第45話 専業主夫!?(優衣3泊目)
日曜日は結局、お昼ごろまで綾香と一緒に抱き合いながら
夜遅くまで綾香とゴロゴロして、のんびりとした休日を過ごして、綾香は帰って行った。
そしてあっという間に休日を終え、月曜日がやってきた。重い体を動かして大学へと足を運び、
なんとか授業を乗り切った後、来週提出の課題に手をつけていなかったので、健太達と一緒に課題レポートを書いた。だが、月曜日だったので、なかなかやる気が起きず、ダラダラとやっているうちにあっという間に時間が過ぎていき、気が付けばアパートに到着したのは夜の19時を回っていた。
アパートの階段を登ると、俺の部屋の前で黒い格好をしたショートカットの怪しい人影が覗き込んでいた。
俺は恐る恐る近づきながら、目を凝らしてその人物を睨みつける。
その人物は、俺の物音に気が付いたのか、ピクっと身体を震わせてクルっとこちらへ振り返る。
そこにいたのは、スーツ姿の優衣さんだった。仕事終わりだったらしく、ヒールを履いて化粧をバッチリと決めていた。
「おー、大地くん帰って来た」
「こんばんは優衣さん、どうしたんですか俺の部屋なんか覗き込んで」
「いやぁ~、いつも月曜日のこの時間なら大地くんいるはずなのに、明かりがついてなかったからあれ~?って思ってさ」
頭を手で掻きながら、悪気がないそぶりを見せつつニヤニヤとしていた。
「あー、今日は課題があったので、友達とやってて遅くなっちゃったんですよ」
「そうなんだ。ちなみに夜は食べた?」
「あ、いやこれから作る予定でしたけど」
すると、優衣さんは目をキラキラと輝かせながら、こちらを見つめてきていた。ははーん、それが狙いだったか。
俺はふうっと息を吐いて、口角をニヤっと上げた。
「ったく、しょうがない優衣さんですね。いいですよ、二人分作りますんで、一緒に食べましょう」
「本当に? ありがとう!」
俺がそう言うと、嬉しそうに優衣さんが俺の胸元へ抱き付いてきた。
俺はよろけながら、何とか優衣さんを抱き留める。
優衣さんの香りがふっと漂って来て、思わずくらっとしてしまう。
「とりあえず、着替えてきたらどうですか?」
俺は目を泳がしながらそう提案すると、優衣さんは俺の胸から頭を離して顔を上げる。そして、にこやかな笑顔で
「うん!」
っと子供のように頷き、自分の部屋へと戻っていった。
俺は苦笑いを浮かべつつも、自分の部屋の鍵を開けて中に入っていった。
部屋について、荷物を置きキッチンに向かう。
「さてと……」
冷蔵庫の中身を確認して、今日の献立を考える。
特にこれと言ったものが思いつかなかったので、お肉に、キャベツとニンジン、玉ねぎを取りだして、野菜炒めを作ることにした。
まな板を取りだして、包丁を使って野菜を切っていると、ドンドンとドアがノックされる。
「どうぞ~」
俺が外の人物に聞こえるように声を出すと、ガチャっと追う音と共にドアが開き、袋を持った優衣さんが入って来た。
「おじゃましまーす」
ニコニコとした笑みを浮かべながら、優衣さんはドアの鍵を施錠して玄関から部屋へと上がった。
優衣さんは野菜を切っている俺の元へ近づいてきた。
「今日は何作ってるの?」
「まあ、簡単に野菜炒めを」
「お、いいね!」
優衣さんは、俺の後ろから覗き込むように調理の様子を観察していたかと思うと、クルっと進行方向を部屋の机の方に向けた。
「机、かたしておくね」
「ありがとうございます」
優衣さんは机の方に向かっていき、机の上にあるものを整理すると、再び袋を持ったまま。こちらへ向かってきた。
「ちょっと冷蔵庫使わせてもらいます」
「あっ、はい」
優衣さんは冷蔵庫を開けると、袋から缶ビールを取りだして冷蔵庫の中へと並べていく。
ははーん、なるほど。前回、1本飲み切るごとに自分の部屋に戻って取りに行くのが面倒くさかったらしい。今度は何本か俺の部屋に用意して、飲もうという魂胆の様だ。だから、俺は気休め程度に言ってやった。
「あんまり飲みすぎないで下さいよ」
俺が優衣さんの背中に語り掛けると、ビクっと優衣さんは身体を震わせて顔だけこちらへ向けた。
「あはは……善処します」
優衣さんはデヘヘと緩めた表情を浮かべながら、頭を手で掻いていた。
……心配だな。
そんなことを思いつつ、手を動かして調理を進めていった。
◇
完成した野菜炒めをお皿に盛り付けて、優衣さんがスタンバイしている机へ持っていく。
「お待たせしました、どうぞ」
「ありがとう、じゃあ早速いただきます」
優衣さんは待ってました!とでも言ったように、プッシュっと音が鳴り、ビールの缶を開ける。
そして、グィっと一気にビールを煽った。
「ぷはぁぁぁ……やっぱり仕事終わりのビールが一番!」
おっさん臭いことを言いながら、優衣さんは箸を手に持って、野菜炒めをつつく。
箸で掴んだ野菜炒めを、そのまま口へ持っていき頬張った。
「ん~」
歓喜の声を上げながら、ビールをさらに煽った。
「はぁ~最高……」
頬に手を当て、幸せそうな表情を浮かべている優衣さんを見ていると、俺も怒るに怒れなくなってしまうではないか。
「本当に大地君の料理はなんでもおいしいね!」
さらに、優衣さんが俺の料理の腕前を絶賛してくれる。
「ありがとうございます」
俺はペコリとお礼を返すと、優衣さんは再び野菜炒めにお箸を付ける。
今度は白米が乗ったお茶碗の上に野菜炒めを乗っけて、そのまま掻き込んだ。
「ん~……!」
またも、歓喜の声を上げた。
ゴクリと飲みこんで、再びビールを一口飲んだ。
「はぁ~……こんな幸せな生活が送れるなら、私大地くんのお嫁さんになっちゃおうかな~」
急にそんなことを言われ、俺は思わずせき込んでしまった。
「エホン……ヴン……きゅ……急に変なこと言わないで下さいよ!!」
「ごめんごめん、でも毎日こんな料理が食べられるなら、私も仕事もっと頑張っちゃうし、大地くん一人養うくらいドンってことない気がしてくるというか?」
「いや、なんで俺を養う前提なんですか」
「だって、大地くんも働いちゃったら夕食毎日は作ってくれないでしょ?」
「いや、まあ……そうですね」
「だから、私がバリバリ働いて、大地くんには家事全般を任せれば、結構いい感じになるんじゃないかなーって」
ヘラヘラと思ってもないことを口にする優衣さんは、頬を赤くしながら再びビールを煽った。
「ありゃ? もうなくなっちゃった。取ってこよっと」
缶ビールを早々と1本飲みほしてしまった優衣さんは、冷蔵庫に入れておいた新しい缶ビールと取りに行くため、キッチンの方へ向かっていく。
俺はその間、優衣さんともしお嫁さんになったら……ということを想像していた。
◇
いつものようにキッチンで料理を作っていると、ガチャっというドアの音と共に疲れ切った優衣さんが帰ってくる。
「ただいま~」
「お帰り」
「あ~疲れた……今日のごはん何?」
「今日は生姜焼きだよ」
「やった~生姜焼き!」
優衣さんは靴を脱いでトコトコと俺の方へ歩いてきた。
「いつも美味しいご飯を作ってくれて、ありがとうね」
優衣さんはそのまま俺の唇にキスをしてくる。
俺もそれを受け入れるように、甘い口づけを交わした。
「俺だって、優衣がお仕事頑張ってくれてるんだし、これくらいはちゃんとしないと」
「ん~!!もう……・可愛いんだから!」
「わっ!」
俺は優衣さんの胸に顔を押し付けられながら、よしよしと頭を撫でられる。
「よしよ~し」
「わかったから、服着替えてきな」
俺が照れながらそういうと、優衣さんは「はーい」と言いながら部屋の方へと向かって行った。
◇
妄想から現実へ思考が戻り、俺は冷や汗を掻いた。ありえない話だけど、なんか想像できてしまうところが割と現実味があってちょっと怖かった。
そんな妄想を膨らませているうちに、優衣さんが冷蔵庫から取りだした缶ビールのふたを開けながら戻って来た。
「ん? どうしたの?」
俺が箸を持ちながら動きを止め、机の一点を見ているのが疑問に思ったのか首を傾げてこちらの様子を伺っていた。
俺は、っは!っとなって優衣さんの方を向いて、
「いや、なんでもないです」
と言ってすぐに手元にあった白米を口に掻き込んだ。
優衣さんは座りながら不思議そうな顔で俺を見つめていたが、「優衣さんの専業主夫になるのも悪くないかもしれない」などと思っていたなんて、言えるわけがなく、目の前にあった野菜炒めを口の中へとかき込んだ。
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