第12話 眠れない夜 ~Take my breath away~
「オマタセ!」
どんちゃん騒ぎも一通り終わった処でボスがお食事を持ってきてくれた
あれから結構経っていて辺りはもう真っ暗!
「よ、良く見えない……」
ゆっくりしてる場所は昼間でも日が当たりにくい丘の下……
「はい、これ!」
「あ、サーバルさんありがとう!」
ぼくにしっかりと手渡してくれる
「ん……?」
今、何か暗闇で光ったような……?
気のせいかも
本日のお晩は、じゃぱりまん!
昼間ご馳走になったのとはまたブレンドが違うんだって
ボスが教えてくれたのは、ここのはとにかく回復重視のハードな運動を毎日する片達向けって事
なんだか力が沸いてくる!!
「もぐもぐ……」
目を閉じ、味の向こう側へとその思い馳せる……
うん、爽やかでとってもフルーティー
甘さ控え目、ラズベリーの芳醇な薫りのジャム、そしてそれを邪魔しない隠し味のカカオフレーバー……
たくさんのボスがゆっくりと、そして丹念にそれらを混ぜ合わせているね
(キュルル、はい、あーん……)
「あーん……」
やっぱり夜目が効きやすいのかも?
カラカルさんは、ぼくのお口にしっかりと合わせてくる
「どうかしら?」
「美味しゅう御座います……」
「このつぶつぶしたの、何かわかる?」
カラカルさんが食べてるのとぼくのとは違うみたいだ
「フフフ……キュルル、アテテミテ?」
これは、カラカルさんと、ボスからの挑戦状だ!
少し、転がしてみる……
「クランベリーに、レモン少々……かな?」
「ホカニハ?」
「んー、解りにくいかも?」
他にも何か隠し味が有るみたい
「キジニハナニガツカワレテイル?」
「うーん……」
これは、難しい!
ソフトな生地に……
「トウニュウガハイッテイルノサ!」
「成る程……」
クリーミーな風味になにやら混ざる隠し味……
これが本当の隠し味!!
「旨い」の一筋縄では行かない実に奥ゆかしい味わい……
「キュルルちゃん、いーなー!いーなー!!」
「サーバルもはい、あーん!」
「あーん!もぐもぐ……ありがとう!!」
「どういたしまして!」
真っ暗で良くわからないけど、多分ぼくたちのやり取りが見えたり聞こえていたんだと思う……
「プ、プロングホーン……?」
「あ、ああ……済まん、私はあまり目が良くなくてな……」
「実は、わたしも……」
「あー!チーター!てめーズルいぞ!?」
「まぁまぁ、あたしのあげるから?ね?」
「し、しょーがねぇなぁ……」
それから「あーん」と言う声が横や後ろから聴こえ始めて……?
「ちょ、そ、そっちじゃないわよぉ!?」
「ならば、明るい場所へ行くまでだ!」
「そ、その……」
「なんだ?」
「しばらく、このままでいいわ……」
「そうか……改めてはい、あーん……」
「ち、近いわね……」
「これならチーター、お前が良く見えるんだが、イヤか?」
「……あーん」
暗くて何をやってるのか……
「キュルル、イマハカイワダケタノシムトイイヨ、クライトコロハナニガアルカワカラナイ、コロンダリシタラタイヘンダヨ!」
「……分かった」
なんだろう……もやもやするような……?
…………
「キュルル?」
横から!?
「どこ……にいるの……?」
(ふふ、ここよ……)
今度はぼくの後ろ!?
「うっひゃあ!?……カラカルさんのいじわるー!」
「そ、そんな訳じゃ……」
「カラカル、あんまりいじわるしちゃダメだよ!」
「サーバル……」
ちょっとカラカルさんぐずり始める……
「そ、その……」
「なによ……?」
涙声……苦し紛れにじゃぱりまんを……?
「はい、あーん……」
「……はむ」
「ごめんね……」
「い、良いのよ……あたしも、やり過ぎたわ……」
↑→↓→↓→↑←→↑←→↑←B+A
夜は深い……
ぼくはなかなか寝付けずにいた
みんな寝静まり
辺りはしんと静かに
時おり吹く優しい風の旋律が聞こえる
チーターさんが用意してくれた草のベッド、確かに快適なんだけど……
起こさないようにそっと立ち上がり、少し夜風に吹かれたくてぼくは歩き始める
影になっている場所を離れ、月明かりが照らす小さな岩
そこに座って空を眺めていた
「キュルルちゃん!」
「サーバルさん!まだ起きてたの!?」
「まぁね、何か考え事でもしてたの?」
「うん、ちょっとね……」
ぼくはあの日見た夢の事をサーバルさんにお話する
探している「お家」はここには無いこと、離れ離れになったお父さんや、お母さん、そして一緒に遊んでいたワンちゃんの事を……
「キュルルちゃんはこれからどうしたいの?」
「ぼくは……」
いじわるするでもなく、バカにするでもなく、そして真っ直ぐな目でぼくに問いかけてくる
「わたしにはね、かばんちゃん。もちろん他の子も。大切なおともだちをしっかりと支えてあげられる力になりたいんだ。お父さんや、お母さんはわたしにはちょっとよくわかんないけど……もしまた逢えたら一緒に笑えるようにしたら良いんじゃないかな!」
「でも……」
「大丈夫!きっと逢えるよ!!また明日から一緒に頑張ろうよ!!」
サーバルさんの言う通り、「大丈夫!」そう思えて来るから不思議……
「キュルルちゃんが落ち着くまで、わたしそばに居るからね!」
「ありがとう、サーバルさん」
「へーきへーき!かばんちゃんともこうして夜はよくお喋りしてたんだー」
「そうなの?」
「うん、いっぱい悩んだり、ケンカもしたけど、その分仲直りもたっくさんしたんだよ!」
「そうだったんだ……でもサーバルさん眠くならないの?」
「大丈夫!わたし、夜行性だから!!」
それからぼくは、サーバルさんとずっとお喋りをしてたんだ
かばんさんは意外と意地っ張りな処も有ったりと苦笑いでお話してくれる
地平線が色づき始めて、もう今日と言う一日が始まろうとしていた……
「サーバル!!」
そこには血相を変えて走って来るカラカルさんや、みんなの姿が!
「キュルルちゃん来るよ……!」
視界に捉えたど同時に、サーバルさんも全身の毛を逆立て、ぼくに注意するようにと……
始めは小さな揺れだった
次第にその幅が強く、大きくなって、ぼくは足を取られて立っていることが出来なくなる
「大丈夫、あたしが付いてる!」
おろおろするぼくをカラカルさんが手を握ってくれた
しばらくすると揺れは収まり、辺りにはしんとした冷たくて、静かな空間だけがそこには有る
「みんな、どうしたの!?」
「ここから、離れるわよ!!」
みんなが鋭い目付きで睨むその先には地面が割れている場所
だけど、縛られたように誰も動こうとはしない……
ぼくも、心臓の鼓動が刻む音だけがイヤに耳に響いてくる
「な、何でよ!?脚が!!」
「クソッ!万事休すか……!!」
やっぱり、「動こうとしない」じゃなくて「動けなかった」んだ!!
ベチャリ……
割れた地面から、ドス黒い霧と共にバケツをひっくり返す前に戻るような、そんな一つ目の巨大な化け物がぼく達の前に姿を表した
「まだ諦めるのは早すぎるぜぇっ!……プロングホーンさま、ごめんなさいっ!」
ロードランナーさん、偶然にも片足がその効果範囲から少しだけ外れてたらしく、脱出に成功
動けるようになった所で、プロングホーンさんをそこから弾き飛ばした!
「へんっ!飛んじゃいけねーなんてルールは無かったぜぇ!!さぁ、反撃開始だ!!」
空高く舞い上がり
「ちょっとぉ、ロードランナー!!」
「待ってろ!!気が散る!!」
動けば動くほど、もがけばもがくほど、「影」は蝕み、身動きがどんどん封じられていく……!
「くっ……!」
ぼく達は、もう……ここまでなのか……!!
「しゃあらくせぇっ!でやあっ!!」
遥か高くから「弱点」へと急降下!
まるで槍の様に凄まじいスピードで一直線のラインで襲い掛かるも、地面に自身の身体を叩き付けるように「溶けて」しまった!
「今だ、てめーら!」
動く……動けるぞ!!
呪縛から解き放たれ、やっと自由を取り戻す事に成功した!
「ありがとう!ロードランナーさん!!」
「へん!礼は後に取っときな!!」
「ミッちゃん、やるじゃないか!」
「いやぁプロングホーンさま、嬉しいお言葉ありがとうございます!!」
「コイツぅ……!」
「あはは……」
ロードランナーさんを恨めしく見てるカラカルさんに、思わず苦笑い
「サーバル……」
「うん、アイツだよ……薄くなってるけどあの時付けたわたしと、カラカルの血のにおいがする……」
この化け物はあの時、ぼくを襲ったアイツ
そう二人は教えてくれた
「逃げようよ……!こんな大きいの勝てっこないよ!?」
ルルさんは、とても不安そうな顔でもう逃げようとぼく達に提案してくる
「今倒さないと……」
「プロングホーン!あなた、わたしに勝ちたいんじゃなかったの!?今ここでやられたら……わたし、わたし……!!」
「……済まなかった。確かにチーターの判断が正しい」
じりじりとバックしながら「影」に捕まらないように、だけど離れ離れにならないように移動しながら
[おまえたち!いきているですか!!]
ボスを通してコノハ博士から通信が入ったんだけど「うるさいわね!後にして!!」とカラカルさんが乱暴に言うと
[かならずいきて、かえるのです!これはめいれいなのです!……どうか、ごぶうんを……]
そして、通信が途切れた
「おい、てめー!そいつをよこしやがれ!!ルル、着いてきな!!」
声のトーンがより一段と強まりを見せる
「……分かった。キュルルちゃん、それ借りるね?」
「任せるよ」
ロードランナーさん、何か策があるみたい
「プロングホーンさま、てめーら、このロードランナー様が戻ってくるまでくたばるんじゃねーぞ!……すぐ戻るからよぉお!!」
ロードランナーさんはルルさんと、化け物に向かって走る
「ベチャリ」と、何かを投げつけてくるけとど、そんなの関係ないよと言わんばかりにチーターさんを彷彿とさせるその動きは、朝日の輝きも相まって稲妻の如き閃光と化していた
「キュルル!目の前!!」
「うわぁっ!」
「ごめん……あんた……!」
目の前にはもう一人の色の無い「ぼく」
そいつはもちろん「ぼく」なんかじゃない
気味の悪い一つ目でじっと睨まれた
刹那……!
「シッ……!」
間一髪!ぼくの肩に右ストレートが飛んでくる!!
認識するよりも先に身体が反応してくれてなんとか交わした形に
もちろんこれで安心とはいかない
カラカルさんや、サーバルさん、チーターさん、プロングホーンさんもぼくと同じ「もう一人の自分」と必死になって戦っている
「キュルル!余所見してる場合じゃないぞ!!」
「理解ってる!」
もう一人の自分はとても厄介だ
行動パターン、考えはすべて読まれていて、右に拳を打ち出したならそれを受け止められ、掴みかかろうにも、流される
やりにくい
戦うことなんて、今までやったことなんて無い
もう、ただひたすらにがむしゃらにみんなの真似をしながら、流れに身を任せ、かつ覚えなくちゃいけない
誰かを守れなくちゃこの先、やっていく事なんて到底出来っこない……
「しめた……!」
ぼくはツイてる!
「もう一人のぼく」の重心が一瞬だけグラついたのを見逃さなかった
「はっ……!」
咄嗟に足払いを掛け、倒れ掛けたその時……!
「しまった……!」
肩を捕まれ、ぼくも一緒に倒れ始める
「うおおおおお!!!!」
空いた右手をそのまま倒れる力と一緒に使い、心臓の位置へと全力で拳を撃ち込んだ
グシャッ……
「やった……!」
もう一人のぼくは、黒い霧になってそれは空へと吸い込まれて行く
嫌な感覚だ……伝わらない温度がまだ手に残っている……
さようなら……
「てめーら!走れ!!そいつらに構うな!あの壁に向かって!!」
ロードランナーさんが指差す先には、壁に……ってあれぼくのスケッチブック!?
「良いか!絶対に振り返るな!!走れ!!」
「えぇっ……!」
何が何だか良く理解らない!
プロングホーンさんはチーターさんを、カラカルさんは、サーバルさんを
「しっかり掴まってて!逃走王の脚、見せてあげるっ!!」
ぼくはルルさんに抱っこされ壁に貼り付けられたスケッチブックを目指して走った
BeeP!!
BeeP!!
信じられない!
なんと、ぼく達は絵の中に飛び込む事が出来て
「にゃにっ!?」
そして反対側へとたどり着いた!!
BeeP!!
BeeP!!
「こんなのデタラメよぉ!!?」
うん、ぼくもチーターさんと同じ意見!
「へん!壁を通れないなんてルールは無かったんだぜぇ!!おらよ、コレ返してやる」
「アッハイ」
生還の安堵束の間……
「また……!」
うおああああああ!!
再び大地が揺れる
ホンの一瞬だけど、さっきよりもより強い衝撃がぼく達を襲った
「ねぇ、今のって……?」
「来るわよ!!」
揺れが収まると同時にみんなすかさず立ち上がり、備えた
フハハハハハハハ!!!!
「誰だ……ッッ!!」
今通ってきた岩山の上、腕を組み見下ろす誰かがそこに居る
「とうっ!!」
飛び降りてくるフレンズさん?いや……
「ビースト!?」
しなやかな、そして美しい白き「魔王」を思わせるその風格……
「うにゃあっ!?」
あ、転んじゃった
「キュルル!あんた何してんのよ!?」
カラカルさんが止めに入ったけど
「カラカルさん大丈夫……下がってて……」
「んもう……」
これはぼくの命を投げ捨てる行為とほぼ等しい、だけど何故か
「立てる……?」
「すまぬ……だが、助けは要らぬ!」
剥き出しの鋭い大きな爪……
伸ばしたぼくの手をそっと退け、立ち上がった
「心遣い感謝する……我は、我の名を知らぬのだ……すまんな……」
「いえ……」
「……ヤツは、我が地面をちょっと小突いてやったら、しっぽ巻いて逃げおったわ……」
自分の名前を知らないその方は、あの化け物を狩りの獲物として追っているそう
「む?お前……」
「ちょっ!?」
「何故、アレと同じにおいがするのだ?」
「何でって……」
「まぁ、良い……覚えた……さらばだ!!」
フハハハハハハハ!!!!
「行っちゃった……」
何だったんだろう?
それからぼくはコノハ博士と連絡を取り、色々と情報を交換したり、これからの事を相談した
今、研究所にはシロナガスクジラさんことおかーさま率いる「海の家」チームから連絡が入り、海底から「セルリウム」と呼ばれる物質が出てきていると報告が有り、調査中だと教えてくれた
今朝の揺れは、もしかするとそれと関係が有るかもしれないらしい
あのビーストの名前は「ホワイトタイガー」さん
一応まだ、被害は報告されていないらしい……
プロングホーンさんと、チーターさんはこの付近に居るケガをしているフレンズさんが居るかもしれない
その方達の救護に当たりつつ
「オマタセ」
[その子達に使い方、教えてやるのですよ?]
「解った」
到着したボスを相談の結果、プロングホーンさんにぼくと同じように腕に着けて
「これで良いか?」
[バッチリなのです!]
朝ごはんを摂ったら
「じゃあ、ぼく達行くね。色々とありがとう!」
「ああ、お前達も気を付けるんだぞ!」
プロングホーンさん、チーターさん、ロードランナーさんと握手を交わし、「行ってきます」を告げたぼく達は、マーゲイさんの待つ「ライブステージ」を目指すため、新たな一歩を大地に踏みしめる
そして今日もまた、長い一日が始まったのだった……
はっしゃおーらい!ジャパリパーク!!
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