第35話 綾香の体 (綾香2泊目)

 俺は綾香がシャワーを浴びている間に、心を清めることにした。やましいことは何もしていないのだが、流れ的に今日も綾香が泊まりに来たということは、俺を抱き枕にして寝るのだろう。そして、俺はこの前のように、綾香の母性あふれる包まれるような柔らかい胸元に吸い込まれて……っていかんいかん! 何を妄想してるんだ俺は!


 心の準備をしておかないと身が持ちそうになかったので、俺は大きく深呼吸をしてこの後に起きる出来事に対して心を決める。


 10回ほどだろうか、それとも20回くらいだろうか、俺は目を瞑りながら深呼吸を繰り返し、心を落ち着かせ、この後の行動に対して意を決した。

 目をバっと開けて、よしっと気合いを入れた。これで問題ないだろう!と気合を込めて立ち上がった。


「ごめん、大地君!」


 するとお風呂場の方から綾香に呼ばれた。


「ん、どうしたの?」

「その……すごい頼みづらいんだけど、下着を鞄の中に入れっぱなしで……申し訳ないんだけど鞄の中から取ってこっちに持ってきてくれないかな?」


 俺の清めた心は一瞬にして打ち砕かれた。え? 下着って……つまり綾香のパンツとブラを俺が持っていくということで……

 思わずごくりと生唾を飲みこんでしまう。


「大地くん?」


 返答がないことに疑問を抱いたのか、不安そうに綾香が尋ねてきた。


「あぁ、わかった持っていく! リュックの中身開けるけど、いいよね?」

「うん、その……あんまり他の物は見ないでね」

「わかった……」


 俺は恐る恐る綾香のバックの前にしゃがみ、チャックを開けた。

 中身を覗くと。下着らしきものがすぐに見つかった。

 俺はそれを凝視しないようにしながらバックから取りだした。


 そこには薄いピンク色のブラとパンツが綺麗に畳まれた状態で俺の手の中に納まっていた。

 思わず俺は2度見してしまうほどにセクシーな下着だった。


 俺は、はっと我に返ってお風呂場の方へ足を向けた。

 そのまま風呂場の方へ忍び足で近づいていき、トイレとの分かれ道の手前までやってきた。


「あった?」


 しかし、忍び足で近づいたのが悪かった。心配した綾香がバスタオル越しではあるが、綺麗な素肌を見せながら目の前に現れた。


 お互いに顔を合わせた、顔の近さに驚く。そして、綾香の顔がみるみるうちに真っ赤になっていく。


「キャ!」

「わっ!ご、ごめん。はい、これ」


 俺は左手で顔を隠しながら、右手で綾香の下着を手渡す。


「あ……ありがと」


 綾香は恥ずかしそうにしながらも、俺の手から下着を受け取った。

 俺はそれを確認して一目散に部屋へと逃げるようにして戻った。


 それにしても……あのスベスベの肌、すごく綺麗だったな……

 俺は結局、悶々と綾香が着替えるのを待つ間、よからぬ妄想をしてしまう羽目になってしまった。



 ◇



 ドライヤーで髪を乾かし終え、綾香が頬を染めながら部屋へ戻って来た。

 俺は綾香が戻ってくるなり、座りながら頭を下げた。


「ごめん!」

「うん、こっちそこ……私が急に出ちゃったから」

「ホントに悪かった」

「いいって気にしないで……」

「……」

「……」


 またもや、俺たちの間に沈黙が流れてしまった。


「……寝る準備しよっか」

「おう」


 俺たちはぎこちないまま、就寝の準備を始めることにした。

 歯を磨き、2つ布団を敷いて、タイマーをセットする。

 ここまでお互いにそれぞれの布団に入って寝っ転がるまで、一言も話さずじまいであった。


「電気消すよ」

「うん……」


 ようやくした会話もそんな事務的なことだけで、ピっという音と共に、部屋の明かりが消え、辺りが暗くなった。


 しばらく自分の息の音と、たまにアパートの前の道を通る車の音だけが部屋に響き渡る。

 もちろん寝付けないでいると、後ろの方でモゾモゾと音がした。耳を傾けながら様子を伺っていると、俺の毛布が剥がされて、冷たい空気と共に綾香が布団へ侵入してきた。


「大地くん……」

「ん?」


 俺が寝返りを打って綾香の方を向く、綾香は恥ずかしそうにしていたが、意を決したように目を瞑って一気に俺に抱き付いてきた。

 肩に顔を置いて、背中に両腕をギュっと巻き付けた。


 俺はそんな綾香を優しく迎え入れてあげた。綾香は何も言わずに身体を強張らせていたが、段々と力が抜けていき、リラックスした状態になっていく。

 そして、俺は今日も寝れないんだろうな。そんなことを思っていると、綾香が抱き付いていた手を離して俺の方を見つめてきた。


 綾香の顔が息がかかってしまいそうなほど近くにあったので、思わず目を逸らしてしまう。

 もう一度チラっと綾香の方を向くと、綾香は先ほどよりも落ち着いた様子でニコっと微笑みながら俺の方を見ていた。

 そして、少し毛布を上に挙げると手を大きく広げて、


「おいで。」


 と一言だけいって俺を胸元へと導こうとする。


 まるで先ほどまでのぎこちない雰囲気が嘘のように、一気に二人の間に温かい雰囲気が漂い始める。さすがは女優、井上綾香。おそらく無理をして演じてくれているのだろうが、今の俺にとってはそれがありがたかった。

 改めて、女優井上綾香の凄さを垣間見た気がした。


 俺は、そんな母性あふれる綾香の雰囲気に吸い込まれるようにして、コクリと頷いてから、ゆっくりと自ら顔を埋めていってしまう。

 それを微笑ましい表情で綾香は迎え入れてくれる。顔両腕できゅっと押さえられ、胸元に俺の顔を収めていく。


 ふわっ、ふにゅっ、ぷにゃっという音が鳴りそうな柔らかいクッションのような、綾香のモチモチとした柔らかい丁度良い膨らみの感触の胸を、しばし堪能する。


 大きく息を吸うと、綾香のシャンプーの香りと女の子の甘い香りが漂ってきた。

 俺はその匂いを堪能していると、頭をポンポンと撫でられる。


 表情を完全に緩ませながら母性の海に俺は徐々に沈んでいく、気が付けば瞼は重くなっていき。幸せな香りと感触に包まれながら眠りについてしまった。

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