魔王の命
影山洋士
第1話
魔王は悩んでいた。これからどうするのかを。
人類はもう一人も存在しない。全て魔王が殺したからだ。部下の魔物も消した。殺すべき人類がもういないからだ。
魔王はそこでハタと気づいた。
一体これから何をすればいいのか?
人類を滅亡させることばかり考えていて、その後何をするのかは全く考えていなかった。
魔王は魔王城の玉座の上で肘あてに肘をつき考える。
あの少しは骨のあった勇者とやらを蘇らせてみるか? また闘うのも一興だ。
そこで魔王は気付いてしまった。自分には人を蘇らせる力なんてないことを。
そんな能力は必要のないものだったからだ。
そう、自分の能力は全て破壊の方向に向いているものばかりだ。人間を、建物を、山々を破壊することは出来る。
しかし命を蘇らせることに関しては、虫一つの命すら再生させることは出来ない。
「命……。命とやらを作ってみるか」
魔王は命を作り出すことを始めてみた。
しかしながらいきなり人間を作り出すことはできない。まずは植物からだ。
魔王は魔王城の前にある毒の沼地を吹き飛ばし、そこの土を耕すことから始めた。種は人間の農地にあった。
耕し、水を撒き、ひたすら待つ。
そうこうしていると小さいながら瑞々しい若い芽がひょっこりと顔を出した。
「おおー、これが芽なのか」
そして魔王は栽培を続け植物を育てていると、どこからか草食動物たちもやってくるようになった。
そこから数十年、魔王城の前には豊かな森が広がっていた。
「ここまできたか」魔王は眼前に広がる森を前に満足げな顔をしていた。
焦げ臭い匂いに魔王は目を覚ます。
魔王城の窓から見下ろすと森が燃えていた。
急いで森へと降りる魔王。
するとそこには異界からやってきた勇者のパーティーがいた。
「来たか、魔王! 成敗してやる!」
「お前たち、なんてことを……。お前たちは命が何か分かっているのか?」
「命? 人間を殺しまくった魔王が何を言っている?」
魔王は何も言い返さなかったし、勇者たちに抵抗もしなかった。
魔王にとって森は自分の命そのものであったので、生きる理由がなくなってしまったからだ。
魔王を殺したのは小さな一つの「芽」だった。
了
魔王の命 影山洋士 @youjikageyama
★で称える
この小説が面白かったら★をつけてください。おすすめレビューも書けます。
カクヨムを、もっと楽しもう
カクヨムにユーザー登録すると、この小説を他の読者へ★やレビューでおすすめできます。気になる小説や作者の更新チェックに便利なフォロー機能もお試しください。
新規ユーザー登録(無料)簡単に登録できます
この小説のタグ
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます