第26話セイヤ告白する
「ちなみんさあ、今日は折り入って話があるんだよ」セイヤこと加賀美誠は、隣でジャスミンハイを飲んでいる橘ちなみに顔を向けた。
「ん、なあに?」と言って、ちなみは振り向いた。「何か相談ごとでもあるの?」
「う〜ん。ていうかさあ、ちょっと言いにくいんだよね」セイヤが珍しく言いよどんだ。
2人は、渋谷のクラブ《ランスロット》のVIP席で、gogoダンサーのライラとともに酒を飲み交わしていた。ちなみとライラは、DJブースから流れてくるEDMの曲に合わせて身体を揺らしてした。
このクラブは、ちなみが常連のホームグラウンドだが、今夜はセイヤが声をかけて3人で集まった。じつは、セイヤとしてはちなみと2人で会いたかったのだが、そんな気持ちも知らずに、ちなみはライラを誘った。
チャラい男で女好きで知られるセイヤだが、彼には数年来付き合っている彼女がいた。丸山里奈というその女性は、セイヤの5つ年下である。はじめの1年は熱々のカップルだったが、長年のマンネリとセイヤの浮気性で、最近はあまり顔を合わせたことがない。どちらからとも言わず、お互いに気まずい雰囲気の仲になってしまっている。
「あ〜、ちなみんさ、ちょっと聞きたいことがあるんだよ」ふだん口の軽いセイヤが、言葉に詰まりながら言う。
「だから、何なの?」セイヤのもどかしい態度にしびれを切らして、ちなみはやや困った様子でたずねた。「今日のセイヤ君、何かおかしいよ」
「あ〜、いや。その、じつはだな」セイヤはテキーラをあおった。「お前さ、健二のことどう思ってるんだ?」
「えっ、いきなりどうしたの?」ちなみはセイヤの突然の問いにびっくりして、ドリンクを飲む手を止めた。
「だからさあ、お前いつも健二のこと気にかけてるじゃんか。だから、ハッキリ聞きたいんだけど、あいつのこと好きなのか?」とセイヤはちなみにズバリとたずねた。
「え〜っ!どうしてそんなこと聞くの?それってあたしのプライバシーじゃない。セイヤ君に答える義理なんてないと思うなあ」と言って、ちなみはプイッと顔をそむけた。
「ありゃあ、ちなみん。ごめんごめん。機嫌直して、お願い」今夜のセイヤはほんとに様子がおかしい。ふだんから軽口をたたいてばかりのチャラ男が、妙に生真面目に話しかけている。
ちなみに、健二とは、セイヤの親友である高城ダニエルのことだ。確かにちなみは、いつも高城のことを話題にして、彼には見惚れるような態度で接している。なので、仲間うち、とくにセイヤのなかでは、ちなみは高城に気があるという事になっている。
だが、今夜はそんなちなみに、セイヤは思い切ったことを確認しようとしていた。男女の間柄について。
「ねえねえ、セイヤ君。何か相談ごとでもあるの〜?」DJブースを眺めていたライラが、セイヤのほうに身を乗り出してきた。
「え〜っ!ライラ、お前には関係ないんだよ。余計なこというな!」ちなみにだけ聞こえるように喋っていたつもりが、隣のライラに話を聞かれて、セイヤはあせった。
「だってさあ、いっつもチャラチャラしてるセイヤ君なのに、今日は様子が変じゃんか」ライラはタバコをふかしながら、横目でジロリとセイヤを見た。
ヤバい。これは困った。
セイヤは柄にもなく言葉に詰まって、額に冷や汗を浮かべた。きわめてシリアスな場面なのに、ライラに話が漏れてしまった。どうしよう‥‥。
セイヤが悩んでいると、ライラは何事もなかったかのように、再びDJブースのほうに顔をそむけた。おっ、これはチャンス!セイヤはちなみに身体を寄せて、先ほどの話を続けた。
「もういっぺん聞くけどさ、頼むから教えてくれよ。健二のこと好きなのか?」
「もう〜、しつこいなあ」ちなみはあきれた様子で、セイヤに向き直った。「まあ、そこまで言うなら教えるけどね。あたしにとって、健二くんはヒーローなの!顔も良くて、仕事もできるし、何より女性に対してすっごく紳士的。人間として完璧だから、尊敬してるわけ」
お、と言うことは‥‥セイヤは話を続けた。「と言うことはだよ。お前にとって、健二は恋愛の対象ではないわけなのか?そうなのか?」
「あたりまえじゃない!あたしが健二くんの恋人なんで、おこがましいわよ。恐れ多くて考えたこともないよ」ちなみは、なに当たり前のこと言ってるの、という口調で答えた。「ていうか、セイヤ君いったいどうしちゃったの?あたしの事やたらにしつこく聞いてくるし、何か変よ」
「うん、じつはさ〜。あの〜」
「ハッキリ言いなさいよ!男らしくないよ」ちなみは、セイヤの煮え切らない態度にしびれを切らしている。
「よし!じゃあ、言うよ!」セイヤは背筋を伸ばして、ちなみに正面から顔を向けた。
「俺と付き合わないか?」
ちなみの身体が固まった。ドリンクを飲む手が、宙に浮いた。
「え〜〜っ!」
「え〜〜っ!」
ちなみとライラが叫んだ。
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