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「え、なに? さっきの紙に電話番号が書いてあったの?」
「はい。どういうわけか謎解きになってましたけど……きっとそうです」
虫食い状態の「必読書リスト」から浮かび上がった、電話番号と思しき数字。
「理子さん、これ、
「本のリストは、もともと手帳の『連絡先一覧』だった紙に書かれていた……そこから名前と電話番号が出てきたわけだから、一致してるよね。この連絡先を伝えるために、本の謎解きがつくられたってことなのかな」
理子と
「財布の持ち主につながるヒントなんでしょうか? どうします、これ?」
通路に立つ
「いいよ、店の電話使っても。乗りかかった船だ。かけてみたら?」
「本当ですか? ありがとうございます! 理子さん、早速かけてみてください」
「え、また私?」
「……実は、電話で話すの得意じゃないんです……すみません、甘えちゃって……」
友香が申し訳なさそうにペコリと頭を下げる。対照的に理子は、やれやれといった風に肩を少し持ち上げた。
(……知らないひとにいきなり電話するなんて私も緊張するけど……まあ、相手の名前は知ってるわけだし……)
「わかった、やってみる。マスターすみません、電話お借りします」
「うん、こっちおいで」
理子が席を立って、小山内の背中を追いながらレジのほうに向かう。白いレースのクロスがかけられた台の上に、ファックスと一体型のグレーの電話機が置かれていた。小山内から受話器を受け取ると、無意識に深呼吸する。
「……じゃあ、川端さんに電話してみます。もしつながったら……なにを話したらいいんでしょう。とりあえず、お店の忘れ物の財布からこの電話番号が出てきました、って言えばいいのかな」
気になってそばまで来ていた友香と
「では、かけてみますね……丸井さん……よーろしく、と」
「必読書リスト」から出てきた言葉を
「つながりましたよ……出るかなあ、川端さん。あー、緊張してきた」
四度目の呼び出し音がトゥルルで止まって、『もしもし』という若い男性の声が飛びこんできた。理子の心臓がばくっと大きく鼓動する。
『
「……え……ま、まるい……?」
「川端です」と言われるものと決めつけていた理子は、予想外の流れに言葉を継げなくなってしまった。
『はい? 丸井青果店ですが』
「あれ? えっと、あの……」
『……イタズラなら切りますよ。ったく、最近なかったのに……もしもし?』
受話器越しの声がはっきりと
「あ、あの、すみません。
『……いま、なんて? 川端?』
男の声色がふたたび変化した。今度は疑念、あるいは不審だろうか。理子が手短に経緯を説明する。聞き終えた男は深いため息をついて、絞り出すように言った。
『……川端……俊哉は亡くなりましたよ。四年、いやもう五年前です』
「え……」
『そんなイタズラをする人間は一人しかいません。そちらの連絡先を教えてもらえますか? かならず取りに行かせますので』
言葉の中身とは裏腹に、男の声から怒りは感じられない。呆れているように聞こえるものの、穏やかな口調には不思議なぬくもりがこもっていた。理子は受話器を耳にあてたまま振り向いて、レジに置いてある「クレール」の名詞型のカードを取ると、住所と電話番号を伝えた。
受話器を置いた理子が、様子を見守っていた大道寺たちを見回す。全員が狐につままれたような顔をしている。
「……財布、取りに来るみたいです」
*
翌日のお昼休み。理子が哲学専攻の共同研究室でお昼を食べていると、研究室の電話が鳴った。電話に出た助教の
「
「え? マスターが私に電話ですか?」
食べかけの「サタド」のドーナツを紙ナプキンの上に置いて、理子が丸山のデスクに向かった。軽く呼吸を整えて、受話器を受け取る。
『もしもし? 小山内だけど。ごめんね、突然。電話番号知らないから。大学のほうなら連絡つくかと思って、調べてかけちゃったよ』
「いえ、大丈夫です。どうしたんですか、急に」
『忘れ物の財布の件。さっき電話があってさ、取りに来るって』
「ほんとですか! よかったです」
『……それがさ、なんかおかしなこと言っててね』
「おかしなこと?」
『うん。財布は忘れてない、とか、私のものじゃないかもしれない、とか……いまひとつ要領を得ないんだけど、とりあえず取りには来るらしいんだ』
「?」
『でね、もし可能なら、見つけてくれたひとにお礼を言いたいんだって。変だよな、別にお金が入ってたわけでもないのに。そりゃあ、落とし物は落とし物だけど』
「そうなんですか……わかりました。じゃあ、
『ごめんね、わざわざ。コーヒー、サービスするから。二人にもよろしく言っといて』
同じ週の木曜日。四限の授業後に友香と待ち合わせた理子は、六時に「クレール」に向かった。大道寺とは店で直接合流することになっている。
ドアを開けて、いつものようにカランカランと鈴の音を響かせる。前の週と比べると店内は
(続く)
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