第7話

夕方。空港へとやってきた志麻とエイブ、アドラーの前に黒ずくめの男がスーツを着たサラリーマン風の男達に連れられてやってきた。

搭乗手続きを終え、待合室で座っていた三人に近寄る男は座らずに威圧を込めて低く鼻を鳴らした。

「我々は君たちの護衛だ」

眉根を寄せた黒ずくめの男は、不満げに眉を吊り上げた。

「護衛?ふざけるな。私はすぐにでも」

言い終わるよりも早く、志麻は無事な方の腕で男に掴みかかる。

「あんたが!―――裕子を!よくもぉぉおお」

首を絞めようとする志麻を、男は不思議そうに見ると次の瞬間満面の笑みでその手を掴んだ。

「ああ。君か!君がSさんか!会いたかったんだ」

嬉しそうに微笑みながら手を包み込む男を、志麻は睨みつけ逃れようと必死にあがく。

「離して!人殺し!殺してやる」

「ああ。ああ、なんていい子なんだ!殺してくれるのか」

流石は私が愛した人だ。そう男は言いながら志麻を愛おしそうに抱き締める。

「愛しているよ。愛しい人、さあ一緒に死のう」

「一人で死ね!」

ざわざわと注目を浴びる二人をげっそりと見て、エイブは拳を振り上げ勢いよく二人の頭上へ落とす。これは始末書ものだな、と思ったが既に遅い。

「なぜ、私がこの下劣な奴の護衛をしなければならないんだ……」


うっふりと笑うアドラーは歌うように機嫌よく言った。

「ああ、阿保なヤンデレは救いようがないわね」

かくして件のテロ事件は一件落着したのである。


**********


”事実は小説より奇なりと申しますが、私が体験したことこそ正にその言葉に沿う事態であり、不測の事態を予知することが誰に出来ましょうか?

私が始末書を提出し、自分自身の不始末を責任をもって清算することは既定路線であり、不服などあろう筈もございません。”


そう真摯に告げた彼、エイブ・アーサー・ロジャーズをじろりとねめつけてから、CPO最高顧問たる男はため息を一つ落とした。


「不始末の清算、それ以上の任務である事は理解しているのかね」

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