第22話 面接と謝罪

 土曜日の午後、授業を終えた後。今日はアルバイトの面接に出向いていた。俺は雑居ビルにある2階の個別塾の会議室で筆記試験を行い、今は面接待ちをしている。緊張な面持ちで待っていると、塾長を思われるお兄さんのような若い男性が入って来た。


「こんにちは、初めまして。ここの塾長をしています。大宮と申します。」


 丁寧に挨拶をされ、俺は慌てて返事を返す。


「あ、南大地と申します。よろしくお願いします。」


 立ちあがって頭を下げてから、お互いにパイプ椅子に座って、早速面接を開始した。大宮さんは、とても丁寧にアルバイトの内容の説明や、普段の大学のことなどを熱心に聞いてくれた。共通の話題もあったので、面接時間はあっという間に過ぎていき、気が付けば1時間近く話していた。


「おっと、もうこんな時間か……じゃあ、合否は1週間以内に連絡するので、お待ちください。」

「はい、ありがとうございました。」


 こうして無事に面接を終え、俺は個別塾を後にする。


 大宮さんに挨拶を終えて、学習塾を出て、外階段を降りている途中、反対に登ってくる制服姿の女子高生がいた。その女子高生がふと顔を上げると、俺と目が合う。俺は、その女子高生に見覚えがあった。前ドラッグストアに寄った時に見た、不思議な女子高生だ。そのくりっとした目と、あどけなさが残る可愛らしい女子高生の顔つきを再び見た俺は、この前ドラッグストアで見た時とは違い、また別のどこかで会った事があるような感じの既視感を覚えていた。


 俺がそんなことを思いながら女子高生を眺めていると。女子高生は、少し驚いたような表情を俺に向けていたが、何事もなかったように顔を背け、俺の横を通り過ぎて、そそくさと個別塾の中に入っていってしまった。どうやらここの学習塾の生徒のようだ。また、会えるといいな……俺は去り際にそんなことを思いながら、学習塾を後にした。


 その翌日の日曜日、大宮さんから合格の連絡が来た。これで、俺は塾講師としてのアルバイトすることが決まった。

 その後、大宮さんと連絡を交わして、来週の水曜日にアルバイトとして初出勤することになった。



 ◇



 そしてあっという間に月曜日。

 今日は授業が午後からだったので、3限の授業を受け、5限の授業まで空き時間があったので健太と詩織と食堂で時間を潰していた。


「あー月曜日だるいわ」

「ホントそれ」


 健太と詩織は、机に突っ伏してグデーっとなっている。週の始まりで、綾香も仕事の関係で今日はいないため、全くやる気が出ないみたいだ。


「そういえば、大地バイト決まった?」


 覇気のない声で健太がそんなことを聞いてくる。


「おう、昨日合格通知きた」

「マジ? 何系?」

「塾講師」

「塾講っ……うちには絶対できないわ」


 詩織はさらにグデっと腕を伸ばしてうなだれる。


「詩織なら全然行けると思うぞ?」

「いや、うちバカだし無理無理。それに年下嫌いっしょ」

「いや、知らんけど」


 俺が思わず苦笑いを浮かべる。


「でも、お前、今度居酒屋の面接行くんだろ?」

「そりゃまあ、お金ないとまずいっしょ」

「そうだよな……」


 健太達とそんなことをだるそうに話しながら、怠惰な空き時間を過ごした。



 ◇



 なんとか5限を乗り越えて、俺は岐路に着いた。

 家で夕食を作っている時、インターホンがピンポーンと鳴った。俺は誰だろうと思い、小窓を確認せずに扉を開けた。

 

 すると、そこにはジャージ姿の優衣さんが立っており、申し訳なさそうに身体を縮こまらせていた。


「優衣さん、どうしました?」

「あの、先週のことを謝りたくて……本当にごめんなさい!」


 優衣さんは、開口一番に玄関の前で深々と頭を下げてきた。


「いやいや、本当に大丈夫ですから! 全然怒ってないので頭を上げてください」

「ホントに?」


 優衣さんは目をうるうるさせながら、俺の方へ顔を少し上げる。


「はい、優衣さんにはいつも色々と迷惑掛けられっぱなしなんで、もう慣れました」

「ひどいよぉぉ!!」

 

 優衣さんに鋭い矢がグサっと刺さったような音がした。


「でも……」

 

 俺は一呼吸入れてから、首に手を当てて口を開く。


「優衣さんはどこか放っておけないというか、何かしてあげなくなっちゃうというか、ポンコツなところも可愛いな……なんて思っちゃってる自分がいるので。だから、これからももっと迷惑かけてください」

 

 俺が正直な気持ちを優衣さんに微笑みながら言うと、優衣さんは口を尖らせながらもぼそっと言った


「うん……ありがと」


 だが、優衣さんの頬は真っ赤に染まっているのが、夜闇の中でも俺にははっきりと分かった。

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