第三章 寝泊り発展編
第34話 電話(綾香2泊目)
次の日、今日は火曜日なので、恒例となった幼馴染の春香が泊まりにくる日。しかし今日は、自分の家に友達を家に招いてお泊り会をするとのことで、春香は俺の家には来ないと連絡があった。
家に帰って、久々に一人の時間を過ごしている気がした。ここ最近、何故だか毎日誰かしら泊りに来ていたので、一人の時間を作れるという解放感みたいなものがあった。というか、今思えば全員泊まりに来ているのが女の子というのも、色々と問題ある気がするが……まあいいか。
今はせっかくの一人なわけだし、この一日を謳歌することに決めた。
本棚にある漫画を取りだして、久しぶりに読み漁る。
久々に読む漫画は、何回読み返してもやはり面白かった。
そんな感じで全巻を読み返しているうちに、あっという間に一日が過ぎていき、時刻はあっという間に夜の9時を回っていた。
明日は授業も午前中からで、アルバイトもあるため、準備をしようと立ち上がった時だった。
スマホのバイブレーションが振動した。何回も振動しているので、どうやら電話のようだった。
俺は床に置いてあったスマホを拾い上げて画面を確認する。
すると、着信は綾香からだった。
俺は通話ボタンを押して、電話に出た。
「もしもし?」
『あ、大地くん、こんばんは』
「こんばんは、どうしたの?」
『うん……あのね……』
綾香は歯切れが悪そうにしていた。
『あのね、その、今仕事終わったんだけど、ちょうど大地くんの家の近くでロケだったから、もし迷惑じゃなかったらまた家にお邪魔しちゃダメかなって……』
ボソボソと言った口調で、綾香は恥ずかしそうに電話越しで話してくる。
家にお邪魔するということはつまり、泊まりに来たいってことで……俺は色々とこの前のことを思い出しい、黙り込んでしまう。
『ダメ……かな?』
俺が何も発さないのを気にしてか、綾香は心細い声で甘えるようにして尋ねてくる。
「あ、いや。別にいい……けど……」
俺はそんな甘い誘惑に負ける形で、少し躊躇しながらも綾香にOKを出してしまうのであった。
『本当に?』
「うん、いいよ」
『ありがと、じゃあ、30分後くらいに到着すると思うからよろしくね!』
「あ、うん。わかった」
『じゃあ、また後で!』
「うん、後で」
綾香は先ほどとは打って変わってハキハキとした声で話しながら、電話を切った。
俺は耳にかざしていたスマホを、顔の前まで下した。
「あんな嬉しそうにされたら、勘違いしちゃうじゃねーか……」
俺はそんな一人ごとをぼそっと言ってから、シャワーを浴びるためお風呂場へと向かった。
シャワーを浴び終えて、髪を乾かしてしばらくすると、家のインターホンが鳴った。
「はーい」
俺はドアの小窓を確認した。ドアの前にはニコニコとした綾香が立っていた。
ガチャっとドアを開けると、嬉しそうに綾香が待っていた。
「こんばんは、来ちゃった」
「おう、とりあえず。入れよ」
「うん、おじゃましまーす」
綾香を部屋に上げた。
◇
家に上げたのはいいものの、直接会うと、やはり昨日から続く謎の空気感が襲うのか分からないが、お互い何を話していいのかわからずに黙ってしまう。
何か言わなければ……そんな思考が頭に浮かぶが、俺は何を話せばいいのか全く思いつかない。
しばらく考えていると、綾香の方から沈黙を破ってきた。
「あの!」
ちょっと大きな声だったので、俺はその威圧感からか若干体が後ろ気味に体重が乗る。
後ずさりしそうなのになるのを、なんとか堪えて綾香の方へ体の体制を向けた。
「何……?」
俺が恐る恐る尋ねると、綾香は少しおどおどとして目線を下に置きながらぼそぼそと話し始めた。
「その、急だったのに泊めてくれてありがとう……」
「あ、あぁ……今日は丁度暇だったし、別に構わないよ」
「そっか。それならよかった……」
「……」
「……」
再び二人の間に沈黙が訪れた。綾香はずっと体をモジモジとしながら落ち着かない様子である。
「その……シャワー浴びる?」
今度は俺の方から沈黙を破る。
「へっ?」
突然の提案に驚いた表情を浮かべながらも
「あ、うん。そうしよっかな」
と綾香は答えた。
「着替えとかは今日は大丈夫?」
「え、あぁ。えっと、下着は持ってきたんだけど、また寝巻きだけ貸してもらえるとありがたいかも」
「おう、わかった。じゃあ、持ってくるわ」
「うん、お願い」
そう言って俺は、綾香の元から離れて自分の洋服が入ってるタンスの元へ向かった。
タンスの中から、こないだと同じ上下グレーのジャージを手に取って綾香の元へ持っていく。
綾香は先ほどと同じところで、落ち着かない様子で佇んでいた。
「はい」
「あ、ありがとう」
俺は綾香にジャージを受け渡すと、綾香はそれを受け取り、じっと受け取ったグレーのジャージを眺めていた。
「どうかした……?」
「え!? あ、いや、なんでもないよ。じゃあ、シャワー浴びてくるね!」
綾香は俺の問いに慌ててそう答えて、そそくさとお風呂の方へと向かっていってしまった。
俺は綾香がお風呂場へ去っていくとき、顔を真っ赤にしながら向かって行くのを眺めていることしか出来なかった。
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