ところで、地獄はどこですか
「うーん…飛び出してきたものの、地獄ってどうやって行けば良いのかしら?
そもそも堕天使ってどうやってなるのかしら?」
天国を出てきたものの、降りたところは人間界。
人は見当たらない。
樹海と呼ばれるここは、あまり人間が好む場所ではない。
この国で最も大きな活火山の麓に広がっていて、未開の地でもあるからだ。
先の大戦の時にはここから地獄の入り口が開いていたのに、休戦中の今は地獄への道はない。
天使では地獄への道を開けない。
堕天するか、地獄から開いてもらうしかないのだ。
困った。
「大声で呼んでみたら来てくれるかしら」
地獄の王の名を世界の中心で叫んでみるのはどうだろうか。
別れてから何度あの方の名前を呼んだだろう。
一度も返事はなかった。
でも、それは天国だったからかもしれない。
ここは人間界。
地獄のお隣。
だから、ここならあの方に届くかもしれない。
先の大戦の最後、私は確かにあの方に向かって叫んだ。
何度も。
──────私も、連れて行ってください。
あの方は、是、とは言わなかった。
頷くこともなかった。
だから、やっぱり返事はしてくれないかもれない。
「しまった…あまりにも思いつきすぎて、どうして良いのかわからないわ」
下準備が必要だったようだ。
「ミカエルさま」
上から声が聞こえる。
「サマエル」
天使がいた。
良く知っている顔だ。
二枚の羽根は大きく羽ばたいているが、音はない。
男性とも女性とも見える、きれいな顔立ち。
茶色の髪が耳の近くで外側にはねている。
「地獄への門をお探しですか?」
「そうです。死天使のあなたなら地獄へ行けるのかしら?」
「私が行けるのは同じ地獄でもタルタロスです。ウリエルさまの支配下ですので。
ただ、魔王への伝言は預かりましょう」
「あら、サマエル。あなたが天使であると同時に堕天使でもあるといううわさは本当だったの?
ウリエルの支配下でありながら、同時にルシフェル様にも仕えているとうこと?」
天使サマエル。死をつかさどり、死者の魂をタルタロスへ運ぶ者。
ただ、ウリエルとともに最も地獄に近く、二心あり、と言われている。
「私はただ、神のお言葉に忠実なだけですよ。
魔王への伝言は私がタルタロスにいる地獄の門番にお願いすることが出来る、というだけのこと。タルタロスの門番はゲヘナとタルタロスを行き来できます」
私はサマエルに手紙を託すことにした。
ルシフェル様は、きっと読んで下さる。
それは、確信できる。
だから、手紙を書こう。
問題は、何を書くかだ。
「地獄へ入れて下さい…ダメよね。会いたい…ダメか。
あなたの弱みを知っている…これなら…」
とても天使とは思えないつぶやきが聞こえるな、とサマエルは思ったが、言葉にはしなかった。空気を読んだからだ。
とにかく、ミカエルは手紙をかくことにした。
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