、おそらく先週、俺が愛梨さんに思わず口を滑らせて言ってしまった。「好きです」と告白した件であろう。明確に愛梨さんは言わなかったものの、それくらいは俺にも察することが出来た。
「その……ね……」
愛梨さんは目を泳がせながらモジモジとしていたが、俯いていた目線を上げたかと思うと、思いっきり体を曲げて頭を下げた。
「ごめんなさい!」
俺はその瞬間、身体の奥にあった何かがスット抜けていく感じがした。
あぁ、そうか……俺愛梨さんにフラれたんだ。
何故か悲しみも込み上げてくることはなく、逆に冷静になっていた。
「いや、いいですよ。俺が突然言ったのが悪いんですし」
「確かに、急でビックリしたというか私も頭が混乱しちゃってあんな態度を取っちゃったし……」
「いやいや、急に言われたらあんなものですよ。むしろちゃんと返事返してもらえてすっきりしました」
「え? いやぁ、私まだ返事ちゃんとしてないというか」
「何言ってるんですか? 今ごめんなさいってちゃんと断ってくれたじゃないですか」
「えっ!?」
「え??」
何だろう? 話がかみ合っているようでかみ合ってない気がする。
「今何の話してます?」
「え? 何って先週のことを謝ろうかと……」
「謝るって何に対してですか?」
「何にって? その、大地くんに『好きです』って言われて恥ずかしくて逃げちゃったことに対して……」
「え、ごめんなさいってそういうこと!?」
「うん」
俺は思わずポカンと口を開けてあっけらかんとした表情を浮かべてしまう。愛梨さんは不思議そうに首を傾げていた。
「え、私、何か間違ったこと言っちゃった?!」
訳が分からず、愛梨さんは申し訳なさそうにあたふたとしていた。
俺はそんな愛梨さんの姿を見て思わず大きなため息をついた。
「なんですかそれ……俺はてっきり『ごめんなさい』って断られたのかと」
「……はっ!」
ようやく愛梨さんが状況を理解したようで、顔を真っ赤にしていた。
「ち……違うの! 私が謝ってたのはそっちの意味じゃなくて、逃げちゃってごめんなさいって意味で……そのね? この後、続きがあって……」
この後に言おうと思っていたことを、タイミングをズラされ、どう言ったらいいものかとキョロキョロとしながら愛梨さんは言葉の続きを考えていたが、意を決したように恥ずかしそうな表情を浮かべながら俺を見つめてきた。
「私も、大地君のこと好きです……」
愛梨さんはボソっとしながらそういった。
俺は冷静だった頭が、完全にフリーズした。え? 今なんて言った? 俺のこと好きって言った? いやいやいや、嘘だろ。うんうん、絶対ウソ。何か裏があるに違いない。あははは、もしくはこれは夢だ。そうだ夢だ夢、こんな現実あるわけがない。
俺は天井を見ながら「あははは……いや、ないない」と独り言をつぶやいた。
独り言を愛梨さんに聞かれていたらしく、愛梨さんは頬を赤らめながら
「ホントなんだけどな……」
と呟いた。
え? ホント? ホントなの? あの愛梨さんが!? 俺が一目ぼれしたあの愛梨さんが?!
俺は現実を受け入れられず愛梨さんに確認する。
「いやいや、俺のこと好きって。その、俺たちまだ会ってそんなに経ってないですし。俺が言うのもなんですけど、いきなりそう言われても信じられないといいますか……」
「じゃあ、大地君が言った言葉も嘘だったの?」
「いや、そういう意味じゃなくてですね! その、なんて言えばいいのか理由をその……どうしてこんな普通のどこにでもいるような俺のことを、愛梨さんのような美人が好きになってくれたのかなって……理由、聞いてもいいですか?」
確かに愛梨さんとはよく話したり、家に泊めたりと、色々とあった気がする。だが、愛梨さんクラスの美少女であるならばパッとしない俺なんかよりも、もっといい人を見つけられはずである。どうして俺のことを好きになってくれたのかが分からなかった。
「だって、入学式の時に列に並んでる大地くんを見て目があった時に、私は確信したの。『あ、この人が私の理想の彼氏になる人なんだな』って」
「え? それって……!?」
「うん。一目ぼれ……しちゃったんだよね」
信じられない、俺が愛梨さんを初めてみた時と同じだ。俺が愛梨さんに一目ぼれした時、愛梨さんも同じ気持ちを抱いていたなんて……
俺は先週愛梨さんが言った言葉の通り、本当に運命があるのでならば、今なのではないかとさえ思えてきてしまう。
「それで、また会えないかなって思ってたら、まさか大地くんが勧誘ブースに来てくれたから、あ、これが運命なんだなって。私あの時からあなたのこと気にしてたのよ」
そんなことを思っていたなんて信じられない。俺は度肝を抜かれたようなポカンとした表情を愛梨さんに向けることしか出来ない。
「その……だから、今とは言わないけど。私のこと考えてくれると、嬉しいかな……なんて」
愛梨さんは頬を真っ赤に染めてモジモジしながら上目づかいでそう言ってきた。こんなの、俺も気持ちを抑えられるわけがなかった。
「その、実は俺も、入学式の列に並んでる時に愛梨さんのこと可愛くて美人で、俺のドストライクのタイプだ! って思ってたんです」
「えっ……!?」
俺は生唾を飲みこみ勢いよく言った。
「だから、俺も愛梨さんのことが好きです」
俺は再び正直な気持ちで今の俺の気持ちを愛梨さんに伝える。
「そ、そうだったんだ……へぇ~」
愛梨さんはさらに顔を真っ赤にしながら、どうしていいのか分からないといったように立ちすくんでいた。
「だからその……俺は答えもう出てるんですけど、聞いてもらえますか?」
「ちょっと待って!」
俺が告白をしようとすると、ものすごい勢いで手を前に振って拒絶する。
「その私ね、大地くんと軽い気持ちで付き合いたくなくて。本当に真剣にお付き合いをしたいの……だから、もっと大地君のこと色々知りたいって思ってるから。いろんなことをもっと知ったうえで、ずっと好きでいてくれるなら。今言おうとしてくれたことをもう一回言ってくれないかな?」
顔を赤くしながらも、愛梨さんは一生懸命言葉を紡ぎながら俺にそう言ってきた。
本当にこの人は、俺のことを真剣に考えてくれているのだと思うと、なんとも可愛らしくて愛くるしくあったが、俺も男として一目ぼれした人のことをもっと知りたいという気持ちは同じだったので、笑みを浮かべて微笑んだ。
「分かりました、いいですよ。もっともっと愛梨さんのことを知って、もっと好きになって、今言おうとした言葉の続きを言います」
「うん……ありがと」
愛梨さんは恥じらいながらも、満面の優しい笑みを俺に浮かべてきてくれた。
こうして、俺と愛梨さんは、お互いに友達以上恋人未満の関係性を保つことになった。
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