第4話 初めての依頼主

 俺達は現在生徒指導の先生に怒られている。

 南澤、寺垣、清水もいる。

 ――――だがちょっと待ってほしい。

 誰もが分かっている筈だ。

 どうして、俺が怒られなければならないのかと。

 だから、皆の気持ちを汲み取ってはっきりと言ってやる。

 友達いないから皆とかいないけどね!


 「何で俺怒られてるんですかね?」


 「お前もこの部活の部員なんだろうが!」


 剛先生は怒鳴りながら手に持っていた広告を面前に持ってくる。

 渡されたチラシを見ると、部員に昨日も拝見したが名前が書かれていた。

 それで朝から呼び出しを食らった訳か。

 ここで言い訳しても良いがそれは得策ではない。

 先生に反抗するのは間違っている時にはすべきことなのかもしれない。

 だがその場合説得に時間が掛かる為、時間の浪費にも繋がるとなれば、我慢して説教を重んじる。


 「そうですね。僕も悪かったです」


 「そうだ!お前らは大体――――」


 大体と文章が繋がる時は長い話だ。

 長時間の説教コースの場合、先生に怒られながら読んでいる小説の続きの展開を自分でも想像しながら時間を潰す。


 「――――おい!吉条お前話を聞いてるのか?」


 「聞いてますよ。これから主人公がどうピンチを乗り越えるのかっていう話でしょ!」


 「お前一体何の話を聞いてたんだ!!!!」


 結局少し説教が伸びるのだった。


 「……災難なんですけど」


 生徒指導室から帰る途中思わず背後にいる三人を睨みつけて呟いてしまう。

 清水は平然と立っているが、隣の南澤、寺垣はバツが悪そうにソッポを向く。


 「まさかあそこまで怒られるとは思わなかったわ」


 「ほんとに勘弁してくれよ」


 南澤、寺垣は広告を色んな所に貼っていたがどうやら途中で面倒になり、もう昇降口に置いておけば誰か見るだろうと思い込み、そのまま置いて帰ったらしい。

 残念なことに朝、昇降口の扉が開かれた瞬間風で飛ばされたことによって正門前の状況が作り上げられたらしい。

 そして何より俺が思っていたよりもバカだったということが今回の件で分かった。


 「頼むから巻き込むなよ。俺は平穏無事を掲げてるんだからな」


 「分かったけど今日も部活来てよ!」


 「へいへい」


 放課後に下校したい衝動を抑えながら部室に向かう。

 今日の出来事で本当にこいつらは校内放送で呼んでもおかしくないと分からされてしまう。


 「失礼します」

 

 そう言って部室に入ると清水が昨日と同じ場所に座り読書タイムに入っている。

 俺も家に帰って静かに読書タイムに入りたいと強く願う。


 「用があるの?」


 「無いけど、来なかったら校内放送で呼ばれるから来てんだよ」


 清水と他愛も無い話をしながら教室に入って気付いた。

 校内放送をしでかしそうな南澤と寺垣がいないことに!


 「南澤と寺垣は?」


 「さあ?私がここに来た時にはまだいなかったわよ」


 あいつら教室を出る時に既に居ないと言う事は俺より先に出て行った筈だったんだけどな。


 「よし。じゃあ帰るか」


 「さようなら」


 こいつは帰る気はないらしい。

 だが今回は文句を垂れてこようと言い訳が出来る。

 お前らがいないから今日は部活が無いと思って帰りましたと。


 少し気持ちが高ぶりスキップでもしてしまいそうな衝動に駆られながらドアを開けようとすると、


 「あれ吉条?トイレでも行くの?」


 ……こんなことだろうと思ったよ!


 扉を開けようとすれば、先に廊下にいた南澤が扉を開けて鉢合わせになった。

 だがふと気づいた。


 「お前らの後ろにいる奴誰だ?」


 南澤の背後には部活のメンバーにはいない女子が立っていた。

 呼ばれたことに気付いた様子で笑顔になり、


 「初めまして。私一年の泉愛華いずみあいかです。今回相談があって来ちゃいました」


 そこにはまあ何ともリア充でパリピのような輩が相談しに来てしまった。

 髪は茶髪と桃髪の半分を混ぜ合わせたような髪の毛をしているが、顔立ちは良く、スタイルもいい。

 自分でも理解しているのか、もしくは素なのかは分からないが、俺に対して腰に手を当ててモデルがポーズを取る様な仕草で挨拶してくる。

 どうしよう。もう既にこの依頼主で帰りたい気持ちになる。

 パリピのような常に元気でハイテンションと言わんばかりの輩が苦手だ。まあ逆に苦手じゃない奴の方が少ないとは思うが。


 「あ!清水先輩!相談乗ってください!」


 泉は教室に入ると真っ先に清水の所に向かう。


 「お前。案外知り合い多いんだな」


 「この子は元文芸部に入ってもらった子よ」


 「あーそういう事か。それでここにいるお前に相談って訳だな。納得した」


 関係なさそうなので帰ろうとすると、後ろから首根っこを南澤に捕まえられる。


 「何処に行くの?」


 「帰るんだよ。俺には関係ないだろ?」


 「関係大ありよ!この子が私達の部活に相談しに来たのよ!助けてあげないの!?」


 「清水が助けてくれるだろ。ボッチの友達もいない人間が居たところで変わらないって」


 「取り敢えずを聞く!」


 「分かった!聞くから俺を引きずろうとするな!犬じゃねえんだよ!」


 首根っこを持ちながら引きずろうとする南澤から離れる。

 運動をしているのかは分からないが、南澤は想像以上の力を発揮して男性生徒の男一人を本当に引きずる力を持ち合わせているので逃げるのは困難だし、もしも今の状況で逃げるとすれば短距離が唯一得意な俺は逃げ通せるかもしれないが、南澤なら学校放送で呼び出す可能性が捨てきれないので逃げ場はない。

 

 逃げ場のない道であれば適当に話を聞くのが得策なので黙って椅子に座る。


 「それで俺が聞いてもいいのか?」


 「全然大丈夫ですよ!むしろ男子の意見も聞きたいので!」


 この子は分かってない。

 今の流れで別に先輩はいなくても大丈夫ですよと言えば帰れたのに。

 本当に大丈夫だと言われたら少し悲しい気持ちもあるけどね!

 男心って難しいよね!


 「それで何があったの?」


 清水が初めに聞き、泉はあっさりと話した。

 それは彼氏がいて振りたいという、まあなんとも簡単で一行で終わってしまう話だった。


 「なんの問題もなくない?」


 寺垣が首を傾げながら真っ当な意見を呟くが、それ以外の答えなど無いだろう。


 「それがこの人別れてくれないんですよ!」


 寺垣の発言に食いついたのか泉が体を乗り出して言う。


 もっと詳しく聞くと泉はもうこの人に別れたいと言ったらしい。

 だが結果はもう少し考えてくれ。まだ付き合いたいという話だった。


 「いい彼氏じゃないか」


 俺は最近ではそんな男子は近年稀にみる良い奴だと思う。


 「カッコいいのかもしれないですけど、私はそもそも友達に誘われて一緒に遊んで流れのまま付き合ったんですけど、好きでもないのに付き合うのは不誠実だと思いません?」


 「一理あるが、付き合う前に好きかどうかは分からなかったのか?」


 「私は好きとか嫌いとか分からないんですよね。だけど、友達に付き合って好きになることもあると言われて確かにその通りだなって思い付き合いましたけど、やっぱり好きとかではないなって思って別れようと」


 泉の意見は正しいと言える部分も存在する。

 好きでもないのに付き合うのは彼氏の方に悪いのは事実だが、泉が悪い部分もあると本人には言わないがあるんだよな。

 

 そもそも、好きでもないのに付き合うのが駄目だろう。

 男子は勇気を振り絞り告白したのに、好きか嫌いかも分からない状況で付き合うと浅はかな考えで答えのは駄目だと断言できるが、


 「分かるよ!男子って諦めなくてしつこい奴とかいるんだよね」


 「本当に面倒な輩が多いからね!」


 泉の発言に対し、南澤、寺垣は頷いている。


 目の前に男子がいるのに男子批判の話をしないで欲しい。

 女子は付き合う、別れるなどの恋愛話になる度に男子批判の話をしているのだろうか。

 『お悩み相談部』にずっといたら女性不振になりそうな気がする。


 閑話休題

 話の論点がずれて話が先に進まないのは直ぐに帰れないので勘弁して欲しい。


 「どうするんだ?」


 泉は首を傾げてこちらを向く。


 「どうしたら別れてくれると思いますか?」


 無茶を言う。俺は付き合ったことのない歴=年齢だ。

 俺には別れるどころか、お付き合いを始める所から始めなければならないレベルだ。

 もしかしたら人と話す所から始めなければならないかもしれない。

 ……止めよう。

 自分で思って悲しくなってきた。


 「まず付き合ったことないから分からん」


 「あ、なんかすみません」


 「哀れね」


 ……おい。そんな悲しそうな目で見るなよ。

 南澤、寺垣のみならず清水にまでこいつ寂しそうな奴だ的な目を向けられる。


 「ま!まあそういう人もいると思いますよ」


 泉はちょっとテンパりながらもフォローの言葉を贈ってくれる。

 何だか急にこいつを助けてあげてもいい気がする。


 「お前らはどうしたらいいと思う?」


 モテるであろう三人に聞く。


 「私もまず付き合ったことないから」


 「右に同じく」


 「右に同じく」


 「は?」


 こいつら全員付き合ったことが無い……だと?

 清水はともかく、ビッチだと思ってた二人まで付き合ったことないとは思わなかった。


 「まあ、告白はされるんだけど、何だかピンとこないんだよね」


 「分かる!」


 南澤と寺垣は互いに顔を見合わせて笑っている。

 余裕だと思って油断していると萩先生のように婚期を逃して焦るぞ?

 心の中で言ってあげた。

 今言えば、それを南澤が次なる脅しとして使う気がするから口には出さない。


 「じゃあ、先輩はどうしたら諦めると思いますか?」


 泉はまたしても俺に聞いてくる。


 「そう言われてもな……」


 泉の話を聞いてから一つだけ案が浮かんだ。

 だけどリスクが高く、わざわざ他人の為に頑張る必要は皆無だ。

 自分で考えていて最低とも言える行為だと気付いている為知らないふりをして南澤か寺垣が代案を出すのを待つのが最適解だ。


 「……もう最近は何度言ってもきりがないですし、電話も沢山きてちょっと…怖いんですよね」


 「泉さん?」


 泉は独り言のように呟くが、俺以外の人間には聞こえていないようだ。

 難聴系ではなく、耳の良い俺には全部聞こえたが泉は俯いて顔を隠しているが悲し気な雰囲気がリア充ではない俺にも察せられた。

 清水も泉の表情で何かあると察したように声を掛けるが、一瞬陰りが見えた泉の表情は直ぐに消え、


 「――――い、いやー。やっぱ面倒だし無理ですかね?」


 気丈に振舞っているのか、頭の背後に手を置きながら泉は喋るが…脳裏では中学校時代での出来事が思い浮かんでしまう。


 『――――お前』

 『―――――取り押さえろ!』


 ……ハア。

 過去は忘れていた筈なのに、頭の脳裏にちらつくのは忘れ切れていない証拠だな。

 泉の暗い表情を見てしまったからには断れない。


 「おい。お前とその男を別れさせる事が出来たら俺の言うことを一つ聞くと約束出来るか?」


 清水以外の三人が驚愕染みた顔を見せるのは、本当に解決できるのかと疑っているのかもしれないが、泉だけは少し頭を上げて考える素振りを見せ、


 「エッチな事じゃなかったらいいですよ」


 ウインクしながら言うのだが、


 「興味ないんで」


 「それはそれで腹が立つんですけどね!」


 女心はめんどくさいものだと思いながらも助ける事が決定してしまった。


 「じゃあやるのは明日で」


 「明日は用事があるので明後日でもいいですか?」


 ……こいつ。本当に助けなくても良いのではないだろうか?

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