第3話 唯一の知り合い

 机や椅子等をこれから部室として扱う教室に持ち込んでから、南澤、寺垣から部活の概要を聞いた。

 『お悩み相談所』の部活は悩んでいる人がここを訪れて、その悩みを俺達がここで聞いてあげると、なんともテンプレでめんどくさそうな部活だった。

 だが『お悩み相談部』にした理由は不覚にも納得してしまう。

 他の文芸部、手芸部などは何か文芸に関する大会があればきちんと実績を残さないといけない。

 手芸部などは文化祭などで展示する物を作らなければならないが、この部活の場合何の実績も必要ない。

 ここに来た人の相談を受けたらいいだけなのだから。

 色々と考慮して『お悩み相談部』にしたらしい。この二人は考えていないようで考えていた。

 馬鹿とか思ってないから許してね?


 「……けどね。少し事情があってね」


 「事情?」


 南澤が今度は椅子を持ち上げて机の前に置き、座りながら呟く。


 「それが学校に部室で使える部屋が無かったの」


 「は?今ここを使ってるだろ」


 「ここは前の部活と合併したようなものなの。それでここは元文芸部で三人いたんだけど、二人は幽霊部員だったんだけど、残り一人がこの部室を使わせる代わりに、静かに本を読ませてくれるならこの部室を使わせてあげるってなったわけ」


 南澤はどうでもいいのかは知らないが、足を組みながら話すのだがスカートの中が見えそうなので止めて欲しい。

 自然と目がいきそうになるのを上に見上げて誤魔化して話を進める。


 「ほう。それでもう一人は?」


 「そろそろ来ると思うわ」


 「――――あら。ストーカー君もここの部活なの?」


 後ろから聞き覚えのある凛とし透きとおる様な声が聞こえた。


 恐る恐る背後を振り返れば、そこには黒髪ロングの超絶美人と言われている清水涼音しみずすずね

 容姿は完璧で勉強、運動全てにおいて出来る超人。

 唯一この学校で元中学の同級生である。

 こいつは美人だが学年女子ランキングでは十位内ぐらいだろう。理由としては一つ。顔だけで言えば学校一美少女なのかもしれないが、俺と同じであまり他人と話さないからだ。

 そんな清水が俺に対して濡れ衣であるストーカー扱いするとすれば、一つだけ思い当たる。


 「その名前止めろよな。どうせテストの話をしてるんだろうが」


 「あんた達知り合いなの?」


 寺垣が俺達を交互に指を差しながら言うがそんな縁ではない。

 他人も他人。

 たった一度関わったぐらいだ。


 「「違う」」


 「息ぴったりじゃない」


 そんなツッコミを受けるが決して俺達は知り合いではない。


 「こいつとはテストの順位がいつも一位差なんだよ」


 「……え?けど確か清水って学年一位じゃなかったけ?」


 寺垣がか細く呟いた。

 テストの順位を寺垣が知っているのは俺達の学校では今時珍しく順位を廊下に張り出される。

 寺垣は順位表を見て知っているのだろう。


 「こいつは毎回俺の上の点数を取って一位の座を譲らないんだよ」


 「もしかして吉条って二位なの!?」


 「そうだが」


 こいつは中学の頃から永遠と一位の座を譲らない人間だ。

 一位を取ろうと思っているのにも関わらずあっさりその上をいきやがる。

 中学の頃では勉強のライバルだと勝手に認定したが、清水は俺のことなど眼中には無いと思う。


 「吉条って見た目はあまり頭良さそうに見えないから意外よね」


 南澤に大変失礼極まりない言葉を送られる。


 「逆にお前が頭良かったら卒倒するレベルだ」


 「何ですって!」


 怒り心頭に拳を振りかざす南澤が突っかかるのを寺垣が宥めて抑える。


 「ていうか、お前が誰かのお願い聞くなんてあり得ないような話だな。どういう風の吹きまわしだ?」


 「彼女に借りが出来るからね」


 清水が一瞬南澤の方へ視線を向ける。


 「どういう意味だ?」


 「それは」


 「ちょっと!」


 何故かそこで南澤が叫ぶ。

 何だか一触即発の雰囲気で俺と寺垣はどうしたらいいか分からない。

 ていうか今すぐ帰って小説の続きを読みたい。

 なんてボッチの俺がこの雰囲気で言えるわけも無い。

 そんな猛者がいるのであれば、ここの間に入って喧嘩を止めて欲しい。

 ついでに俺の代わりに部活に入って欲しい。


 「分かってるわよ。ちょっとした冗談じゃない」


 先に清水が肩を落とし、降参したような感じで終わった。

 ……一体何なんだよ。

 女子って怖い!


 「その代わり読書させてもらうからなるべく静かにしてちょうだい」


 淡々と言いながら、清水もまた一つ椅子を持ってきて何事も無かったかのように読書を始める。

 すると、南澤、寺垣も同じく椅子を持ってきて机の前に置き、話し出す。


 ……何だろう。これ絶対に俺が必要ない気がする。

 ていうか、もう三人いるよね?


 「あのさこれって俺必要なくね?」


 「何で?」


 「何でじゃねえよ。これ三人いるじゃんか」

 

 「この澄ましたお嬢さんはいない時が多いから駄目よ。それに先生に言われたでしょ。あんたが就職するなら部活はした方が良いって」


 確かにその通りなんだが、この男子一人という空間がなんとも耐えがたいがもう気にしないことに決めた。

 小説の中では学園物の主人公も周りの女にチヤホヤされながらやってるしな。もしかしたら、俺もチヤホヤされながら生きていけるのかもしれない。

 全くチヤホヤされたいとも思わないがそこは気にしない。気にしたら負けな気がする。


 「分かったよ」

 

 「なら決りよ!ってことで広告を配りましょ!」


 「広告?」


 「これ!」


 そこに書かれたのは何と俺達の名前と『お悩み相談部』という名前が書かれた部活の宣伝であった。

 ……因みに普通に俺の名前が書かれているんだけど、何時から入ることが決まってたのか詳しく尋ねたい。

 しかし、今は名前など気にしている場合ではない。

 万が一広告を見た人間が相談に訪れるかもしれない。

 それだけは非常にめんどくさい。


 「これは別に貼らなく」


 チラシを貼ることを拒否するよりも前に、


 「これを貼ってきて!」


 「は?」


 南澤は俺に殆どのチラシを持たせる。

 しかも結構量があるんですけど。

 それに何で俺?

 だがここで救世主が現れた。

 携帯が鳴ったのだ。

 慌ててスマホを覗き込むと妹からのメールがきていた。


 『お兄ちゃん。遅いけど誘拐でもされたの?』


 ……こいつ縁起でもない。

 しかし何も返さないのも悪いので返信はしておこう。


 『誘拐された』


 あながち間違っても無い。こいつらに誘拐されたと言っても過言ではない。

 返信すると、妹もまた携帯を見ていたのかすぐにメールは返ってきた。


 『そう。そろそろご飯できるからなるべく早く帰って来てね』


 この妹はバカなのだろうか。誘拐されて早く帰ってこれたら苦労はしない。

 だけど、妹も寂しいのかもしれない。

 なんて可愛い妹だ!

 よって帰ることに決定。


 「妹が早く帰ってこいってうるさいから帰るわ。本当なら貼りたいんだけど妹は一人で寂しいだろうから、帰らないと可哀そうなんだよ」


 カバンを持ちドアの前まで行くと、


 「うーん。なら仕方ないけど、明日も来ないと学校放送で呼ぶからね!」


 「こえーよ!」


 南澤の全く冗談に聞こえない小言を耳に扉を全力で閉めて、可愛い妹の為に帰宅するのだった。

 

 「ただいま」


 「あれ?まだ帰ってこなくて良かったのに」


 全然可愛くない妹である。


 「お前が心配のメールしたから早く帰ってきたんだぞ」


 「お兄ちゃんってシスコンなの?私そんな気ないからごめんね。きっといい人見つかるよ」


 「何で俺がお前に振られて慰められてんだよ!おかしいからな!」


 「まあ。お兄ちゃん、ご飯できたから食べよ」


 こんなやり取りを続けても俺が勝てないのは分かっている。

 妹は常にマイペースで生きている。

 俺とは反対の人間だ。

 本当に困っちゃうよね!


 「……ハア。そうだな。いただきます」


 今では家だけがオアシスであり、安寧の地だ。何事も無く今日も一日が終わった。

 部活?もう忘れました。


 ~翌日~


 学校の校門を通り過ぎて唖然とした。


 「――――なんだこれ」


 所々に昨日見たはずの広告が学校の正門近くにばら撒かれ落ちていたのだ。

 無遅刻無欠席を心がているので、早めに登校したがまばらに人が校門前に落ちている紙を眺めている姿は見受けられるが……何が起きてるの?


 「誰だ!こんな変な紙をまき散らしてるのは!?」


 体育教師であり生徒指導である男前のナイスガイな剛将司ごうまさし先生が何時も朝校門前に立って挨拶しているのだが、今日も張りきって声を上げている。

今日も平穏な日常が送れない気がした。

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