第71話 怪盗X探しは難航中

 俺は文化祭実行委員を舐めていた。

 正直体育祭の時と変わらずにやっていれば……なんて考えがどうやら甘いらしい。文化祭実行委員ではいくつかの部門に分かれ作業を行わなければならない。

 部門に分けてまでやるほど忙しいのかと思わずにはいられないが、よく考えればこれは高校生だけでやるわけではない。一般の方も来るのでそれに対しての配慮も考えなければならないらしい。

 文化祭での禁止事項や、様々な項目を纏めたり、意見を言い合いながら進めているのを俺達お悩み相談部はヘルプとしての扱いなので見守っている。

 漢城からの借りを返すために怪盗Xとかふざけた名前を名乗ってる人間を見つけてやろうと思ったのだが、今の所全く分かる気配はしない。


 「怪盗Xってこの中に本当にいるんですかね?それにいたとしても何を盗むんでしょうか?」


 「怪盗Xさんに聞いてくれ」


 「分からないから質問してるんですけど!?」


 まあ、確かに泉の言いたいことは分かる。まだ文化祭が始まっていないのに見ている側からしても分かるぐらいに忙しい。それに加えて、もしもここに怪盗Xがいると仮定するのであれば、わざわざ自分が忙しくなるようなことをするのか?

 それとも、暇つぶし程度にするつもりなのか?怪盗Xはどうして俺達にあんな文章を送って来たんだ?

 全部意図が読めない。意味があるのか、無いのかさえ分からない。挙句に挑戦状にはヒントは何も隠されていない。もしくは、今も尚ヒントを送っているのか?

 だが、絞ることも出来ないのであればどうしようもない。

 まさに、八方塞がりな状況だ。


 「……ふむ。分からん」


 「これで分かったら私は広先輩が凄すぎて怖いですよ」


 「私も全然分からないわ。人は大勢いるし、誰が何をしているのかもこんがらがって全然ヒントなんて分かるわけないじゃない」


 「――――それじゃあ、花飾りを入り口の門につけるのでよろしくお願いします。他の人達もそれぞれ作業をお願いします!」


 内田さんが占めてどうやら会議は終了しそれぞれの持ち場に戻っていくようだ。


 「よし。私達も手伝うわよ」


 「は?」


 南澤が勢いよく立ち上がって宣言するので思わず声を出してしまった。


 「は?って何よ。皆忙しそうだし私達は一応ヘルプで来てるんだから手伝うわよ」


 「そうですねー。どうせ、こうやって見ていても私絶対分からないでしょうし」


 「皆忙しそうだしね。折角ここまで来たんだから手伝おうか」


 こいつらは本当に凄い奴らだと思う。今の会議を見ていても明らかに忙しいのは理解出来ている筈だし、普通は楽な道を選びたかる筈なのに、忙しそうだから手伝おうという考えが真っ先に思い付き行動出来るのが凄い。


 「……ハア。俺は呼ばれたら手伝う。それに、ここから見ていて気付くこともあるかもしれないからな」


 「分かったわ。それじゃあ二人とも行くわよ!」


 「「おう!!」」


 三人はそれぞれ手伝いに行き、俺は一人全員が働いているのを見守っている。正直に言って、誰かに手伝いましょうか?なんて聞く度胸も無いし、コミュ力も無いので仕方ないと言えば仕方ない。


 「吉条先輩も委員会ですか?」


 俺がボーと眺めていると、隣から小倉鷲高で、あだ名がオックーが話しかけてきた。


 「俺は委員会じゃない。部活だ。お前こそ委員会やってるんだな。良くこんな事をやろうと思える」


 「そうですねー。俺も普通はやるようなキャラじゃないんですけど、文化祭の実行委員はこんなに忙しいですから内申に結構響くって事を中学校時代に知っているので」


 「成る程。まあ、そこまで見返りがないと普通はやってらんないよな」


 「普通は?」


 俺の言い方が気になったのか、オックーが聞き返してくる。


 「まあ偶に――――極稀だが見返り無しで何かやろうと思う人間もいるんだよ」


 「へえ。そんな人いるんですね。それで、吉条先輩って部活入ってるんですか?」


 「ああ。変な『お悩み相談部』という所に連れていかれた」


 「意外ですね。体育祭の見る限りではどう見ても運動部だと思ったんですけど」


 そう言えば、体育祭ではこいつを抜いたんだったな。


 「俺は運動部ではやってられん。体力があるわけでもないからな」


 「それなら余計凄いですよね。涼が貴方を尊敬するのを良く分かります。だけど次は負けませんよ。俺こう見えて結構負けず嫌いなんで」


 「お前は見た目から負けず嫌いの様に見える」


 「ハハハ。景も悔しがってたんで来年は同じ組じゃないことを祈ってます」


 「俺は頑張らないで済むように祈ってるよ。ていうか、お前はこんな所で寛いでていいのか?皆忙しそうだが」


 先程から俺と話ているオックーだが文実は大丈夫なのだろうか?周りでは花飾りを南澤や寺垣がどうやら手助けしており、泉は伊瀬の元で手助けをしているようだ。

 漢城とどうやら小野は同じ部署なのか、漢城が少し縮こまっていて、虎に怯える猫の姿を連想させて少し面白かったのだが、どこも働いている。


 「俺の仕事はもう少し先なんですよ。俺達の所は広報で、近民に配る為の紙の作成や、学校のホームページでの掲示板作成なんかが主な仕事なんですけど、俺は出来上がったポスターを色んな近民に配る役割で、まあ雑用ですよ。広報の人達は俺の経験上緩いですし、上の学年の人達も今までの掲示板とか、ネットで調べたのとかを使ってやってるんで基本内申目当ての人が多いですね」


 「ほう。俺もやるならそこが良かったな。まあ、やらないけど」


 「ハハハ。まあ吉条先輩ならそうですよね。それじゃあ、部活何か知りませんけど頑張ってください。流石に戻らないと怒鳴られるんで」


 オックーが俺に一度お辞儀して、自分の持ち場に戻っていく。

 いつも通り一人になった俺は再度辺りを見渡すが、何処も盗むとか考える余裕は無いように見えるんだよな。


 その日、俺達は放課後の全部を使い、文化祭実行委員の会議室に居たのだが、怪盗Xという名の陰りさえも見つからなかった。


 翌日。


 この日、俺は舐めていたのかもしれない。怪盗Xという存在を。たかが、高校生なんだと油断したのかもしれない。


 「誰だ!花飾りが全部なくなってるぞ!」


 俺は少しだけ怪盗Xに対し、興味を持ち始めてしまっていた。

 

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