3.名作主義者は寂しい。

 名作主義という言葉をTwitterでみかけた。


 辞書に載るような言葉ではなく、ニュアンスとして使ったものと思われる。

 SNSはその場の思い付きで造られる語が沢山あるが、名作主義もその一つで、(前後の文脈を踏まえて)意味するところは何となくわかる。

 

 名作主義。


 それは、「名作」と言われる作品を嗜好し、また、自身が創作するときに名作を拠り所とする考え方である。少なくとも、ここではそう定義する。


 「名作」とはなんだろう。以下に例を挙げてみる。

 映画の世界では『街の灯』『七人の侍』『2001年宇宙の旅』『道』、

 アニメーションの世界では『雪の女王』『AKIRA』『トイ・ストーリー』、

 文学の世界では『風と共に去りぬ』『人間失格』『罪と罰』『狂人日記』。


 これらは、名作と呼んで差し支えないだろう。

 いずれも古典的であり、高品質であり、普遍的である。


 名作主義という言葉には、このような作品を嗜好し、一方でB級とか低俗とか安っぽいものを拒絶するという意味もあるように思える。上質なものだけを味わっていたいという保守的な側面があるのだ。


 私もまた、名作主義者といってよい。

 より自虐的にいえば、古典主義であり懐古主義であり、名作主義者である。


 たとえば、私がガンダムにハマったのは2000年代のときだが、当時放送されていたものにはほとんど興味を持たず、初代や宇宙世紀シリーズを偏愛していた(最近はそうでもない)。

 

 そんな名作主義者となると、どうなるか。 

 

 ①大抵のネット小説が苦手になる。

 ②大抵の流行を嫌悪する。

 ③流行語を使ったり流行に共感した瞬間、激しい自己嫌悪に陥る。

 ④分かってくれる人が少ないから、寂しい思いをする。 

 ⑤そして、よく考えるようになる。「名作」ってなんだ? と……。


 ⑤まで来た名作主義者の私は、やがて自分で名作を探すようになった。

ここで、私が思う名作を列挙しよう。


 映画では『コマンドー』『メンインブラック』『ビバリーヒルズコップ』、

 アニメーションでは『ザンボット3』『とらドラ!』『キングオブプリズム』、

 文学では『命売ります』『涼宮ハルヒの憂鬱』『太陽の塔』。


 その偏りぶりが分かるとおもう。最初に上げた作品たちとは、明らかにタッチの違う作品たちである。或いは、軽薄であり、荒削りであり、精細さを欠き、中には商業的な成功に恵まれなかった作品もある。しかし、いずれも名作である。少なくとも私の中では。


 ここで言いたいのは、「名作」とは曖昧で相対的な思想ということだ。


 世の中には「名作」という箔を付けられた作品が数多く存在する。国内のネット小説の世界では、『転スラ』や『Re:ゼロ』は名作と定義されるのかもしれない。


 繰り返すが、名作というのは、あくまで相対的なのだ。


 私自身の体験として、宣伝や口コミで「名作」とか「最高」と言われたものも、いざ見てみると「うーん」となったりする。


 怒りや呆れを覚えることもあるし、少なくとも作品の好き嫌いの理由を言語化できる自分が、素晴らしいんだかもったいないんだか分からなくなるときもある。

 

 名作主義者は、ときに寂しい。

 

 『君の名は。』を観てどう思うか。

 『サマーウォーズ』を観てどう思うか。

 『鬼滅の刃』を観てどう思うか。

 

 名作という基準は、他人・世間の物差しがあり、自分の物差しがある。

 名作主義者が寂しいのは、名作の絶対の基準を、他者と完全共有することが出来ないからである。

 各人が作品から受けるクオリアを、完全に解明出来ていないからである。

 

 ここまでをまとめると以下のように言える。


 ☆名作主義者は、ともすると古典主義、懐古主義と強く結びつく。なぜなら、名作の定義は決まっておらず、各人の物差しで測られるからである。


 しかし、名作主義も、一概に悪いわけではない。

 積極的に捉えれば、かなり強い思想だとおもうのだ。


 それは、名作主義者は名作が持つ特性を理解することで、その特性を持つ他の作品を発見し、それを受容できるということである。


 ではまた。

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