いつでもどこでもお兄ちゃん

【番外編】初等部卒業式

私の小学校の卒業式にもちろん、お兄ちゃんは出席した。

制服を着て、胸に後輩がつけてくれたコサージュをつけて、堂々と卒業証書を受け取る私を写真に撮ろうと舞台下に出てきて、顔なじみの初等部の先生に名指しで怒られた。


「喜多嶋~!またお前か!そもそもお前は三神の親族ですらないだろう!」


「だって先生、紗智の晴れ姿は今しか撮れないんですよ!シャッターチャンス逃したら一生後悔します!」


「だから!親御さんに頼んで写真をもらえば良いだろう!関係のないお前がここにいる理由がないだろう」


「理由ならあります!僕は紗智の婚約者ですから!」


「ばっかもん!婚約者だろうが今は赤の他人だろうが!」


「じゃあ今すぐ入籍させてください!」


「俺に言うな!!」


 という、アホな会話が続いて、校長先生がのんびりマイクでつぶやいた。


「長谷川先生、喜多嶋君、二人とも三神君とは無関係だし、他の卒業生とも無関係だからね、静かに退出しようか。長谷川先生は三神君を大学部へ棄ててきて」


 校長先生に名前知られてて、その行動を驚かれもせず、粛々と対応されるお兄ちゃんにもはや誰も驚かない。イベントごとの当たり前の光景だとして保護者席からも生温い視線を感じる。

 のちに、これこそが、私が初等部6年間での最大の成果だと長谷川先生に言われた。そして、今後大学部まで変わらない光景だろう、と。


 当然と言えば当然だが、ここは私立の学校だ。

 お兄ちゃんも同じ学園の大学部。

 ということは、先生がお兄ちゃんの事をよく知っている、ということも当たり前にある。長谷川先生がそうだ。

 長谷川先生はお兄ちゃんの初等部6年生の時の担任のため、毎回喜多嶋係として駆り出される。

 中等部に進学する予定の私だが、すでにお兄ちゃん係として、お兄ちゃんが中等部の三年間お世話になった担任が私をのぞきにきたのはつい先週のことだ。

 入学式の案内に「入学式は二親等内の親族に限る」という文章が掲載された。担当の先生が苦労する未来しか見えない。

 中等部には外部からの入学生が一クラス分いるが、すでに内部生を通じてお兄ちゃんと私の存在を知っているらしい。

 おかしい。勉強も運動もいたって普通で目立つことなどしていないのに。


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だって、お兄ちゃんが! 宮條水城 @sarusennsei

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