参幕
ー翌日ー
「……………」
「あっ、おはようございます。」
昨日の晩が過ぎ朝になった。日丸は今日にここを出て、また放浪の旅に出る予定だった。
「今日で…行ってしまわれるのですね…」
日丸は小さくうなずいた。ここに長居は出来ない。やがてはここに、また幕府からの刺客が送られて彼女を傷つけてしまうかもしれない…彼はそう思った。
「では、お気をつけて。日丸様。」
「…あぁ……」
後ろで手を振る菊を見ることが出来なかった。見れば昨日思ったことが気になって仕方がないからだ。
ー森ー
結局、日丸はまた森に姿を隠す。でも日丸は決して森が嫌いではなく、むしろ好きだった。人目につかず、鳥のさえずりや木々が揺れる音に心を癒されるからだ。
「武士殺しの日丸……!」
だがそれを妨げる輩がこの世にはいる。
「斬られた仲間の仇、取らせてもらう!!」
幕府の刺客なのは確かだが、何故か複数人ではなく一人のみ。日丸は警戒したが感覚的に仲間が隠れている可能性は低いと見たようだ。
「…………」
チャキン…ガチャ!
キィン!!
日丸は素早く抜刀し、武士の目の前まで迫った。相手もそれに感づいて刀を抜く。
ガキィン!!
「くっ…やるな…」
相手の力は日丸と同等だ。日丸がどれだけ素早く斬っても全て受け流されてしまう。
「だがこれで、仕舞いだ!!」
ガキン!!バシュ!!
「………ッ!!」
間一髪避けたものの、日丸の左手首に大きく切れ込みが入ってしまった。激痛に耐えながらも日丸は戦いを続ける。
ガチャ!ドスッ!!
「ぐっ……無念…!!」
何とか相手の武士を刀で突き刺し、倒したが、日丸はついに左手首の激痛に耐えられなくなった。
「ぐあぁーーーー!!!いっ…あぁ…うあああああああ!!!」
こんなに大声で叫んだのは日丸にとって初めての出来事だった。痛みでどうしようもないとはまさにこのことだったのかと彼は痛感した……
ー宿屋ー
ガラガラ…
「いらっしゃい……日丸様!?」
どうにもならないと思い、さっきいた村の宿屋に戻った。今日丸にとって信用出来るのは菊しかいないからだ。
「日丸様!どうかなされたのですか!?」
「……痛い………」
「左手首を…怪我されたのですね…」
菊は日丸が押さえていた大きく切れ込みの入った左手首を見ても驚かなかった。
「大丈夫です。私が何とかしてみせます…!」
日丸は彼女の大きな優しさに段々と惚れた。これも日丸にとって初めての出来事だが、さっきの痛感とは違い、安らぐような感覚だった。
次回、終幕。
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