牢-中編2

これは夢の中の話。

ニンゲンは、未だに牢の中。


話すことは話し終えたといった感じで、王子はスッキリとした表情をしていた。

「ふう、君がいてくれて良かったよ。

誰かに話すと自分の考えがまとまるな。

おかげで文章も早くまとめられそうだ。」

そう言いながら、王子は本の向こうから紙とペンを取り出した。

(…本以外にもあったのか)

(牢屋って、こんなに自由にできるものだっけ?)

ニンゲンは牢の概念が壊れる感覚におちいった。



王子は紙に文字を書いていく。

(いったい何を書いているんだ?)

気になったので聞いてみた。

「ああ、これは今回の件についての反省文だ。

それから、こっちは植林研究の嘆願書だな。

今まではあちこちに生えてる木を観察したり、地面を掘り起こしたりしていたのだが、ここからは実際に研究していく必要があるからな。

これまでの研究資料と共に提出して、国家事業として研究してもらうつもりだ。」

(…本当に反省してるのか?)

(大人しくする気は全くないのか)

(たくましいのか、図太いのか…)

ニンゲンは何ともいえない複雑な感情を抱いた。

「反省はしてるさ。

今までに何度か要望に来てるのなら、『広葉樹の会』はまた要望に来ると思う。

その時は、先ほどの研究結果を見せてしっかりと説明していくつもりだ。

まあ、有事の際 以外で私はまだ国政には関われないので、父上が対応するとは思うのだがな。」

ここで一呼吸おいてから、さらに王子は続けた。

「だから、次に来てもらったとき、より多くの話ができるよう、こちらも準備しておくのだ。

何もせずに落ち込んでばかりでは、反省にはならないからな。」

(…そうか、反省と落ち込むことは、別の事なのか)

(王子は、ちゃんと反省しているのだな)

ニンゲンは、王子のたくましさに感動を覚えた。


ふと、気になったことをニンゲンは聞いた。

(というか、今まで自分でやってきたものを、親とはいえ、人に渡してしまっていいのか?)

先ほど、王子はこれが専門だと言っていた。

おそらく、とても長い間 自力で調べてきたのだろう。

地面を掘り起こすと軽く言っていたが、根の深さを調べるために掘っているのだから、その労力は計り知れない。

そこまでのものを、簡単に自分以外に譲渡してもいいのだろうか?

「手柄のことを聞いているなら、お門違いだな。

私のしていることは、民の生活がより良くなるためにしていることだ。

その為には、なるべく早く結果を出したいのだ。

結果が早く出るのなら、私の元だろうが父上の元だろうがどちらでも構わない。

この研究は、ここからは人手がいる。

私個人では限界があるから、父上に奏上するのだ。」



ここまで話してきて、王子はよくできた人間だと、ニンゲンは感じていた。

(破天荒な部分もあるのだがな)

だが、だからこそ、ニンゲンは王子が心配になった。

(他にも、同じような研究をしているところはないのか?)

(そこからしたら、手柄の横取りになってしまうではないか?)

世の中は王子のようなできた人間ばかりではない。

横取りされたと恨む人もいるのではないだろうか?

ニンゲンの心配など意に介さず、王子はつまらなそうに答えた。

「それこそ論外だな。

さっきも言ったが、私は早く結果が出るのなら、誰でもいいと思っている。

民が我らよりも早く結果を出してくれたのなら、これほど嬉しいことはない。

我らの研究段階で協力したいと申し出るのなら、それも受け入れよう。

協力することにより、研究速度も上がるというものだ。」

朗々と王子は続ける。

「だが、横取りされたと怒るのは問題外だ。

そのような者どもは、国を豊かにすることが目的ではなく、賞金を貰うことを目的としているのだから。」


(そう、なるのか?)

ニンゲンにはよくわからなかった。

また、ニンゲンの理解を超えている話になってきている。

「そうなるのだ。

横取りされたと怒るのは、誰よりも結果を出して、賞金を頂きたいからではないのか?

賞金を手に入れて、後は悠々自適に生活したいからだと私は考える。」

(なるほど、確かにそうなるのか…)

「だが、この事業は研究結果を出した先がある。

実際にどのように人工林を植え直すのかという行動が出てくる。

そのために早く研究を終わらせる必要があるし、研究だけで満足しててはいけないのだ。

それと、賞金目的の者は1つ大きな勘違いをしている。」

(勘違い?)

「ああ。

国というのは、民をサポートするためにある。

養うために存在しているではない。

賞金目的で国より先に結果を出しても賞金は出るが、その量は彼らが望むほどの金額ではないだろうな。」

(ああ、それもそうか…)



話が終わり、王子は再び紙のほうへ視線を落とした。

(…すごいな)

ニンゲンはただただ王子に感心していた。

(していることは無茶苦茶だが、誰よりも民のことを考えて行動している)

(おそらく、いい王になるのだろうな…)

「むっふっふ。

もっと言ってくれてもいいのだぞ?」

(そうだった、自分の思考は聞こえているんだった)

(本当に、調子乗りなところは欠点だな)

(だが、それでもいいのか)

(少しくらい欠点がないと、可愛げがないしな…)

ニンゲンは、自分の思考が聞かれていることに心地よささえ感じ始めていた。


だが、そこで改めて、ニンゲンは自身について考え始めた。

(…自分はどうなんだろう)

夢で自ら牢に入っている精神状態の自分など、たかが知れている。

(この王子と比べて、自分はあまりにもちっぽけだ)

(本当、何やってるんだろう…)

ニンゲンはまた落ち込んでしまった。

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