だって、お兄ちゃんが!

宮條水城

となりのお兄ちゃん

 生まれたときから、お隣に住むお兄ちゃんで。

 お互い一人っ子で、10歳も離れていたけれど、いや、10歳離れていたからこそ、私にとってはお兄ちゃんが絶対だった。

 お兄ちゃん子だという自覚もある。

 そうでなくともお兄ちゃんはイケメンなのだ。

 ただ、10歳も離れていたから、恋愛になんてならなくて、ただただ、お兄ちゃんだと思っていて。

 そのはず、で。


 はじめてお兄ちゃんに告白されたのは、幼稚園児だったころ。

 

「お兄ちゃん、明日ね、優輝ゆうき君がお家に来るの!

 だからね、ママとクッキー焼いたんだよ。優輝君に食べてもらうんだ~。

 あ、お兄ちゃんの分もあるよ!焼きたて!

 はい、どうぞ」


 当時の私は、しょっちゅう、というか、毎日お隣さんに行っていた。

 お兄ちゃんは私が通っていた幼稚園と同じ私立学園の中等部三年生で、部活動がなければ寄り道せずに帰ってきていた。それに、自転車通学だったので、自転車が玄関に置いてあればいるということを知っていたのだ。

 

「ありがとう、紗智さち


 早速袋をあけるお兄ちゃん。

 クッキーを取り出してパクリ。

 もぐもぐもぐ。


「どう!?おいしい!?」


 にっこり笑うお兄ちゃん。


「うん、おいしいよ。

 …ねぇ、紗智」


「なあに?」


「紗智は、優輝君が好きなの?」


「うん!大好き!

 優輝君はクラスで一番イケメンなの!

 ママたちも言ってるよ、優輝君はイケメンで、パパがお医者様だから将来有望ねって」


「紗智は、優輝君と結婚したいの?」


「そうだよ!」


「そうなんだ…」


 お兄ちゃんが泣きそうな顔をした。

 私は驚いてお兄ちゃんを見上げる。


「お兄ちゃん、どこか痛いの?

 悲しいの?」


「紗智、僕、紗智が好きだよ」


 私も、お兄ちゃんが大好き。

 だって、お兄ちゃんだもん!


「だから、お兄ちゃんと結婚しよう?」

「うん!わたし、大きくなったらお兄ちゃんのお嫁さんになる!」


 優輝君との結婚は一瞬で忘れ去られた。 

 あの頃の無邪気な自分を殴ってやりたい。

 でも、まだ幼稚園児だったし、大人も認めるイケメンで、自分だけに甘い男の人にそんなことを言われたら絶対喜ぶでしょう!?

 たぶん、私に罪はない、はず。

 だよね?


 ──────それから10年。

 あの時のお兄ちゃんに追いついて、15歳の誕生日まで、あと少し。


「紗智、来年は16歳だね、結婚しようね」

「はあぁぁぁぁぁ!?」


 お兄ちゃんは、どうやら本気だったみたいです。

 誰か助けて。

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