第69話 10月と言えば何だろうか

 十月と言えば、何がある?と聞かれれば、高校生や中学生の間での殆どは文化祭と答えるだろう。学校によっては十一月の所もあるらしいが、俺達がいる学校では十二月に修学旅行があり、その前に期末テストもあるので、十月に文化祭だ。

 文化祭、俺にとっては何の思い出も無い。ただ、邪魔にならないように少し手伝いをして、密かに隠れて本を読んでいた記憶しかない。

 

 どうしてこんな話を?と聞かれれば答えは簡単。

 まだ九月にも関わらず、決めなければいけない出来事。そう、文化祭実行委員。


 どうせまたお前がやるんだろ?と思った貴方。違います。俺は前回の反省を活かし、きちんと萩先生の話は聞いている。よって、放課後に勝手に帰る様な真似はしない。話し合いには出てるし、もう完璧。


 「吉条。お前体育祭実行委員もやって慣れただろ?やらないか?」


 ……一つ予想外なのはこのおばさん。俺を実行委員にしようとしている悪魔の女。この人をどうにかしなければ俺に平穏は訪れないらしい。

 

 「やりません。体育祭実行委員と文化祭実行委員では役割も全然違いますし、俺が体育祭でやったのは看板作成と、その他の雑務だけであって、全く把握してない。よってやりません」


 「だが、このままじゃ決まりそうにないんだよ」

 

 「知りません。そしてやらない」


 「敬語を使え!」


 反射的に殴って来た萩先生の拳を華麗に躱す。実際はマグレです。


 「ですから、俺みたいにコミュニケーション能力も無い人間がやるより他にもっといるでしょ?」


 「……それには一理あるのだが」


 それで納得するのはするので俺には不満がある。

 男心って難しいよね!


 「もうじゃんけんで良いんじゃないっすか?それなら全員平等ですし、文句は出ないのでは?」


 「……確かにそうだな。よし、全員席を立ち私に勝ったものは座ってよし。負けた者、もしくは引き分けの者は立て」


 全員えーとか、うーとか言いながらも立つんだな。ちょっと皆結構やる気ありませんかね?

 だが、これは全て俺の計画通り!

 ちょっと妙なテンションになってしまっているが、仕方ない。ここまでは全て計算済みだったのだから。

 昨日俺は保健室で寝ころんでいたのだが、南澤が謝罪と同時に文化祭実行委員を明日決めると聞き、俺は絶対にならないように入念な作戦を練った。

 前回の萩先生の事もあり、俺にやらないか?と言うのは必然。そして、そこからじゃんけんの提案まで全部織り込み済み。そして、集団でじゃんけんともなれば、俺はボッチである。

 こういう時、リア充連中は仲間の出す物をしっかり見ているので反則は許されないが、俺はボッチであり誰も注目などしない。よって、反則などしても誰にもバレない!


 ……案の定俺はじゃんけんで萩先生が出すのに対しワンテンポ遅れて出したおかげで一抜け。よって、文化祭実行委員にはならずに済んだ。


 ハハハハハ。超愉快。俺に文化祭実行委員なんてする気なんて毛頭ない。勝手にやっていてくれ。俺は、文化祭中は静かに本を読むことに徹底すると決めてるんだ。

 文化祭実行委員も決まったので、お開きになり俺は部室へと歩いていくのだが、


 「吉条。一緒に行きましょう!」


 なんかペットに懐かれた様に隣を笑顔で歩く南澤。こいつは弁当の件と言い何がそんなにも心境を変えたんだ?


 「そうだね。今日はやることもあるし、昨日は吉条がいなかったから後になったもんね」


 「ん?なんだやることって?依頼でも来たのか?」


 寺垣が呟くのを聞き、少し疑問に思ったのだが、


 「それは部室に行ってからのお楽しみよ!」


 どうやら何かがあることは確定のようで少し南澤がウキウキしている様に見える。

 言わないということは、多分依頼ではないんだろうが、なんだろうな。依頼以外でやることと言えば、今のところは文化祭?だが、俺は文化祭実行委員にはなってないし、クラスで出す代物も多分殆ど関係ない係りになることは決まっているので多分関係ない。


 「――――待たせたわ!さあ、張り切ってやるわよ!」


 部室に入った瞬間高らかに拳を上げながら気合を入れる南澤に先に来ていた泉が拳を上げて応えている。


 「そろそろ説明して欲しいだが?」


 「そうね。それじゃあ発表するわ!私達は文化祭実行委員の助っ人としてやっていくわよ!」


 ……ん?


 「……すまん。意味が分からん」


 「アハハハ。真澄はテンション上がってるからな。それじゃあ、簡単に説明するんだけど昨日部室に来た時に一枚の紙が部室のドアに挟まってたらしいの」


 「らしい?」


 寺垣の含みのある言い方に疑問を持ってしまったのだが、そこに泉が立ち上がってやってきた。


 「それがですね!私が発見したんですけど、このお悩み相談部に挑戦状が届いたんですよ!」


 「挑戦状?」


 泉が言いながら一枚の紙を渡してきたので、見てみると、


 『噂を耳にしたお悩み相談部の皆さんへの挑戦状です。文化祭のある日に大事な物を盗み出して見せます。私を見つけることは出来るかをあなた方に送らせて頂きます。怪盗X』


 「ふむ。子供の遊びか。付き合いきれん」


 阿保らしいと思い、紙をゴミ箱に捨ててやろうと思ったのだが、泉に服を持たれて止められる。


 「何してるんですか!?これは挑戦状ですよ!挑戦状!それを捨てるなんて言語道断ですよ!」


 「何言ってんだよ。こんなの子供の遊びだろ?」


 「――――私もそう思っていたのだけれど、そうでもないかもしれないのよ」


 「は?どういうことだ?」


 本を読んでいた清水が目をこちらに向けずに言葉を投げかけてきた。


 「どうやら文化祭実行委員会が今日ある筈なのだけれど、その際に全員に渡す用の紙が全部消えてなくなっていたらしいの。それで、今回の文化祭実行委員は中止らしいわよ」


 「そんなの偶々だろ?誰かが間違えてシュレッターにでもかけたんじゃないのか?」

 

 「今日必要な書類をシュレッターに掛けることなんてするのかしら?私も少し不可解に思うけど、あながち偶然ではない様な気がするのよね。多分、これは宣戦布告のつもりじゃないかしら。こちらは本気なんだって言うね」


 清水にしては意外な発言であった。確証がないが、曖昧で直感かもしれないがそうかもしれないと清水が勘で何かを発言するとは思いもしなかった。


 「え?そうなの?本当に怪盗Xって私達に挑戦状をたたきつけてきたって事ね!やってやるわよ!」


 どうやら、文化祭実行委員の紙が消えてしまったことは他の三人は知らないようで耳を傾けていたようだが、南澤がさらに燃えていた。少しずつ肌寒くなってきている筈なのに……この部屋だけ温度上がってない?


 「私達でこの怪盗Xをぎゃふんといわせてやりましょう!」


 「なんか刑事みたい!」


 「そうね!私達は今から刑事に……いや、名探偵になるわよ!」


 どうやら三人は更に興奮している様なので放っておいて、話が出来そうな清水へと尋ねる。


 「それで、どうして文化祭実行委員に乗り込むことにしたんだ?」

 

 「それは私が発案したの。その怪盗Xが本当にいるのかは定かではないけれど、挑戦状を叩きつける、そして犯人であれば文化祭実行委員にいるんじゃないかってね」


 お前が発案したのかよ!とツッコみたくなる気持ちもあるが、もしも反対の立場であれば、俺もまた同じことを言っていただろう。よって、あまり清水を責めることは出来ない。

 こいつら三人組にとっては依頼も来ない現状で暇を持て余していたのだろう。凄い張り切っている。


 「道理で南澤が今回実行委員に立候補してなかったんだな」


 正直一番意外であったのは前回体育祭の実行委員で立候補したと言っていた南澤がしていないのが意外ではあったのだが、


 「まあ、それもあるわ。だけど、体育祭の時はただ何かを頑張らなくちゃって思ってたけど、今はあんまりそう思わないわ。今まで必死にやって来たけど、それだけじゃないんだって気付いて、だから今回は文化祭を周る方に専念しようと思ったの」


 どうやら南澤はこの怪盗Xとかいうふざけた名前の奴を捕まえるだけではなく、色々と考えていたらしい。


 「ふーん。頑張れよ」


 「吉条も頑張るのよ!お悩み相談部でこの怪盗Xを絶対にとっ捕まえてやるのよ!」


 「頑張れよ」


 「普通に自分を除外しようとしてますよこの人!広先輩も一緒にやりますよ!」


 絶対に言うと思った。


 「文化祭実行委員にならずに済んだのにどうして行かないといけないんだよ。どうせ手伝いをさせられるんだ。絶対に嫌だ」


 「あんた、後だしして卑怯な手まで使ってたわよね」


 「……何で知ってんだよ。誰にもバレていない予定だったんだが」


 「丸わかりよ。ちゃんと見てるんだから」


 ちゃんと見ないで欲しいんだけど。ていうか怖いな。こいつらの前で卑怯な手を使ったらすぐにばれる気がする。


 「だが、南澤の言う通り俺は卑怯な手を使ってまで文化祭実行委員にならずに済んだんだ。だから、絶対にやらん」


 「うーん。なら、あんたは清水と一緒にこの挑戦状の解読を頼みたいわ。清水もどうやら文化祭実行委員は行かないって言ってたし、これ頼むわ。私と真澄と泉ちゃんで文化祭実行委員にいる中で怪しい人物を探すから」


 ……え?

 俺は南澤の言葉に違和感を抱いたのだが、それは俺だけではないようで泉も南澤の方を凝視していた。


 「……お前どうしたんだ?本当に南澤なのか?」


 「どういうことよ!正真正銘南澤よ!」


 「いや、お前ならここで俺が行かないとか言えば、絶対に来なさいよ!来ないと許さないわよ!それか放送で呼び出すから!とか言いそうじゃねえか」


 「あんたは私をどんな風に見ているわけ!?」


 いや、実際に南澤は一度俺を放送で呼び出すと脅していたのだが、忘れているご様子。なんと都合のいい脳みそをしているのだろうか。


 「いえ、私も少し驚きました。南澤先輩昨日から少しスッキリしてるような気がするんですけど」


 「き、気のせいよ!私はいつもスッキリして元気な女の子よ!」


 「そうだな。常に頭の中がお花畑の女だな」


 「あんたそれ絶対に馬鹿にしてるわよね!?」


 ギャーギャー喚く南澤の異変はともかくとして、俺に挑戦状の解読は出来ない。


 「……取り敢えず、挑戦状の解読は清水だけで行ってくれ。俺は無理だ」


 「どうしてよ。文化祭実行委員に来ないのならそれぐらいやりなさいよ」


 ふむ。南澤の言う通り。ド正論なのだが……


 「……苦手なんだよ」


 まさか、依頼がクイズで来るとは思わなかった。俺は何よりクイズというのが苦手なのだ。終わった俺の依頼!

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