第10話 作戦会議
「作戦って言ってもどうしたらいいんだろう?本人に直接止めるように言いに行くのは?」
「得策じゃないだろ。黒柿に伊瀬の噂を流す動機はあるが、証拠がない。噂の嫌な所は証拠が残りにくいってとこだからな。証拠が無ければ黒柿はしらばっくれて、余計な警戒を与えるし無謀だろ」
「言われてみればあんたがやったんでしょ!って問い詰めても証拠が無かったらしらばっくれるかもね」
「現状で出来ることは黒柿以外に伊瀬に恨みを持っている人間がいないかを調べる。もし、いないなら確証を持って黒柿がやったという証拠を探す」
「急にやる気ですね」
泉がそんなことを言ってくるが、手伝ってくれと言ったのはどこのどいつだろうか。
それに、俺は薄情者ではない。
基本無気力で、事なかれ主義だが、今回泉に妹の誕生日プレゼントを選んで貰うのだから、手伝うのは当たり前だろう。
「作戦を練るぐらいは出来るが、誰かに聞いたりして調査するのは得意じゃない。調査に関してはコミュニケーション能力のあるお前たちに任せる。定在適所ってやつだ」
「成る程ですね。確かに広先輩が他の誰かと話すのとか全然想像出来ないですし」
「帰る」
バックを持ち颯爽と帰ろうとする俺の服の裾を持って引き留める泉。
「冗談ですから!真に受けないでくださいよ」
「……ハア。取り敢えず伊瀬は遅いから帰るとしても三人で情報収集して来てくれ」
「よし。じゃあ行こう!」
南澤を先頭に泉、寺垣も立ち上がり、伊瀬も三人に乗じて立ち上がり教室を後にし、部室には俺と清水だけが残った。
「……貴方は帰らないの?」
「あの三人が情報収集してくれるから帰ってもいいんだが、一つお前に聞きたくてな」
「私に何を聞くことがあるの?」
まるで自分は何も知らないような口ぶりだが、俺でさえ伊瀬の話に潜伏している違和感に勘付いていたのだ。
清水が気付いていないわけがない。
「分かってるだろ。噂が流れたのは黒柿と別れてから直後にクラス内で徐々に悪い噂が広がった。それだけ聴けば何も不思議はない……だけど、その二日後に一気に学校内全域に広まった。そこに疑問を感じた。清水だって感じた筈だ」
清水は俺の話を聞き、一度溜め息を吐きながら本を閉じて机の上に置く。
まともに話す気になったようだ。
「私に何が聴きたいの?」
「今回の件どう思った?」
「質問が抽象的過ぎると思うけど?」
「だから犯人だよ。誰だと思う?」
「私も話を聞いて、黒柿という男が噂を
どうやら清水も俺と同じ見解だったようだ。
「やっぱりそう思うよな。黒柿という男の影響力が凄いのであれば初めから一気に広まってもおかしくはない。だけど、初めはクラス内だけ。そこから導き出されるのは、そこまで黒柿と言う男は人望があるわけではない。だから二日後から一気に広まったのはおかしい。そうだよな?」
確認の為に情報を吐けば清水は首肯する。
「そうね。けど、一つ気がかりなのは二日後に流した人物は何故、更に噂を流す必要があったのかということ」
「そこなんだよな。清水は分からないか?」
「貴方は私をエスパーか何かと勘違いしてるのかしら。あれだけの情報で分かるわけないじゃない」
「やっぱそうだよな。悪かった。じゃあな」
バックを背負い、今度こそ帰り支度を済ませる。
扉に手を掛けた所で、背後から声を掛けられる。
「一応分かっていると思うのだけど、今回の案件は一気に広まった件は置いておくとしても、黒柿一人でも多少面倒よ」
「話聞いた時から分かってるよ」
清水からの忠告を受けて、今度こそ部室を出て家に戻るのだった。
食事を済ませ、いつも通りの日常を過ごし、ベットにダイブするが今日に限ってはあまり眠れる気はしなかった。
今回の案件は、清水は面倒だと言ったが正解だろう。
理由としては一つ。黒柿は賢い人間だ。
伊瀬に対して自分の独占欲という悍ましい程の感情を付き合うまで一切悟らせることをしなかったその頭脳と演技技術、普通ならば少なからず表情や、素で言葉に出る者が多い中演じ切る度胸、噂が立っても自分が根本だと悟らせないような振る舞いは確実にしていると断定出来る。
憶測では黒柿の目的は理解出来る。
何故噂を立てるようなことをしなければならなかったのか、南澤は逆恨みと言っていたが多分違う。
黒柿の目的は――――今からだ。
そっと瞼が落ちていくのを感じながら、忙しくなるという予感だけは何処か確信が持てた。
翌日。
放課後になればお馴染みである部室へと行き、いつものメンバーではなく今回は伊瀬が既に到着し、俺以外の全員が揃っていた。
「遅いわよ吉条!」
「どうして、同じ時間に終わったお前らが先に来てんだよ」
何故かは分からないが同じクラスであり同じ時間に授業が終わっている筈なのにも関わらず、絶対に南澤と寺垣は俺よりも部室に来るのは早い。
「吉条が遅すぎるのよ。それにほら、早く昨日聞いた話をするから座りなさい」
まるで、母親が息子を窘めるように言われるのが大層ムカつくので言い返してやりたい気持ちはあるが、話が先決なので敢えて言わないで定位置の椅子に座る。
「黒柿以外に怪しい人物はいたのか?」
全員は首を横に振り、否定する。
「噂ばかりで伊瀬ちゃんのことを恨んでるって言う人は見つからなかった」
見つかってくれれば一気に広まらせる悪行をした人物が分かったかもしれないが、世の中そんなに甘くないよな。
「昨日話を聞いた限りでも黒柿で確定だと思うんだけど、証拠がないからどう問い詰めたらいいのか分からないわよね」
「噂に関しては証拠って見つけにくいと思うし」
寺垣の意見に同意見だ。
噂は証拠が見つけにくい。
この一点に関してははっきり言えばどうしようもない。
よく小説で見る殺人事件でも当然の様に呟かれる『証拠を出せ』という言葉は本当に難しく難解な問いでもある。
動機があったとしても、証拠がなければ捕まえることは出来ない………、
「ああ!」
思わず頭の中で閃き声を上げてしまった。突然大声を上げたことによって皆が驚いた顔をしてこちらを向いていていた。
「突然大声を上げてどうしたのよ」
「ちょ、ちょっと待ってくれ。今凄い閃いた気がする」
今、確実に閃いた。
……まだ足りない。
黒柿を追い詰めるようにするのは後一歩足りない。
確実に解決出来る一つが足りない。
自分でもあっさりと言うべきか見つかったが、パズルで言う最後の一ピースを失くしてしまい苛立つ様な感覚だ。
「広先輩大丈夫ですか?奇声を発したり急に俯いて考え出してますけど」
頭でもおかしくなったのではないかと言わんばかりに泉が少し優しく語りかけてくるが、正常かつ冷静だ。
「何でもない。気にしないでくれ」
「そうですか?では、気分転換に話を変えて、今度遊ぶ時の為に先輩のライン教えてください」
「ライン?あ、ああ。スマホで使えるアプリの一つか。俺はやり方分からんからよろしく」
バックからスマホを取り出し、泉へと渡す。
「スマホがバックにあるのもおかしいですけど、平気で人にスマホを渡すのもおかしいですよね」
「え?スマホってバックに入れるもんじゃねえの?」
「前ポッケットに入れていつでも出せるようにしてますよ」
泉は俺と話しながら流れるように作業をし、スマホを返してくれる。
「俺は使う機会無いからな。結構、色んなことも出来るみたいだけど……ああ!」
自分のスマホを見て、再度声を上げてしまう。
「だ、だからどうしたんですか。変な薬でもやってるんですか?」
泉が大変失礼なことを言ってくるが、今はそれ所ではない。
頭がこれまでにないくらい冴えている気がする。
スマホの機能、小説の殺人事件、そして、決定的に追い詰めるだけの方法。
全てが思い付いた。
「おい、伊瀬」
「は、はい?」
伊瀬が突然呼ばれたことに怯えた子猫の様にびくりと身体を震わせながら振り向くが、俺は怖いのか?
……今は気にしている場合ではない。
「お前らの授業割り当てを覚えてるか?」
「流石に細かくは覚えてないですけど、教室に授業の割り当ては貼ってあるので見ようと思えば見れるんですが、必要なんですか?」
「ああ。もしも暇なら今すぐにでも撮ってきて欲しい」
「わ、分かりました」
伊瀬は慌てた様子で教室を出て行き、他の四人の目線は俺に集中していた。
「さっきも閃いたとか言ってたけど、黒柿がやったという証拠を見つける方法があるの?」
「今閃いたんだが、これにはお前らの協力も必要だ」
「私は茜の為なら手伝います」
泉が張りきって言うが今回の場合は泉だけでは足りない。
「南澤、寺垣も手伝ってくれるか?」
二人も大きく頷いたことで俺は説明に入る。
「――――ということだ」
考え抜いた作戦に三人は例外も無く全員がドン引きした目線を向けている。
まあ、そうだよな。
「普通そんな事を思いつくのはどうかと思いますけど、上手くいくんですか?結構勝率低いと思いますけど」
「泉の言わんとすることは分かるが、証拠が残らない状況で手を打たないと何一つとして好転はしない。少しでも勝率があるならやるしかないだろ?」
泉の言うことは一理ある。普通に考えれば無理な話なのかもしれない。
……だけど、中学時代から培ったあれを使えば無理な話ではなくなる。
この案件ではそれが必要不可欠だ。本当はあまり使いたくないが、手伝うと言った手前、使わない訳にはいかないだろう。
「無理なら次を考えればいい話だし、取り敢えず吉条の案でやってみましょう」
「撮ってきました」
南澤が締めくくると同時に、伊瀬が帰ってくる。
「見せてくれ」
伊瀬にスマホにある写真を見せてもらい、思わず頬が吊り上がる。
「今日は、木曜日だよな?」
「そうよ」
「決行は来週の火曜日だ」
「え?どういうことですか?」
伊瀬は何も聞いていない為不思議に言葉を放つが、後で泉に説明してもらえばいいだろう。
……解決の前に泉とのデートが待っていたのを夜にメールが来るまで忘れていたのはまた別の話だ。
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