第4話

―――それでは次のニュースです。

本日未明、タイムズスクエアにおいて起こったテロ事件ですが、首謀者は未だ特定されず国際テロ組織「Stupid(愚鈍)」の仕業ではないか等と憶測が飛び交っていますが、犯行声明は出されておらず別の組織の犯行である可能性も否定できません。政府は緊急会見を本日中にも開く方針で、原因の説明があるものと見られます。近隣住民の方や職場で被害にあった方も多く、合計被害者数はおよそ百三十人に上ると見られており、今後の政府の対応に注目が集まっています。

―――そ、速報が入りました!

先程ホイットニー美術館において、突如火災が発生し観光客含め数十名が避難中であるとの事です。詳細は不明ですが、現地付近では黒い服の男が大声で叫んでいるとの目撃情報があり、近隣住民及び付近にいらっしゃる方は直ちに避難をすると共に身の安全を第一に考えて行動してください。繰り返しお伝えします。

先程ホイットニー美術館において、突如火災が発生し観光客含め数十名が……。


ドアが開く音を聞きながらも志麻はテレビの前から動けずにいた。シャワーを雑に浴びた後、ルームウェアに着替えてふとテレビを見たのだ。流れる映像はニュースキャスターが必死に英語で何やら話しているもので、英語の勉強を学生時代に齧った程度の志麻では理解出来ない。だというのに何か言い知れぬ恐怖が体の中を駆け巡っていく感覚にただ立ち尽くす。


「ああら、ずいぶん派手にやってるわね」

うっとりするようなアルトボイス、女性特有の心地良い低音。志麻は自分の体が機能する事を確かめるようにゆっくりと振り返った。

「あなたは」

その美しさに思わず声が途切れる。何て綺麗な人だろう。白い肌に緩やかにウェーブする褐色の髪を見ていると、かの有名な鍾乳洞を思い出した。瞳の色は鮮やかなエメラルドグリーン。繊細な色合いからは一見か弱い印象を受けるものの、彼女と目を合わせるとか弱い印象など消え去っていく。

力強く美しく、そしてなにより圧倒的な存在感。志麻はこんな女性と会うのは初めてだった。志麻の問いに首を傾げる彼女に見惚れ、ああ神様は不平等で良かったのだと実感した。

「なんでもありません。ごめんなさい」

「いえ、いいの。こちらこそ急にお邪魔してごめんなさいね」

笑いかけられると体が沸騰しそうな程に熱くなった。何故だろう。恥ずかしい。

「エイブから聞いていないかと思って心配で来てしまったわ」

「エイブ……さんが、どうかしたんですか」

あの男は確か私が一人になりたいと伝えると、気遣わしげに微笑んで何処かへ行った筈だが、何かあったのだろうか。

「いえ、貴方の護衛任務なのだけど、私も就くことになったから」

よろしくね、と微笑む美女に様々な疑問が頭を駆け巡るも、それどころではない。返事をしなければ。卒倒しそうになりながら、志麻は何とか笑い返した。

「よ、よろしくおねがいします」

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