第21話 帰り際
初めてのサークル活動は、驚きの連続だった。まずは、この前新歓で潰れてしまったことを太田先輩と冨澤先輩に謝った。二人とも全く怒ってはおらず、むしろ『大丈夫だった?』と心配までしてくれた。
次に驚いたのは、借りている中学校の設備だった。更衣室が男女別に完備されており、温水シャワー付き、さらになんとグラウンドは人工芝。中学校で人工芝なんて……都内の学校はやはり違うなと感心する。
そして、何より最も驚いたのは、愛梨さんのサッカーの実力だった。男子のプレーに引けを取らないほどのテクニックを持ち合わせており、ピッチでとても軽快に動き回り、パスやドリブルを披露していた。
そんなことがあり、今はサークル活動を終えて愛梨さんと一緒に最寄りの駅から帰途についているところだ。
「それにしても、愛梨さんがあんなにサッカー上手いなんて思いませんでしたよ」
「あはは、驚いた?」
「それはもう、とても」
「私、高校までサッカー部だったんだよね! だからサッカーは大の得意なんだ!」
「そうだったんですね」
「大地くんも上手かったじゃん! サッカーやってたんでしょ?」
「高校の途中までですけどやってましたよ。高校の途中からはバドミントン部だったんで」
「そうなんだ、なんで途中で辞めちゃったの?」
「北の大地って雪ばっかりじゃないですか。俺が住んでるところも早ければ11月には雪が積もっちゃって、3月くらいまでグラウンド使えなくて、まともにサッカーの練習が出来ないんですよ。うちの高校はそんなにサッカーも強くなかったんで、室内練習場とかも借りないで3カ月以上筋トレと体感トレーニングばっかりだったので」
「なるほどね。だから、冬でも室内のスポーツなら一年中できるからバドミントン部にしたんだ」
「はい、部員が少なくてちょうど困ってて、友達から誘われたので入りました」
「へぇ~」
愛梨さんは俺の話を熱心に聞いてくれていた。そんな風に楽しい時間というのは、あっという間に過ぎていくもので、気がつけばアパートの前に着いていた。
「じゃあ、俺はここなんで、また」
「うん、バイバイ」
俺がアパートへ向かって歩き出した時だった。
「大地くん!」
愛梨さんに呼び止められて、俺は振り向く。
「あのさ、今日この後……」
愛梨さんは目線を泳がせつつ、きまりが悪そうに俯いていた。
「この後? 何ですか?」
俺が愛梨さんの言葉の続きを促すと、愛梨さんはすっと目線を俺の方へ向け、ニコっと愛想笑いを作ってみせる。
「いや、やっぱなんでもないや!じゃあね!」
愛梨さんはそう言い残すと、手を振りながら自分の家へと小走りに走って行ってしまった。しかし、その表情はどこか寂しげにも見えたのは気のせいではないだろう。
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