俺の知りたくなかったラブコメ
加藤 忍
知ってしまった事実
夕日が沈み始めた五時過ぎ、俺は全力で学校に引き返していた。家に帰っている時に教室の机の中に明日提出の課題を置いてきてしまっていたのだ。
息切れしながら昇降口に入った。校内には生徒はもういないのか、シーンとした空気が漂っている。
階段を上がるたびに自分の履いている上履きがタンタンと音を立てる。
三階にある教室に着き、いざドアを開けようとした時だった。教室の中から声が聞こえて手が止まる。
「俺は本気だから・・・」
中から聞こえて来た声には聞き覚えがあった。
あの声は俺はよく知っている。親友の
悠人の声からするに誰かと話しているようだった。こんな時間に教室で何を・・・と考えるまでもなかった。
このシチュエーションは一つしかない。告白だ!
俺はドアから手を離して横の壁にすがりながら腰をおろした。窓からは沈む寸前の真っ赤な太陽が見える。廊下もその光でオレンジ色に染められている。
悠人の好きな人か・・・。悠人は優しいやつだ。俺が困っていると必ずと言ってもいいほど助け船を出してくれる。そのおかげでどれだけ救われたかわからない。
そんな奴が好きになった人だ。きっと素晴らしい相手なのだろう。
相手が気になり、ついドアに手を伸ばしてほんの少しの隙間を作った。1センチぐらい空いた隙間からは相手の人の声が聞こえた。
「私も本気なのよ」
この声は・・・!
まさかの悠人の告白相手の声にすら聞き覚えがあった。
・・・まさか悠人の好きな人が
菜穂は俺の家の近くに住む幼馴染だ。ニ歳ぐらい?いやもっと前から顔を合わせている仲だ。幼、小、中、そして高とずっと一緒の時間を過ごしてきた。今日も一緒に登校して来た。
そういえばと数時間前のことを思い出す。
キーン、コーン、カーン、コーン、とホームルームが終わってすぐ「今日も一緒に帰ろう?」と言ってくる菜穂が今日は「ごめん、今日は用があって一緒に帰れない」と手を揃えて謝って来た。特に約束しているわけではないのだが、「わかった」と返事を返した。その用がこれとは全く思わなかった。
「・・・そっか」
ため息とともにそう吐き捨てる。別に菜穂のことは好きだったとかではない。ただ菜穂と悠人が付き合ったら、いつものように三人で出かけたり、昼食をとったりしなくなるのだろうと思うと寂しさがこみ上げてくる。
教室に入れない以上、ここで二人が結ばれるのを待つことにした。このまま帰ると英語の
そんなことを思っていると教室内から悠人の高々とした声が響いた。
「・・・は!?俺の方が上なんですけど!」
急な怒鳴り声に体がビクっと跳ねる。急な大声が気になりゆっくりとドアの隙間を広げる。さっきの三倍ぐらい開けるとそこから教室内を見渡した。
教室の中では悠人と菜穂が急接近していた。今にも顔が当たるのではないかと思うぐらいに。
でも二人の雰囲気は告白って言えるような甘い雰囲気ではなかった。例えるなら龍と虎のような緊迫とした雰囲気。二人はメンチを切っているし。
「は!?キモいことは程々にしてよ!」
菜穂も負けずと声を高鳴らせる。
ここまで来ると二人が何を話しているのかわからなくなってきた。本気とは?俺が上?キモい?いろんな単語を頭で整理するがよくわからない。
「菜穂、いい加減にしろよ!あいつは俺の親友なんだ!」
「悠人こそ、そんな短時間で親友だなんて・・・私はあなたの何倍も仲がいいのよ!」
二人を隙間から見ていても全く把握できない。悠人の親友で菜穂と長く近くにいる存在・・・。
その答えは二人が大声で口にした。
「「
・・・この元凶は俺か!!
俺はゆっくりとドアを閉めた。二人の声はドアを閉めても聞こえてくる。
「隆二は幼馴染の私を選ぶに決まっているわ!だっていつも一緒なんだから!」
「お前はどこのラブコメの話をしてるんだ!現実は親友なんだよ!」
あまりに聞いていられなくなり、俺はその場を去った。
「家に帰ろう」
結果として二人がどうなったかはわからない。いつ言い合いが終わったかも。課題に関しては職員室に行って佳代ちゃん先生にもう一枚もらった。先生には「次は無くすなよ」と呆れたような顔で言われた。
学校の帰り道、二人とのこれまでの思い出が蘇る。楽しかった思い出が今では別のもののように感じる。
「明日、どんな顔して会おう?」
俺の知りたくなかったラブコメ 加藤 忍 @shimokawa8810
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