第12話 山に死体埋めるのは正解か

 いきなり不穏なタイトルだが、深刻な話ではない。規約的にも大丈夫だろう。あくまで、ミステリーや小説の話だと考えていただきたい。


 ネットで、死体は山に隠せばいい、いや山に隠すのはよくない、という議論を見かけたことがある。議論は、賛成派と反対派にわかれ、はっきりと結論はでていなかった。私は、ちょうど田舎に住んでいて、山が近くにある環境なので、その立場からこの問題について意見を述べたいと思う。


 目の前に人の死体があって何らかの事情で隠さなくてはならない、と想定してもらいたい。あるいは、そういう設定の小説を思いついた、でもかまわない。あなた、あるいは小説上の登場人物は、山に死体を隠そう、と思いついたことにしよう。

 山に死体を隠す、悪くはなさそうなアイデアである。日本の国土の3分の2は山林であるから、人がこないような場所だっていくらでもあるだろう。そんな山の奥深くに、死体を埋めておいたら、発見される可能性は皆無なのではないだろうか。


 だが、ちょっと待ってほしい。死体を山に埋めるとして、具体的を場所は思いつくだろうか。普通の人は、山と言ったらハイキングで行くような山とか観光地ぐらしか知らないのではないだろうか。小説上の人物であっても、死体を埋めるのに適した山を知っていることにするには、不自然でないような設定や理由付けがないと説得力に欠けるような気がする。


 いや、知らなくても調べれば良い、という意見もあるだろう。最近では、ネットを使えば地図や画像なんて簡単に手に入る。それを見ながら、適当なポイントを探せばいいのではないだろうか。

 なるべく居住区域から離れていて、かつ観光地やハイキングコースではない場所。そして、目的地へ死体を運搬するための道路だ。人里離れた場所へ死体を運ぶとなれば、運搬手段が必要となる。もしかすると、他に良い手があるのかもしれないが、たいていの人は車を選択することになるだろう。幸い、日本は田舎であっても道路がしっかり整備されているところが多い。こう考えると、案外いけそうな気がするのではないだろうか。


 しかし、この点についても問題がある。

 道路が整備されている、ということは他の車が通行する可能性がある、ということなのである。さきほど、日本は田舎でも道路が整備されていると書いたが、さすがに誰も通らない道を作ったりはしない。何らかの理由で必要だから、作ったのである。

 日本の3分の2は山林だ。しかし、同時に日本の山のほとんどは人工林なのである。滅多に人が来ないように思えても、管理している人はいる。必ず人がいるわけではないが、死体を埋めるということの重大性を考えると、見過ごすことのできないリスクだろう。しかも、埋めるときに見つからなくても、埋めたあとを発見される可能性もある。

 更に、死体を運ぶところを目撃されるリスクもある。人が滅多に来ない山奥だから大丈夫だ、と考える人もいるかもしれないが、この点も難しい。人が滅多に来ないゆえに、見つかったときに言い訳ができないのである。登山道やハイキングコースもない山に、向かっていく車があったら印象に残ってしまうだろう。しかも、最近は田舎でも不法投棄を警戒しているところが多いから、地元の人間に不審な目で見られてナンバーを覚えられてしまうかもしれない。


 運良く、埋める場所や目撃者の問題はクリアできたとしよう。

 次の待ち構えているのは、穴を掘って埋めるという作業である。死体を埋めるには、かなり大きな穴を掘る必要がでてくるだろう。しかも、十分な深さに掘らないと、野生動物に掘り起こされたり豪雨による土砂崩れで発見されたりする可能性がある。

 山というのは、意外に深い穴が掘りにくいものだ。表層の10センチぐらいなら、落ち葉などが積もった層でやわらかいが、それ以上になると土は固くなって、大きな石などもでてくることがある。それに加えて、樹木の根は広範囲に広がっているから、穴を掘る場所の選定だって大事だろう。あと、穴を掘ったことがある人ならわかると思うが、固い地面にシャベルを突き立てるのも大変だが、掘った土を外に出すのも重労働である。穴が大きく深くなればなるほど、底の土をかき出す手間は増大していく。しかも、これらの作業をひと目を避けて迅速に行わなければないないのである。


 以上のことから、私は山に死体を埋める、という方法は難しいと思う。

 もっとも、目の前に死体が転がっていたら、どんな理由があろうとも警察に通報するのが一番なのだろうが。



 ちなみに、私は山に死体を埋めたことはないが、野菜は埋めたことがある。

 春の話である。その年は、例年にない暖冬で、倉庫に保存しておいた白菜などを腐らせてしまったのだ。近所の人に見られると恥ずかしいので、こっそり山に埋めることにした。近所の山に、ささやかながら畑を持っているので、隅の方に穴を掘ったのである。

 穴は、広さ1メートル四方で、深さは40センチぐらいだったが、これを掘るだけでも汗だくになってしまった。掘りやすそうなところを選んだのだが、笹の根や石が次々にでてきて大変な作業だったのである。

 なんとか野菜を埋めて家に帰ったが、近所のおじいさんに「さっき何か掘ってたみたいだけど、何か植えるの?」と声をかけられた。どうも散歩中に私の姿を目撃していたようである。私が熱心に作業をしていたので、声はかけなかったそうだ。こっそり作業をしていたつもりだったが、いつの間にか目撃されていたのである。

 数日後、埋めた場所の様子を見に行くと、何かの動物によって掘り返されており、腐った白菜の葉が周囲に散らばっていた。

 山に何かを埋めるのは、やめておいたほうが良いようである。

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