第36話イケメン、苦悩する

先日のホームパーティーのあと、高城ダニエルは、いつになくふさぎこんでいた。

仕事を終えて部屋に帰り、ソファーにもたれかかって、ウォッカをロックで飲んだ。頭の中には、後悔と失意がくり返しうごめいている。

理由は、もちろんカレンとことみのことだ。ふだんから冷静で実直な性格の高城だが、今回ばかりはさすがに心が滅入った。



あのとき、なぜことみさんに、はっきりと説明しなかったのだろう。かつては仲むつまじい恋人だったカレンだけれど、今の気持ちを問われれば、正直いって悩みの種でしかない。

カレンには申しわけないけれど、七年間の隔たりは大きかったんだ。彼女に対する信頼は、カルテックを卒業してから、一緒には日本に帰らないと告げられた時点で崩れてしまっていた。


それからというもの、心にぽっかりと開いた穴を埋めるように、僕は仕事と趣味に没頭した。


幸い、ファッションデザインとショップ経営のビジネスは、順調にスタートを切れた。とはいえ、まだ二十代にすぎない若さで業界の荒波を乗り切るには、毎日が激務の連続だった。

ストレスを少しでも軽くするために、空いた時間で、モデルの仕事と趣味のDJをやりながら、なんとか気分転換をしていたっけ‥


表参道に、自分がプロデュースするブランドのZONEを出店して、新入社員だった美波さんと二人で懸命に働いた。

それから五年、店の経営も安定して、オリジナルブランドの人気は若い女性の間で定着した。収入も、同じ年代のサラリーマンをはるかに上回り、公私ともに順風満帆の人生を歩んでいた。


けれども、七年前に心に負った痛手は、けっきょく仕事ではぬぐいきれなかった。遊び仲間のセイヤや女の子たちと、朝まで飲んで気晴らしをしても、部屋に帰れば、どうしても過去の苦い思い出に心がとらわれてしまった。


そんな毎日が続いていたとき、出会ったのがことみさんだった。


彼女の瞳を見たとき、それまで僕の心をおおっていた暗い闇は、一瞬にして晴れた。そこに見えた柔らかい光に、吸い込まれるような気がした。

この人とは絶対に、このまま別れたくないと思った。だから、自然と身体が動いた。あんなに積極的にアプローチしたことなんて、今までいちどもない。この女性とめぐり合ったことは、運命とさえ思った。

ことみさんは、そんな僕をさぞかし不審に思っただろうなあ‥でも、強引に行動してよかった。それから何度も会ううちに、彼女の純粋さに僕はどんどんひかれていったんだ。今はもう、彼女なしに生きることは考えられない。


それなのに‥


僕は、大切な人の心を傷つけてしまった。このままことみさんを失う‥そう考えただけで、胸が引き裂かれる思いだ。

おそらく彼女は、僕との関わりをこのまま避けるだろう。カレンがフィアンセと宣言した時点で、ことみさんは心を閉ざしてしまったに違いない。


どうしよう。誤解を解こうにも、電話で説明するなどという軽い状況じゃないし、だからといって僕から会いたいなんてとても言えない。

こんなに悲しくて苦しいのに、どうしたらいいのかわからない。ああ、ことみさんに会いたいな‥



そんな高城ダニエルの苦悩は、しばらく続く事になる。

だが、その状況は、意外なところから打開されることになるのだった。もちろん、いまの彼はそれを知るよしもない‥

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