第17話 円卓の騎士達


 「キュルルさん、お待ちしていました」


 ステージ裏、控え室


 扉の前でマーゲイさんは待っててくれた

 明かりの無い夜だけど、月が瞳を優しく輝かせ、そっと存在感を出す


 「うみゃ?」

 「な、何よ……?」


 カラカルさんや、サーバルさんも当たってる側はそれぞれの色を放ちとっても綺麗!


 「んー、良い色だなーって、ね」

 「あんまりじっと見ないでくれる?は、恥ずかしいじゃない……」

 「ごめんね」

 「しかし、あんたの色も不思議なものね……」

 「?」


 そう言えばぼく、あそこから旅立ってからあまり自分の事、見たことない

 カラカルさんいわく、両目で小さく色が違っているそう


 なんでだろう?


 まぁ、それはそれで置いといて……


 「マーゲイさん、ペパプのみんなは今大丈夫ですか?」


 ぼくは本題へと移る


 「皆さん、とても心配しています……宜しくお願いしますね?」


 マーゲイさんが扉を開けると……?


 「あ、キュルルさん」

 「センちゃん、どうしてここに?」


 ダブルスフィアチームだ

 意外な場所での再開にちょっと戸惑う


 奥にはペパプのメンバーも揃っている


 ぼくは……


 「良かった……無事でいてくれて……」


 ごめんなさいをしようとした時、コウテイさんが一言


 「なにかおかしな事言ったかな?」

 「いえ……」


 ぼくは、事情を話しごめんなさいした


 「あ、そうそう!」


 ぽんと手を叩き、マーゲイさんは


 「そのお話と繋がるかもしれませんが……」


 これは、ペパプのライブに来てくれたフレンズさんから聞いたそう


 ぼくと同じ「ヒト」がかつて生活していた面影が残る建物が多く有る場所を教えてもらったらしい


 「もしかすると、キュルルさんの言ってた大切な方に関するヒント?が解るかもしれませんよ?」


 「もしかしてそこって……」

 「オルマーさんなにか知ってるの?」

 「なにか書けるの有る?」

 「お?これ使ってよ」 

 「さんきゅー!」


 スケッチブックの空いてる所にセンちゃんと相談しながら何か描き始める……


 色鉛筆を雑に握りながらも、すらすらと筆が疾しっていく


 「おお……」


 テーブルをみんなで囲みちょっとした鑑賞会


 「こんな感じかなー?今はここで……」


 ぼく達の居る「ライブステージ」からその先に赤丸が


 「ここは、私達の今回の依頼主が居るのです」


 距離にすると一晩挟むほどの距離


 「依頼主のお名前はイエイヌさんと言いましてですね……」

  

 「ふむふむ……」


 今回、「ヒト」と言うよりもセンちゃんからのお話から察するに、どうやら「ぼく」をピンポイントで探しているような感じ……


 とてもボカされた言い方だったそうだけど通称「例の異変」と呼ばれるこの、ジャパリパークから「ヒト」が消えた事件の事


 イエイヌさんは、その「鍵」となる情報を持っている可能性が高いと睨んだダブルスフィアチームは捜査を開始したと


 「途切れ途切れの記憶なのですが、オルマー、あなたのカタキを討ちたいのです!」


 「え?」


     な、なんだってー!?


 みんなざわざわ、そりゃそうだよ!

 だって、ぼく達の目の前には現にオルマーさんが居るんだから!


 「センちゃん、それどういう事!?」

 「確証は有りませんが、あなたはあなたなのです。はっきりした時にそのお話をしたいのですが……」

 「探偵ダブルスフィアに焦りは禁物、だもんね!」


 「気になる!気になるよ!!」


      わっひィっ!!? 


 全員揃って同時に同じ驚き方!

 二度びっくり!!


 しっぽをブンブン!


 「ニホンオオカミじゃない!?」

 

 ニホンオオカミさん、どこからかひょっこりと姿を表したんだ


 話を聞いてたみたい


 全身から溢れんばかりの「気になる!」オーラをその身に纏う 


 「う、ウォッほん……山の神さまの化身として、お手伝い出来ること無いかな?」


 その昔、人々はニホンオオカミさん達を「山の神」として崇める文化があったんだとか


 「ニホンオオカミさん、じゃあ何か知ってる事教えてくれないかな?」


 「いいよー!うんとね……」


 語り出すニホンオオカミさん、いつものニコニコ笑顔から刀の切っ先のような張り詰めた感じに変わった


 「じゃあカラカル、わたしの事、覚えてるかな?」


 「はっきりとは……」


 「サーバルの事や、ガイドさん、トワさんの事は?」


 「サーバルは付き合い長いから解るけど……」


 「ほらね?」

 「意味理解らないわよ!」


 「リセット、つまり例の異変はそういった事が起きたんだって。わたしは、あの後生き残った事を本能で知ったの」


 大多数のフレンズさん達は、元の姿に戻ってしまったり命を落としてしまった方も居たりしたと言う……



 話がブッ飛びすぎてぼくは理解が追い付かない!!




 「いろんな子達に聴いて回ったんだけど、結果は大体おんなじ感じ」


 覚えてるのは、ほんのひとかけらだった……

 そう、ニホンオオカミさんは話す


 「キュルルちゃん、わたし達はね?サンドスターに導かれてここに居るんだよ?」


 「話、割って入ってごめんなさい。じゃあ、私達がペパプとしてやってるのもそうなのかしら?」


 「詳しくは解らないけど、絶対、と断言出来るよ!!」


 「プリンセス……」


 「なんか、悔しいわね……」




    「違うと思います!!」

 

 

 「ジェーン、急に大声出してどうしたの!?」


 「確かに、サンドスターには色々奇跡を起こす力が有るって博士から聞いていましたが、初代も二代目もプリンセスさんは居なかったそうです!ですが、あの時私たちに声を掛けてくれて今までペパプを引っ張ってくれた。そう、導きの理の外から……って、私何言ってるんだろ……」


 「そゆのに運命?っていうんだってー」


 「フルル、おまえやっぱり変わった言葉詳しいよな!?」


 「えぇー?」


 普段はおっとり超絶なまでにマイペースなフルルさん


 イワビーさんいわく、こんな事は「極稀によく有ることなんだぜ?」と


 その後もニホンオオカミさんは続ける


 「あれほどの荒れ方はもう起きてほしくなかった。そう願ったよ……だけど……」


 最初の「例の異変」は今から大体30年前


 生命の輝きを失い、死の大地と化していたジャパリパークはこの地のどこかに有る火山から、再びサンドスターを舞降らせ、骨や灰になってしまったかつてのフレンズ達を復活させた


 渇ききり、不毛の大地と化したジャパリは徐々に緑が生え、それに伴い恵みの雨を降らせ、輝きを取り戻していく


 目覚めた者達は、助け合った

 中には、コノハ博士やミミ助手、ペパプの様にかつて「ヒト」が辿ったであろう文明を学ぶ者も現れ始め活気が戻りつつあった

 

 だけども、それは良いこと尽くしだけでは無かった


 フレンズが世代を次に受け継いだ 


 そこまでは良かった


 しかし、天敵「セルリアン」も世代を受け継いでいた……


 「そう言えば、アライさんとこのセルリアンって知ってるかな?」

 

 説明を続けるニホンオオカミさんは、急にぼくに振ってきた


 この前お話したことを思い出す

 三人とも、どったんばったんな毎日を楽しそうに過ごしてると思う


 「うん、とても幸せそうだったよ」

 「そう、それなら良かった!」


 とても、現実は残酷だ

 セルリアンさん、かつて戦争に使われていた兵器

 それに、サンドスターが当たり、セルリアン化してしまったらしい


 第二世代、そのセルリアン達はヒトが遺した負の遺産だった


 そして、時は流れ、今から大体10年前に遡る……


 「あの異変、また起きたの……」


 ざわつく場……


 「だって、あたし達にはその時の記憶が無いわよ!?」


 「そう、無くて普通なんだよ?」


 そのトリガーを引いたのは、かばんさん……


 「かばんは賭けた。可能性に」


 ゴコクへと旅立ったかばんさんとサーバルさん、アライさん、フェネックさん


 旅を続ける内に「もう、誰も悲しむ事の無いジャパリ」の実現を目指す為調査を進めた末に、地元にある火山にその鍵が有るかもしれない


 キョウシュウの火山へと、かつて出逢った仲間達と共に向かい「セルリアンのフレンズ、セーバル」を復活させる事を決意した


 もう一つのサンドスター、「黒いサンドスター」の嵐が吹き荒れ、もう駄目かもしれない……


 「あれは、奇跡……わたしは、逢った事を覚えてなかったの……でも、カコ博士、ミライさん、トワがわたしやかばんちゃん、そしてみんなに力を与えてくれた」


 「サーバル……!」


 「うん、なんとなくだけど、あの時の事、少しずつだけど、思い出してきたみたい」





  あなたは忘れてしまうでしょう


  ともに過ごした日々と私のことを……


      私は忘れない


 あなたの声、温もり、笑顔……その優しく純粋な心

  

    どれほどの時が経っても……


 あなたが全てを忘れてしまっても……


     私は決して忘れない


     本当に、ありがとう


 いつかまた、きっと私たちは出逢えるから……





 「今のは…?」


 突然、誰かが語り掛けてくる

 声じゃなく、心に響いてくる……


 「あれ、おかしいな……?」


 解らない

 だけど、暖かい……


 その言葉、一つ一つ


 抱き締めるように……


 「これは時のお守り。過去と未来を繋ぐ力が有るんだって」

 

 小さい宝石のような、「何か」それを懐から取り出し、見せてくれた


 「わたしが分かるのはここまでだよ」

 「ありがとう、ニホンオオカミさん」

 「いーのいーの!誰かにこのお話したかったんだー……はい!お手ッッ!!」

 「what's!?」


       ぶおんっ!


 「あはは……」

 「えへへー!」


 相変わらず的を外してくるね……

 とりあえずなでなでしてあげるととても喜んでくれた


 「キュルルぅ?」

 

 おお、これは大変だ!鬼の形相!!

 カラカルさん「ギッ」と睨んできたよ!!

 

 「カラカル、こっち」

 「し、しょうがないわね……ごろごろ……」

 「いいなー!わたしもー!」


 ニホンオオカミさんから、かなり長い年月のお話が出ていたから、果たしてお父さんやお母さんがどうなってしまったのか


 今はそれを知る由は無い……     


 だけどぼくと一緒にお家で暮らしてた柴犬のマルちゃんは、ジャパリのどこかで生きている


 なんとなくだけど、そんな気がする


 かばんさん達の旅の終止符ピリオドがどう打たれたのかまでは解らない


 でも、前にかばんさんが倒れ、サーバルさんが元の姿に戻ってしまったお話を思い出したらなんとなく点と点が繋がりを見せる


 記憶が失われてしまっても、其々が消えない強い何かでずっと繋がってる


 サンドスターに導かれたんじゃなくて、フルルさんが言ってた運命、ぼくはそう信じたい


 「うみゃ?」


 そしてそれは、広がっていく……


 「キュルル、武者震いしてるー!」

 「フルルさん、相変わらずだねぇ!?」

 「そうかなー?」


 まったりキレッキレ!


 サーバルさんに付けてもらったこの名前、フルルさんと似てる気がする……


 そして、ぼくの側ではこんなやり取りが


 「オルマー、今まで黙っててごめんなさいね……」

 「センちゃん、誰かに聞かれちゃ困る話はナイショにすればいいんじゃない?たとえわたしであっても……」

 「いえ、ナイショはこれだけです。それは、あなたに誓って」

 「じゃあ、これからも宜しくね!センちゃん!!」

 「えぇ!こちらこそ!!」


 ぼくは筆を疾しらせる

 色は付いていない

 それで良いんだ

 

 「マーゲイさん、これもし良かったら貰ってくれないかな?」

 「えぇ、喜んで……」


 今回は二枚描いた


 ライブステージを寄りの構図でマーゲイさんを中央に配置して、回りをペパプのメンバーが取り囲むような感じに


 敢えてマーゲイさんで行ったのは、影の主役って事で


 そして、もう一枚はニホンオオカミさんに


 「え?いいの!?大切にするね!!」


 やっぱりそう言ってくれるととっても嬉しいな!


 これは、描きつつカラカルさんや、サーバルさんに聞きつつ……「あーじゃないこーじゃない」しながら、それでも二人ははっきりとぼくにその感じを教えてくれた

 

 カコ博士、ミライさん、そして「園長」と親しまれていたトワさん


 フルで描き込むと、スケッチブックがいっくら有っても足りないよ!


 めちゃくちゃ頑張ったんだけど、ギリギリ入る人数を詰めるだけ詰めた構図に


 「Oh……」

 「キュルルちゃん、いっぱい描いたんだね!」


 そろそろページ数足りなくなってきそう……

      ま、いっか!


 ペパプのメンバーにお礼とお別れを告げ、ぼく達は深く眠りに着いたライブステージを後にしたのだった


 




 イエイヌさんの待つ場所までは、ダブルスフィアチームに案内をお願いする事になった


 「お、帰ったか」

 「ただいま、ビャッコさんツチノコさん」

 「早かったじゃねーか」


 二人はジャパリバスの近くにある岩の上で腰掛け、ぼく達の帰りを待ってた


 バスの後ろでは、もう明かりは消えて居て、とても静か


 V2カスタムと名前が付けられただけあって、上の仕切りが簡単な眠れるスペースになっている

 そこにみんな眠っている


 おじゃまリアン、三人は下で固まったまま動かない……


 「ぱひんっ!?」

 「パフィンちゃんは寝相も元気だね……」

 「う、うーん……ごめんなさいなのです」


 イエローさんの上にゴロッと落ちてしまった!

 どっちも寝ぼけてた見たいでがさごそとまたもとに戻っていく

  

 あ、イエローさんパフィンさんの形にへこんだまま……


 「キュルル、もう遅い、明日に備えよ。私ももうおねむなのだよ?……ふにぁああ……」

 「はい、おやすみなさい」


 

 これで、良かったのかな?は毎日今日と言う一日が終わる、その時まで目を閉じて眠りに落ちるまで考える


 (か、カラカル!?)

 (そのまま……ね……?)


 カラカルさん、抱きついてきた!

 とても、ドキドキする!

 でも、悪くないもの……むしろ、心地いい……


 (……ッッ!?)


 横ではサーバルさん、何故かガッツポーズ!


 (二人とも青い春を、とくと楽しむが良いぞ?)


 ビャッコさんまでぇ!?


 


 明日、ぼく達はまた歩き始める

 ぼくのお家を探す旅がまさかこんなことになるだなんて、思ってもいなかった……


 

 

 

 

 



 


 


 


 

 


 


 

 


 


 


 


 


 


 


 

  

 

 

 


 


  

 


 


 


 

 

 


 

 


 


 


 


  


 


 


  



 


 


 


 




 

 

 


 



 


 


 


 




 


 


 

 

 

 


 

 




 


 


       


 


 


 



 

 


 


 


 


 


  


 


 

 

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