第70話 怪盗Xとはだれーだ
「え?吉条って苦手な物ってあるのね。意外だわ」
「お前は俺をどんな風に見ているのか知らんが、苦手な物は山ほどある。カラオケもボーリングも若干苦手だ。そして、こういったクイズや引っかけ問題がこの世で一番俺にとって苦手なものだ」
南澤は今まで俺がお悩み相談部の案件を解決したからこそ出来ると踏んでいるのかもしれないが、それは自己犠牲、もしくは心理的操作が使えるからこそ、今まで出来ただけであり、こういった紙に書かれてあるのを読み取り、何を意味するとか名探偵の様な事は出来ない。
今まで解決出来たのは人だからだ。人の心理を読み取り、そこから導き出せるからこそ俺は役に立てたのかもしれないが、紙ではどう足掻いても心理なんて分かったものではない。よって、俺にこういったものは苦手なのだ。
「じゃあ吉条もこっちに来る?その代わり私達は文化祭実行委員の手助けとしていくから多分手伝いはしないと思うけど」
「そうなるわな」
本音を言えば、役に立たないので放っておいてほしいと言うのが俺の理想なのだが、よく考えてみて欲しい。
自分が働いているのに、隣でだらだらと過ごしている人間がいれば誰でもムカつく筈だ。俺はその気持ちは分かると言えば分かるので全員が働いている中、自分だけだらけているのは多分居心地が悪いし、気分も悪い。
……結局文化祭実行委員に行かなくちゃならないのか。相当面倒だな。
「これ無視したら良いんじゃね?そしたら、泣いて探してくれよって出てくるかもしれないぞ」
「そんな怪盗とかいるんですか!?」
俺も見たことないが、ネタとして使えるのではないだろうか。
「私は見つけるわよ!そして、名探偵になるわ!」
「取り敢えず、今日は文化祭の集まりは無いみたいだし、どうしよっか?」
「もしかしたら、この挑戦状にヒントが隠されているのかもしれないわ!昨日は分からなかったけど、今日は見つかるかもしれないし!探してみましょう!」
南澤の意見に寺垣も泉も紙を覗き込んでいるので、邪魔にならないように清水の方に椅子を持って退避する。
「貴方も混ざれば?」
「結構だ。俺は怪盗X何て言うふざけた奴の遊びに付き合うつもりは毛頭ない。お前こそ探してみればどうだ?」
「そうね。少し挑まれるとなるとやる気は出てくるのだけど」
「お前勝負事とか好きそうだよな」
「貴方もでしょ」
「俺は違う。負けるのが嫌なだけだ。今回は俺に対して挑戦状が送られてるわけでもないしな。お前こそ見てきたらどうだ?」
「昨日見たから内容は覚えているわ。けれど、少し不思議なのよね」
「何が不思議なんだ?」
清水が不思議と言うのに少しだけ興味が持ててしまい、尋ねると清水も話す気になったのか本を閉じる。
「私が読んできた推理小説でも予告状、挑戦状と呼べるものは出てくるわ。だけど、そのどれもがヒントが隠されるのが挑戦状と言うの。そうじゃないと、止めることなんて出来ないでしょ?」
「まあ、そうだな」
「だけど、この挑戦状にはヒントが何も隠されていないの。私が分からない可能性もあるけれど、それが少し悔しくて考えたけど、やはり分からないわ。私の憶測が正しければその挑戦状には何一つヒントは隠されていない」
清水が言うのであれば確かなんだろう。確かに、苦手な俺が見た限りでもヒントなどは隠されていないように見受けられた。
まあ、興味ないから良いんですけど。
「ヒントがないならどうしようもないだろ。それに、この学校の誰かが考えたんだろうから、適当に書いたんじゃないか?」
「それが正しいのだと私も有難いのだけど」
俺からすればこの線しかない。別に推理作家や、有名な怪盗が考えたわけでもない。たかが、高校生が書いたものだ。そこまで、頑張って伏線や謎解きを書けるとは思ってない。それに、頑張って書いたとしてもそれは清水によって暴かれるのは普通。清水までもが暴けないとなれば、俺の考えでは適当に書いたものとしか思えない。
「うーーん。やっぱり分からないわよ。何なのこの怪盗Xって。本当に私達に探させる気があるの?」
「ですよねー。それか、私達が分からない様な何か隠されているのかもしれないですよ。例えば、光に照らしたら文字が浮かび上がってくるとか!」
「それだわ!やってみましょう!」
南澤が自分のスマホ機能についているライトで紙を照らすが、何も浮かび上がってくることは無いのか、がくりと肩を落としている。
「違うわね。どうしたら分かるのかしら。それに、これから怪盗Xが何かを盗み出すのかもしれないわ。私達が絶対に止めるわよ!」
「……うーん。だけど、これだと何を盗み出すのか全然分かんないよね」
「挑戦状に負けたら私達が敗北したみたいになるのが嫌ですよねー」
「そうなのよね。だけど、これだけじゃ分からないわ。次の文化祭実行委員は縁切って事は明日だわ。明日文化祭実行委員に行ったら何か分かるのかしら」
「その前に探すのを諦めると言う選択肢はお前の中にはないのか」
先程から絶対に怪盗Xを探し出すことになっているのだが、それを止めれば俺が文化祭実行委員に行くこともない。
「……そうね。私達の本分は誰かを助けること」
「おお。納得してくれたか」
南澤が納得してくれて嬉しい気持ちが込みあがってくる。
「それじゃあ多数決を取りましょう!私達が今から何をするべきなのか」
込みあがった嬉しい気持ちが引っ込んでしまった。
「おい。それは卑怯だろ。お前そんなことして嬉しいのか?」
「卑怯じゃないわ。ちゃんとした多数決での決め事よ!」
これじゃあ勝ち目があるわけもなく、見つけるのが三票、見つけないが俺と清水の二票で敗北確定。
結局探す羽目になってしまった。
マジで怪盗X許すまじ。
無視したら出てこないかなー。
翌日。
結局十月後半に行われる文化祭の為にわざわざ九月半ばから集合させられる文化祭実行委員の人達に、何故かプラスお悩み相談部。
文化祭実行委員を任せられているのがどうやら萩先生だったようで、助っ人として頼みに来た俺達の申し出はあっさりと受理されてしまった。やはり、実行委員というのは人が足りない様なので助かるようだ。
取り敢えず、この中にいる連中で俺が知っている人間が何人もいる。
小倉鷲高ことオックー。伊瀬茜。そして、吉木、春義、そして漢城の芝居に付き合ってもらった内田、漢城もいれば、小野もいた。
大抵の連中は体育祭で見ていた連中なのだが、所々で体育祭に居たときと違うメンバーがいる。
「それでは今から文化祭実行委員の会議を始めます」
今回は体育祭での顔ぶれもあり、教えることは無いと判断したのか内田が実行委員長をやるようで仕切っている。
俺達は協力という形なのでどうにでもなると思い、怪盗Xたる人物を探すのだが、うん、誰か分かるわけがない。もとより探す気など皆無なのでただ見ているだけ。
だが、南澤、泉、寺垣は隅々まで見渡すかのように沢山の人間を凝視している。
どうせ、探しても分からんだろうに。
怪盗であるならば、前回のペンキ事件とは違い、今騒動を起こす訳も無い。やるとすれば放課後、もしくはお昼休みか。わざわざこんな場所で何かをするとなど限りなく零に近いので正直探すだけ無駄だ。
「……吉条君ってやっぱり委員会好きなんです?」
暇つぶし程度に眺めていると、隣に座っている漢城から耳打ちされる。
「違う。これは部活での案件だ。別に委員会に来たい訳じゃない」
「あ、もしかして私に会いに?吉条君は大胆ですねー。そんなに伊里ちゃんが恋しいですか。このー」
馬鹿野郎とでも言わんばかりに腰に手を当ててくる漢城が非常に鬱陶しい。
「俺ちゃんと依頼の案件だって言ったんだけど?馬漢城」
「その馬鹿と漢城を合わせるの止めて欲しいんですが!?」
「妙にしっくり来るから好きなんだよな。丁度暇を持て余していた所だからお前でも弄って時間を潰すか」
「そう言うのは心で言うのであって口に出すのは良くないと思うんですが!?それに、弄るのは勘弁していただきたいです!」
「……あ、あのー。漢城ちゃん。ちょっとだけ声を下げてもらっても良いかな?」
内田さんが遠慮気味に漢城に注意する。よく見れば、漢城の声でちらほらと視線がこちらに向いている。
「すみません。こいつにはきつく言っておくんで会議進めてください」
「どうして私が悪者扱い!?」
漢城に指摘されるが、内田さんは分かったと呟き話を進める。
「声は落とそうな」
「吉条君のせいなんですが!?」
今注意されたのもあってか少し音量を小さくしながらも俺を叱ってくる。
「俺のせいじゃない。お前のせいだ」
「私悪かったですか!?」
「という冗談はともかく、俺はここに二つの用事がある」
「ハア。どうしたんです?」
「一つはお前に聞きたいことがある。今欲しいものは何だ?」
前回の反省も生かし、面倒なのでストレートに聞いたのだが、漢城は何か見定めるような視線をこちらに向けて、体を半歩分横にずらして体を開ける。
「……どうしたんです?最近の吉条君は少し変です」
「誰が変だ。俺は借りがあるままなのが嫌いなんだよ。お前に手帳見してもらったりとか、色々やってもらった分の借りは返す。だから、欲しい物を言ってくれ」
俺の言葉に納得したのか、漢城は手をポンと叩き、再度同じ距離を戻す。
「成る程。そう言うことだったんですね。その前にまず澤さんとは仲直りしたんです?」
「ああ。一応謝ったし多分したと思うぞ」
「それなら良かったです。それで、私のお願いは今の所ないですねー。唯一欲しいものと言えば何か美味しいネタになる様な物を教えて欲しいです」
「……そう言った情報のネタを俺に聴くのがまず大前提でおかしいと思うんだが」
「だから、一応ですよ。そこまで考えてはいませんし」
ネタと言われて思い付くのは何だろうな。文化祭?いや、そんなの誰でも知ってるわな。
……ん?文化祭?
「あ、俺一個だけあるぞ」
「え?本当です?」
まさか漢城も何か得られるとは思っていなかったのか若干前のめりになる。
「ああ。俺達お悩み相談部への怪盗Xから挑戦状が来た」
だが、俺の話を聞いた瞬間漢城の目が清水とはまた違った冷めきった目つきに変わった。
「吉条君。そう言うのは卒業した方が」
「ば、馬鹿!違うからな!本当なんだよ」
漢城が俺の頭が残念になったと思っている様なので、十分程度しっかりと丁寧すると冷め切った目が輝く光る。
「何ですそれ!凄い面白そうじゃないですか!」
「そこまで面白くはないと思うがな。実際俺は興味ないし」
「それじゃあ、私への借りは怪盗Xを吉条君が見つけ出してください!それが私のお願いです!」
「それでいいのか?」
「はい!もうそれしか思いつきません!そして、犯人が分ったらどうやって分かったのか、犯人は誰なのかを絶対に教えて欲しいです!」
漢城がそれでいいのであれば、丁度やらなければいけない案件らしいし、どうせ文化祭実行委員の方には来ないといけないので丁度いい。
「まあ、見つけれたらだけどな。正直全く自信は無い」
「期待してます。吉条君!」
漢城からエールを送ってもらえば丁度文化祭実行委員の話し合いが終わったので、俺のもう一つの確認すべきことをする。立ち上がり、一人の前に行く。
「なあ、小野。少し話があるんだが」
「どうしたの?ここで話す?」
「いや、ちょっと場所を変えよう」
「分かった。それじゃあ、皆先に教室戻ってて。私も直ぐに行くから!」
小野は一緒にいた二人組に手を振りながら何処かに行った。
……ん?一緒にいた子の一人に身に覚えがある様な無いような気もしなくはないが、別に良いや。
もう外面を見るのも慣れてきたので、手早く教室から出て少し離れた場所で誰にも聞かれないであろう所まで来れば、脚を止める。
「それで一つ聞きたいんだが」
「何だよ。とっとと要件を言え」
「切り替え速すぎるな。まあ、良い。それよりこれはお前の仕業か?」
「ああん?」
睨みつけるような目つきをしながら、俺がポケットから出した一枚の紙を取ってみる。
「……これは私じゃねえ。私ならもっと露骨に怪盗Oぐらいにするだろうし、こんな文章は送らない」
「だろうな」
「言っただろ?もうお前に興味は無い。じゃあな」
「ああ」
一応確認だったので違うなら別に良い。元より小野が送ってくるのであれば、自分が送ったのだと分かる様に仕組む筈だしな。
怪盗Xか。ちょっと探してみるか。
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