第7話 就職活動にまつわる噂
現在はどうだかわからないが、私が就職活動をしていた頃は、学生たちの間で様々な噂が飛び交った。
某会社では人事担当者が清掃員格好をして面接に来た学生を観察しているとか、学生の中に若手社員を紛れ込ませているとかである。自己アピールの中に、会社のキャッチコピーを織り交ぜると、即座に採用が決まったという噂もあった。噂の中には、真面目やものから都市伝説レベルのものまでがあったのだが、私が面白いと思った話を紹介してみよう。
某健康食品メーカーの面接に行くと、青汁をすすめられるという噂があった。
現在は、飲みやすく美味しい青汁が開発されているらしいが、私が就職活動をしているときには、青汁といったらまずいというイメージだった。バラエティ番組などでも、青汁を飲むのが罰ゲームにされていたようにも思うから、世間でもそういった認識だったのだろう。私自身も面白半分で飲んだことがあったのだが、これを飲むのはしんどいな、と思った覚えがある。なお、これは個人の感想です。
さて、話を元に戻すと、学生たちが健康食品メーカーの面接に行って、自己PRをしたり会社の商品を称賛したりしていると、面接官が何やら箱を取り出してくるらしい。面接官はにっこりと笑いながら「これが当社の新開発の青汁です。ぜひ味わってください」と勧めてくるそうだ。
面接を受けにきた学生としては、何食わぬ顔で飲んで「美味しいです」とお世辞をいうか、正直に「まずい」というべきか葛藤するという話である。
一説には、面接官が一息に青汁を飲み干し「うまい」と言って、学生たちにプレッシャーを与えてくるという噂もあった。
ちなみに、これはあくまで噂であり、本当に美味しい青汁もあるのかもしれない。また、私の身の回りで実際に体験した人はいなかった。
私が面接に行った会社では、青汁はでなかったが、ケーキが出たところはある。
あれは某住宅メーカーの会社説明会に行ったときのことだと思う。人事担当者から2時間ほど、会社の制度や待遇について説明があった。学生からの質疑応答が終わって、ほっとしたところにお茶とショートケーキが配られたのだ。
人事担当者は「お疲れでしょうから、ぜひケーキを召し上がってからお帰りください」と言って、ケーキを食べ始めた。だが、私を含めた学生たちは周囲の様子をうかがうだけでケーキに手を出さない。もしかすると何かの試験だろうか、ショートケーキを食べるときのマナーってどうだっけ、そんなことを考えて疑心暗鬼になっていたのだろう。
人事担当者は学生たちの様子に気づくと慌てた様子で「みなさん、深読みしすぎですよ。うちの会社では長い会議のあとに、甘いものをだす習慣があるので、今回もこういう趣旨です。まさか、ケーキの食べ方が審査の対象にはなりませんよ」と言った。
その一言にホッとしたのか、学生たちは一斉にケーキを食べ始めた。今から考えると笑い話だが、当時の学生たちはいろんな噂やマナーに敏感になっていたのである。
なお、私は次の面接で落ちたので、ケーキの食べ方が本当に審査に関係がなかったかをきいてみることはできなかった。
現在就職活動をしている学生たちの間でも、こんな都市伝説風の噂が流れているのだろうか、気になるところである。
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