第18話 You'll be Alr!ght!
やっぱり、枕が…枕……?
「あれれ……?」
ど、どうしたことかなー?
ぼくは、カラカルさんの腕を枕代わりにしていた……
強烈な!
安心感ッッ!!
(カラカル、ごめんよ……)
小声で謝ると、おみみをぴょこっと動かして
(良いの、それより良く眠れたかしら?)
なんかごめん……
「しゃんとなさいっ!」
「はいい!?」
バスの外はもう、朝を迎えてるみたい
小鳥達が囁き、朝空を謳歌している
コォケコッコー!
セキショクヤケイさんのおはようコールが一日の始まりを告げるとがさがさ、おじゃまリアンのメンバーも動き出す
「ね、眠いで御座る……」
「朝は一発で目を覚ますんだ!」
「あと、ちょっと……ほあようございまーしゅ!」
「あらあら、イエローさんったら……」
おじゃまリアンの一日の始まりを垣間見た一時
(ねぇちょっと、お散歩。しに行かないかしら?)
(良いよ!)
多分、サーバルさんにも聞こえてるかも……
「すぅ……うみゃあ……すう……うみゃあ……」
これは、大丈夫とみて良いのかな?
レッドさんに、ちょっと「お散歩してくるね」と一言の後、足をぼく達は外へと踏み出した
……………
「ねぇ、アイ」
「ん?」
普段「キュルル」って名前で呼んでもらってる
確かにぼくの名前は「アイ」
サーバルさんに、付けてもらった「キュルル」って名前も好きだし、この名前も好きだ
不思議な感じ……
「……ちょっと聞いてるの?」
「ああ、ごめんごめん!」
少し考え事をしてて上の空だったみたい……
「素敵な名前よね……」
「ありがとう、カラカル」
「まー、ややこしくなるからみんなと一緒の時はキュルルって呼ぶ事にする。良いわね」
「ありがとう、そうしてくれると助かるよ」
ちなみにカラカルさんは自分のお名前「どう思う?」と聞いてみたら
「とても気に入ってるわ!他の名前で呼ばれたらもちろん、それも大切にするかもだけど!」
生を受けて過去から今、そしてその先もずっとカラカルで在り続けたいと語る
木漏れ日が優しく輝かせてくれた朝の素敵な一時……
ぼくの手を強く引くでも無く、歩調に合わせてくれて、その後も他愛ないお話を楽しみながら宛の無いお散歩は続いていく
↑↓↓→→←←↓↑↓↓→←←←
……到着!
到着、と言ってもどこを目指していたわけでもなく、なんだか賑わいの有る所へとホイホイ誘われるがままに歩いて……?
「この辺にしようかしら?」
「そうだね」
フレンズさんがそこそこ入ってるライブステージ
席は昨日より空いてるからそこそこ選べる
大体真ん中、その辺りが空き気味だったからそこに座る事にしたんだ
今日は、朝早くからペパプのメンバーが練習をして、良い汗を流している
ちょいと近くに居たフレンズさんから教えてもらった事なんだけど、時々、こうした「公開練習」をしているんだって
今日はちょっとしたお芝居もやってくれるみたい……
お?
「始まったわね」
『それは、遥か遠い昔の事でした……』
マーゲイさんの語りから何か始まるみたい
『パークではヒトとフレンズが仲良く楽しく暮らしていました』
ステージには、フルルさん
「じゃーぱーりーまーん"ん"ん"ん"!!」
が、暴れまわってる!
『待ってくださいー!』
マーゲイさんがヒト役をやってるみたい
衣装が変わってて肩掛けのかばんを掛けて帽子を被っている
マイクを手にしつつ、お芝居は進んでいく
『しかし、そこに恐ろしいセルリアンが現れたのです』
ゴゴゴゴ……
「たべちゃうぞい!!……合体!!」
ステージには、三人から合体して大きくなったセルリアンさんが!
「わー!にげろ~!!」
「二人とも、こちらへ!!」
地面をペシリと一度やると、マーゲイさんとフルルさんはジェーンさんに手を引かれながら、舞台端へと引っ込んで行った
『はぁ、はぁ……セルリアンに襲われ、三人は逃げました……』
あ、戻ってきた
「たべちゃうぞいー!ぐへへぇ……」
『パークの中を……はぁ……はぁっ……暴れまわるセルリアン。逃げ回る事しか出来ませんでした……はぁ……』
後ろから横から、「凄い迫力……!」と固唾を飲み、会場の緊張感が一気に高まる!!
カラカルさん、ぼくの手を取りぎゅっとしてきた
その手は震え、汗が滲み出てる……
「大丈夫だよ、カラカル……」
「うん……」
『パークの真ん中、我が物顔で暴れるセルリアン、なんて恐ろしいのでしょう!……ところが、そんな中、誇り高き五人の戦士が現れたのです!!』
ここで、ペパプの五人が登場し、ボルテージは最高潮!!
わあああああ!!
「えいっ!」
「てやぁっ!!」
まぁ、お芝居だから本気じゃないだろうけど、それでも、コウテイさんとプリンセスさんは大きく振りかぶり襲い掛かった!
「グワーッ!!」
「あーばー!!」
「パッカーン!!」
サヨナラアッッ!!
どこからともなく音楽が流れ始める
そして一曲終わると、ステージにはペパプとセルリアンさん達が真ん中で一礼すると、拍手が沸き起こった
さっきまでぐっと力が籠ってた手が柔らかくほどけた事で、ぼくもほっと一安心
セルリアンさんは、エキストラでお芝居自体もぶっつけ本番だったそう
それからそれから……
「ストップ!フルル、そこ合ってないわよ!イワビーも飛ばしすぎない!」
「はーい、ごめんなさーい……」
「お、おう……」
プリンセスさん、二人に渇を入れる
「ココをこうして……うん、なんだか良い感じ!」
ぼく的にはどこが合ってないか解らない程!
「ぐへへ……」
舞台端の方から滲み出る「朱」
多分、絶好調なのかも知れない……
「と、止まらないで下さい……ぐへへ……」
かなり長い時間練習した頃、メンバー達は息が上がり始めていた……
「そろそろ、休憩にしようか」
「……それじゃあ、朝の練習はお仕舞い!来てくれた子達!有り難う!!」
ステージ真ん中に集まり、一同がお辞儀をした処で拍手が沸き起こった
「ん?」
「カラカル、どうしたの?」
「いや……」
ぼく達の後ろ、そろそろ戻ろうかなと振り返る瞬間、「強者」の気配を感じたらしい……
席を立ち、ライブステージから戻る時、ぼくはカラカルさんの手を取った
「あら?あんたから来るなんて珍しいわね!」
「なんとなくかな?」
「そう……ありがと!」
そう、したかったからそうしてみた
「ふふ……」と一度微かに笑うと、そこから先は、会話が無くそのまま
でも、とても満たされた気分だった
「シンパクスウノジョウショウヲキロク!……コレハ、トキメキカナ!!?」
「じ、ジョリーさーんっ!!?」
うーん、なんだかなぁ……
→→↓↓→→↓↓↑←↑→↓←
(抜け駆けとは、おぬし中々に粋な事するじゃないか?)
「うひゃっ!?び、ビャッコさん!!?」
やっぱりただ者じゃあない……
誰に気付かれる事もなく、ぼくの後ろに「スッ……」と立ち、耳元でこそーっと
(朝の一時、楽しんでいるかな?)
「み、見てたんですか!?」
「はて、なんの事かな?……この者、借り受けるぞっ!!」
「ちょっ……!!」
「ッッ!!」
間髪入れずに、ぼくは羽交い締めにされた!
「おぬし、空を翔ぶのは……初めてかな?」
「ひええ!!」
もう、ここはどこ!!ぼくは誰!?状態!!
とても高いところ!?わけわかんない!?
「疾きこと風の如し!四神、ビャッコだ!!今度は私とお散歩を楽しもうではないか!!」
耳をつんざく風の音が強いにも関わらず、話してくれる言葉ははっきりと聞こえる
「わー!わー!!」
「大丈夫だ、風も私のおともだちだ。悪いようにはせんぞ?……っと、あの辺にするか」
おかしな事にはもう、とうに慣れた「つもり」だった
恐る恐る、片目だけ薄く開けると……
軽やかなステップ?で空を蹴り、舞い踊る
ここは空中だけど、まるで大地を蹴るかのようでもある
「恐れるな、そして刮目せよ!ぬしの目の前にはこれほどまでに素晴らしい景色が広がっているではないか!!はあっはっはっはぁ!!」
「すごい……」
下を覗いてしまう……
「う……」
やっぱり怖いものは怖い……
うっすらと雲が掛かってて、もうこんな高さまで来てるんだと思うとゾッとする……
「見えるか?この世界は、どこまでも広がっているのだよ……そろそろ降りるとするか……」
「あれれー!?」
い、今起こったことを整理してみよう……
気が付くと大空から森の樹の上、そこに腰掛けていた
何を言ってるのか解らないと思うけど、ぼくも何をされたのかまるで理解らない……
頭がどうにかなりそうだった……
コマンドーさんの言ってた「催眠術」とか「超スピード」だとか、そんなチャチなモノじゃあ、断じてない……!
もっと恐ろしいモノの片鱗を味わった気分だよ……
「ふふふ……恐いか?」
「恐くない、と言ったら嘘になっちゃいます……」
「うむ、正直で宜しい。ときにおぬし、いや、キュルルよ、カラカル、すなわちぬしの伴侶。そやつについてどう思うか?」
「……ッッ!?」
「おー?私何かおかしな事言ったか?」
お父さんから習った事を思い出したんだ
お姉さんに会いに行く夜、ジャパリラインの中で、ふとこんなお話になった
 ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄
「アイ、誰かを好きになった事はあるかい?」
「お父さん、お母さんの事、もちろん……も大好きだよ!」
「ははは、そうか、それは有難う!!うーん……まぁ、ちょっと違うかな?」
「?」
なんでそんなお話になったのか解らない、だけどお父さんは凄く真っ直ぐな目をしてぼくにこう話した
「その名前にした理由、話したことあったっけ……?」
「お母さんからちょっとだけ聞いたことあるよ」
その理由は、誰に対しても優しくあってほしいから
お父さんは続ける
優しさを突き詰めたその先にある純粋なモノ、それが「愛」である、ぼくのお名前にはそんな理由が込めていると、カッコつけて笑いながら話してくれた
「僕の名前はユウキだ、勇者の勇に希望の希。この名前を付けてくれた両親をとても誇らしく思う。母さんと初めて出逢えた時も、この名前で良かったと今でも思っているよ」
それから、お父さんは「いつかきっとその意味が解る日が来るよ」と
「良いかいアイ、僕にとっては妻、難しい言葉で言うと伴侶。その存在は掛け換えの無いモノだ。帰ったら笑顔でただいま!一緒に言おうな、漢と漢の約束だ!!」
「うん!約束だよ!お父さん!!」
 ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄
「どうした……辛いのか……?」
「ううん、そんなのじゃないよ……」
「漢だろう、ほれ、私が拭ってやろうぞ」
「ありがとうございます……」
「弱っちい子猫から、逞しい獅子へと至る道のり、おぬしはまだまだその途上だ。遠慮は要らぬ、時には存分に解放するが良い……私が受けてやろうぞ!」
気が付くとぼくは泣いていたみたい……
「……答えは、出たようだな?おぬしの顔にそう書いてある、良い目だ。そのまま真っ直ぐ行くが良かろう」
「はい、ありがとうございます!!」
「
………………
ビャッコさんに連れられて、ぼくは戻ってくる事が出来た
いや、一体どこまで行っていたのか全然解らない
「遅かった、じゃない……?」
「ごめんね」
「良いのよ、ちゃんと戻ってきてくれた。それで良し!」
「あ……」
カラカルさん、ぼくのほっぺたに……
「あーっ!カラカル、キュルルちゃんを食べちゃったよ!?」
「ふふ……あたし、狩りは結構得意なのよ?」
「茹で上がりおって、ふふ……可愛いヤツめ……祝福するぞ、二人とも。此度の騒動のカタが着いたら私の元を訪ねるが良い」
「これは、おマエのか?」
「曲者ッッ!!者共ォ!!出合え!!出合えェイ!!」
バスの中は明るいのに、突如、一部だけ暗がりが現れその中から二人の真っ黒いフレンズさんが出てきた!レッドさんが間に割ってて入り、現場には、じり、じりと緊張が走る……
「これは、ダイジなモノなのだろう……?」
「おマエにカエすぞ……」
「ありがとう……」
あれだけ賑やかだったのに水を打ったかのよう
「フフ……そうオソれるな……トってクおうだなんてしないんだぞ?」
一歩、また一歩とぼくは探りながら近づいて行く……
「おお、フウチョウコンビか。相変わらず食えない奴らよ……」
胸元に黄色をベースとした七色に輝く大きなリボンが着いてる方が「カンザシ」さん、蒼い飾りが特徴的な方は「カタカケ」さんであるとビャッコさんから教えてもらった
どうやら何かの拍子にスケッチブックを落としてしまって居たらしい
返して貰う時、触れた途端、電撃みたいのが身体中に疾しるような「違和感」を覚えた
「キをツけるのだぞ?では、さらばだ!」
そう言うと、二人はまた暗がりへと消えて行く
この時の様子を「カワラバトが豆でっぽ喰らったような顔」とはビャッコさん
↓→↑←→↑←→↓←→↑←←
「お忘れ物は無いですか?」
ロバさんの駆るジャパリバスは、これからは、ぼく達とダブルスフィアチームと別行動となる
イエイヌさんの待つエリアまで後半分くらいの所まで送って貰った
「うん、ロバさん、ここまでありがとう!」
「いえ、わたしも久しぶりにわいわいした雰囲気で楽しかったですー」
「カラカルと、キュルルとっても仲良いよね!」
「ルルさん、み、見てたの!?」
なんと、ぼく達がライブステージへ向かった後、サーバルさんはみんなを起こし、こっそり着いてきたんだって!
そして、サーバルさんは「てへぺろ☆」と……
「けものを隠すならけものの中、だよ!」
これは、やられたなぁ……
「うん、アツアツだったぬー!」
おうふ……
ルルさんは、その時お友達の「オグロヌー」さんと無事再会出来たみたい
「ヒトと言うのは賢い、だが、それが余計なのだ。泣きたい時には泣け!笑う時はその倍笑え!!感情を剥き出しにする勇気、それを忘れては成らぬぞ?」
「はい!」
「うむ、良い返事だ……なにぃっ!?」
ぼくは、流れに身を逆らい自身の感情を確かめる為カラカルさんを強く抱き寄せた
「!!」
一方的とも言える行為
だけど、視線がごく自然に触れ合う
無限とも思える刻が流れ、ぼくの純粋な一つの感情を伝える……
そして、そのまま
「カラカル、君の事が好きだ!」
唇を奪った
飾らない、ただそれだけの言葉を伝える
「……これはやられたわね、この責任、きっちり取って貰うんだから!」
「今のズキュウウウンってなんなのですの!?」
「さすがキュルルちゃん!あたし達にできない事を平然とやってのける!!」
「そこにシビれるで御座るゥ!!」
「あこがれるぬー!!」
「いやぁ……ちょっと……あはは……」
幸せと言うモノは、案外身近に有ったりするモノ
大事にしていきたい
「それでは、ぼく達もう行きますね」
「うむ、身体には気を付けるのだぞ?」
「まんぞく」
「うお!スナネコ!!」
ぼく達がバスから離れる丁度その時、ふらふらとスナネコさんがやって来た
「ちょうちょがここまで導いてくれたのです。ツチノコ、ただいまです」
「お、おう」
別れ際に
「キュルルさん、またいつか続き、やりましょ?楽しみにしてますよ」
「はい!」
「今度は、あなた達の物語も添えて……」
そして、バスは二回「ぴっぴ!」と合図をすると、走っていった
「どこまで、行くのかしらね?」
「どこまでも、行くんじゃないかな?」
「ではそろそろ、私達も行きましょうか」
「依頼主さんも待ちくたびれてるかもねー」
歩き歩けば続いていくこの道は、どこまでも繋がっている
今日ぼくは、気持ちを伝える事が出来た
結果が良かったから本当に嬉しい
もしも「ダメだったら」は、不思議とあの時思い浮かばなかった
傷つく事を、恐れては前には進めない
フレンズかヒトかなんて、どうでも良い事なのかも
「アイ、……上手く言えないけど……ありがとう。スカっとしたわ!」
「こちらこそ!」
だって、繋いでくれるその手は力強く、そして、ぼくを満たしてくれるのだから……!
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